大豆のすごいパワー|寝ていても筋力が40%増える理由
女性セブンの大人気企画『最強食品』シリーズで、過去6回のうち、『自然治癒力を上げる』『老化が止まる』『胃腸力を上げる』の最強食ランキングで堂々の1位を獲得したある食材がある。それは“納豆”。
その納豆の原料といえば“大豆”。この大豆こそが、年々衰えていく“筋肉”を支える、いや、それどころか食べるだけで筋力をアップさせる、スーパーフードなのだ。
体全体の筋力がピーク時の40%に減ると要介護に
デンマークのコペンハーゲン大学の研究チームが発表した報告によると、高齢者はわずか2週間、足をまったく動かさずにいると、筋力が23%も低下するという。筋肉量に換算すると250gも失うことになる。使わずにいる筋肉はあっという間に衰えてしまうのだ。
生体栄養学が専門で医師の徳島大学大学院教授・二川健さんによると、運動をしていても年を重ねると筋肉は減っていくという。
「筋肉量は20代をピークに、加齢とともに減少していきます。高齢者の場合、運動をしていても月に約2%ずつ落ちていく。そして、体全体の筋力がピーク時の約40%にまで減ると、要介護の状態になるといわれています。寿命を迎えるまで、筋力をその数値まで落とさないことが理想的です」(二川さん・以下同)
JAXAが解明した鍵となる大豆の成分とは
ところが、運動ができない寝たきりの人でも、毎日大豆を食べることで筋肉量や筋力をアップあるいは維持できると二川さんは言う。
二川さんは医師であると同時に、宇宙食の研究開発や宇宙で食料を自給できる工場開発などに取り組んでいる。宇宙飛行士は、宇宙での無重力空間では筋肉に負荷がかからないため、わずか数日間の宇宙滞在であっても地球に帰還した際には、歩行困難になるほど筋力が落ちる。そこで二川さんは、宇宙航空研究開発機構(JAXA)などと連携し、筋萎縮が起こる原因や改善策を解明。
大豆に含まれる2つの成分が大きな鍵を握ることを突きとめた。このような業績により、第3回宇宙開発利用大賞(文部科学大臣賞)を受賞した。以下、大豆が筋肉にどう作用するのかを見ていこう。
肉や魚にはない大豆特有の成分「大豆たんぱく質」
1つは、植物性たんぱく質の代表格である「大豆たんぱく質」だ。
「運動をすると筋肉が傷つきボロボロになりますが、運動をしていなくても、筋肉は加齢とともに筋萎縮が起こって劣化していきます。具体的には筋線維が破壊されていきます。それを体内で修復する役割をするのが『IRS-1』というたんぱく質です。ところが、宇宙飛行士のように筋肉を動かせない人や寝たきりの人、つまり運動不足の人は『ユビキチンリガーゼCbl-b』という物質が出やすくなり、筋線維の修復が阻害されてしまいます」
そこで、大豆たんぱく質が活躍する。
「肉や魚のたんぱく質と違い、大豆たんぱく質はIRS-1の“おとり”の役割をすることがわかりました。筋線維の修復を阻害するユビキチンリガーゼCbl-bがIRS-1を攻撃する代わりに大豆たんぱく質を攻撃するのです。つまり、大豆を摂ることでIRS-1が守られ、筋線維を修復し、運動をしなくても筋肉量を増やすことができるのです」
二川さんは、1日の半分を車いすかベッドで過ごす男女計11人に、1か月間、毎日8gの大豆たんぱく質を粉末にしたものを食事に混ぜて摂取してもらい、その効果を確かめた。すると、筋力が平均で約40%も増えたというのだ。
炎症を抑制する「大豆イソフラボン」
もう1つの重要な成分は「大豆イソフラボン」だ。
「最近の研究で、加齢による筋萎縮は、骨格筋に慢性的な炎症が起こっていると考えられています。このような骨格筋の炎症でも、筋肉が細くなってしまいます。その炎症を抑制するのが、大豆イソフラボンです」
加齢とともに代謝が落ちるのは、骨格筋の衰えが影響していたというわけだ。大豆には、血流を促すポリフェノールが豊富に含まれている。ポリフェノールには抗酸化作用があり、筋肉細胞の老化を防いでくれるのだ。
大豆たんぱく質は運動後に摂る
では、筋力アップのためには、大豆をどのように、どのくらい摂ればいいのだろうか。確実な筋力アップのためには、毎日食べ続けることが肝心だが、食べるタイミングにもコツがある。先に説明したように、ウオーキングや体操など、運動をすると筋肉が傷つき筋線維が崩れる。
