正しい骨の位置を知って体を動かす「アレクサンダー・テクニーク」で疲れを防ぐ
下のA子さんとB子さんが行っているのは、どれも私たちが日常的に行っている動作だが、B子さんに比べ、A子さんは日々、かなり疲れている。
立つ、座る、腕を上げる、かがむ…これらの動作のやり方が、日々の疲れや不調に、ひいては将来の姿勢や健康にもつながっているのだ。腰が曲がってしまったり、要介護にならないためにも、まずは日々の姿勢を見直しましょう!
上のイラスト中の※1~3を解説したイラストは、以下の通り。
※1:腕を鎖骨から動かし、上げている。
※2:腕は鎖骨を中心にふんわりぶらさがっている。
※3:腰は曲げずお尻を後ろに出して体を曲げている。
【1】腕を動かすのは肩ではなく鎖骨。腕の付け根が鎖骨ではなく、肩だと思い込んでいると、動かせるはずの関節が固まり、筋肉が緊張してしまう。
【2】胸は胸骨を中心にぶら下がっているだけ。腕を下げすぎたり、肩に力を入れすぎたりは疲労を増幅させる。
【3】お尻には折れ曲がる筋肉・ビッグマウスがある。上半身を曲げる時、腰を曲げると思いがちだが、実際はお尻にあるビッグマウスを使うのが正しい。
疲労の原因は、日頃の体の動かし方に問題があるかも
疲労の原因は日々のストレスやハードワークなどさまざまだが、「日常の何気ない体の動かし方に問題がひそんでいる場合もある」と言うのは、アレクサンダー・テクニーク講師の木野村朱美さん。
「私たちは子供の頃に覚えた体の動かし方を、大人になってもしています。でも、その動かし方が正しいかというと、そうではない場合も多いのです」(木野村さん・以下同)
アレクサンダー・テクニークというのは、オーストラリア人の俳優、F・M・アレクサンダーが発見した身体技法で、世界中で行われている。
「多くの人は、自分にとってのラクな動きが正しい動きであると思い込んでいるのですが、それが体をゆがませる原因です。アレクサンダー・テクニークは、この思い込みからくる体のクセを見つけ、上手な体の動かし方に導く技法で、体の本来のバランスと動きがわかれば、疲れない体になれるのです」
冒頭のイラストのA子さんとB子さんを比べると、体の動かし方の違いで、体のゆがみ方が違ってくるのが明らかだ。
これまでの思い込みを捨てて、「しんどい」毎日から抜け出すために、まずは以下で体の4つのポイントを理解しよう。
疲れない体にするために意識したい4つのポイント
日常の動きをラクにして、疲れない体をつくるために意識したいのがこの4つのポイントだ。体の骨の位置を間違えて思い込んでいることが、疲れる原因になっているかも!?
●ポイント1:坐骨
上半身の土台となる座骨はお尻ではなく、股の間にある。感覚としては体の真ん中やや前寄りに感じる座骨で上半身を支えるイメージで座ると自然と体がまっすぐになる。
●ポイント2:背骨
背中を触るとボコボコした突起があるが、これは背骨ではない。右のイラストのように、体を支える背骨は思っているよりも体の中心にあるのだ。
●ポイント3:頭
座骨、背骨、首の骨を積み木のように積み上げた上に、頭がのっている。頭は耳のすぐ下にある首の骨で支えられている。
●ポイント4:首
ものを飲み込む時「ゴクン」とすると動くところ(頸部食道)のすぐ後ろに首の骨はある。つまり、首の骨も意外と首の中心にあるのだ。
体のクセを正すには、正しい骨の位置を知ることが大切
体のクセを正すとは、どういうことなのか? 実際に木野村さんのレッスンに参加してみると、最初に「人差し指の指先から3つ目の関節は、どこにあると思いますか?」と質問された。
指の股のあたりを指すと、
「ほとんどの人がそこを指しますが、正解はもう少し下です。指を曲げてみると、曲がるところがありますよね? そこが関節なのですが、誰もが違う場所を思い込んでいるんです。このように、腕を上げる時はどこから動いているか、腰を曲げるといいますが、ホントはどこを曲げているのかなど、まずは正しい骨の位置がわかれば、疲れる動きをしなくてもすむんです。では、まっすぐ立ってください」(木野村さん・以下同)
そう言われて、正しい姿勢で立つ(写真・下)と…。
「まっすぐに立とうとして腰と背中が反ってしまっていますね。そのため、お腹が前に出てしまっています。これはとってもつらい姿勢です。本来、筋肉は体を支えるのではなく動かすためにあるのですが、私たちの思い込みのせいで骨がうまく体を支えられず筋肉が無理な働きをせざるを得なくなるため、こりや痛みとなって、出てくるのです。上の4つのポイントが、人のバランスの基本です。まずは骨の位置を理解し、思い込みを捨てましょう」
人の体は思い通りに動くため、正しい位置や、自分のふだんの動きを少し意識してみるだけでも、猫背などの体のクセは改善に向かい、疲れも減らせるのだ。
自分は気をつけの姿勢をしているつもりが、実は腰や背中が反りすぎている。腰痛や肩こり、ポッコリお腹もこの姿勢が大きな原因になっている。
木野村さんの指摘で、骨の位置を意識し、基本の姿勢をイメージしてみたのがこの姿勢。ただ、これまでのクセが強いため、少し前のめりになっている感じだが、日々意識して過ごすことでキレイな姿勢になっていくそう。
気になったらできる! 背中のコリをほぐす
記者のように、知らぬ間に反り腰になって背中の筋肉を無理に使っている人におすすめなのが、こりをほぐすトレーニングだ。骨の位置を意識するとともに、時間を見つけてやってみよう!
椅子に座って上半身を前に倒し、腕も前に投げ出し、背中の力を抜く(時間は心地よい程度でOK)。
↓
ゆっくりと頭が最後になるように、上半身を起こしていく。
↓
元の姿勢に戻る。「特に決まった回数などはないので、背中の疲れが気になった時に行ってみてください」(木野村さん)。
教えてくれた人
アレクサンダー・テクニーク講師 木野村朱美さん/Aru Quality Pro(アル・クオリティ・プロ)代表。体の使い方を楽にする方法「アレクサンダー・テクニーク」のレッスンを受けられる教室を京都・大阪で主宰している。http://at-aqp.com
イラスト/大窪史乃、勝山英幸
※女性セブン2019年9月5日号
●様々な不調を招く「新型ねこ背」って?|原因、症状、チェックリスト、改善法