「運動によって壊された筋肉を合成するにあたり、アミノ酸が必要になります。アミノ酸は早く代謝されるので、運動後にアミノ酸を多く含む大豆たんぱく質を摂取するのが効果的といえます。つまり、より効果的に筋力アップを狙うなら、運動後に大豆食品を食べるのがおすすめです」
管理栄養士の磯村優貴恵さんも、同様に運動後の大豆摂取をすすめる。
「大豆には筋肉のもととなるたんぱく質が豊富に含まれています。たんぱく質が分解されるとアミノ酸となり、筋肉と関係の深い必須アミノ酸すべてを網羅しているのです」
効果的な調理法「蒸し大豆」
では、大豆たんぱく質と大豆イソフラボンを効果的に摂取するには、どのような調理が適しているのか。
「食べやすさと栄養価の両面から見て、“蒸し大豆”がおすすめです。水煮にすると、捨ててしまう煮汁に水溶性の栄養素であるビタミンやミネラルが溶け出てしまうからです。蒸し大豆なら100gあたり、たんぱく質が16・6gも含まれる。サラダに混ぜたり、スープに入れたり、ご飯と一緒に炊き込んでもおいしいです。しっかりかめば口まわりの筋力アップにも役立ちます」(磯村さん)
スーパーなどでは、パッケージを開ければすぐに使える水煮大豆と蒸し大豆が並んで売られているが、水煮より蒸し大豆を選ぶ方がよい。
毎日摂取には納豆がおすすめ
大豆には、筋力アップ以外にも、特に女性が積極的に摂るべき効能があると話すのは、イシハラクリニック院長の石原結實(ゆうみ)さんだ。
「大豆イソフラボンは女性ホルモンによく似た働きをするので、更年期症状の緩和や、乳がんや子宮がんなど女性ならではの疾患予防にとても有効です」
毎日摂取するのに納豆を選ぶと続けやすく、効果も高いと石原さんは続ける。
「納豆には骨を強くするビタミンK含まれるので、骨粗しょう症予防にも効果的です」
さらにはこんな効果もある。
「肉や卵と違い動脈硬化の原因にもなるコレステロールがゼロ。食物繊維やオリゴ糖も含まれているため、腸内環境を整える働きもします」(石原さん)
これだけ万能と聞くと、大量に食べたくなるが、注意も必要だ。どんなに体にいい食材も、摂りすぎると不調の要因となるのは、大豆も同じ。大豆アレルギーのある人は摂取を控える必要がある。そのほか腎機能に不安のある人も要注意だという。
「たんぱく質の摂りすぎは、内臓に負担をかけることになります。たんぱく質を構成するアミノ酸には窒素が含まれていて、その窒素は代謝されるとアンモニアになります。腎臓はそのアンモニアをろ過するのですが、窒素をたくさん摂取すると、腎臓に負担がかかってしまうのです。また、生で食べるのは禁物です。生の大豆には毒素が含まれており、消化も悪い。必ず加熱調理する必要があります」(二川さん)
もちろん、加熱後の加工食品で摂ってもOK。木綿豆腐なら3分の1丁(100g)に大豆たんぱく質が7g含まれるので、みそ汁にしたり冷奴で食べたりと、毎日の食事で無理なく摂取できそうだ。 いくつになっても健康であるため、そして女性としての魅力を持ち続けるためにも、大豆は必要不可欠な食材であることは間違いない。
大豆たんぱく質の成分量
●豆腐
・絹ごし…8.0g(1/2丁)
・木綿… 7.0g(1/3丁)
※1丁300gとして換算
●納豆 6.6g
※1パック40gの場合
●豆乳 7.2g
※コップ1杯分 約200ccの場合
※管理栄養士の磯村さん監修
高齢者も積極的なたんぱく質摂取を
加えて、高齢になってからはこんな効果も期待できると二川さんは言う。
「筋肉が多いと、薬の副作用に耐えられる体になります。10年ほど前までは、腎臓の負担を考えて、お年寄りはあまりたんぱく質を摂らない方がいいといわれていたのですが、こうした効果もあって、最近では、高齢者にもたんぱく質の積極的な摂取をすすめるようになったのです」
“畑の肉”と呼ばれ、昔から日本人の食、そして体を支えてきた大豆。その底知れぬパワーは令和の時代、さらに見直されそうだ。
※女性セブン2019年7月4日号
●たんぱく質は体重×1gが必要!食材別たんぱく質含有量とおいしく摂れるアイデアレシピ