入ると得?損?生命保険各社が発売した「認知症保険」を比較
ある高齢者が膝の曲げ伸ばしに痛みを感じるようになり、誰かの手を借りないと入浴ができなくなった。公的介護保険でいうところの「要介護1」(参照記事)の状態だ。
要介護1の場合、1か月の介護にかかるお金はいくらぐらいかというと、家計経済研究所の調査では「平均2万1000円」と「平均5万7000円」の2つのグループにわかれるという。同じ要介護度でも倍以上も違う。
その大きな分かれ目が、「認知症」なのだという。
認知症の人の介護費用は、発症していない人の2倍!?
近い将来、日本人の5人に1人が認知症になるといわれている。同じ要介護度だとすると、発症した人の介護費用は、発症していない人の2倍以上。
認知症は現実的にはとってもお金がかかる――そんな不安に備える「認知症保険」が昨年から登場し、加入者を増やしているという。
「認知症高齢者グループホームに入居するなら、月額費用のほかに数百万円の入居金が必要になることも。在宅介護ならリフォームの費用もかかります。その備えとして、認知症保険は有効です」(ファイナンシャル・プランナーの黒田尚子さん)
生命保険各社が発売した「認知症保険」の中身とは?
太陽生命は昨年2月、「ひまわり認知症治療保険」を発売。アルツハイマー型認知症などと診断され、時間や場所、人物の認識ができなくなるなどの症状が180日間続いた場合に一時金300万円を受け取れる。認知症以外にも、高齢者が罹りやすい病気もセットで保障されている。
生命保険業界初の認知症保険だったこともあり、契約は発売から7か月で10万件を超えた。
「認知症以外に七大疾病や骨折などもカバーされている分、保険料がどうしても高めになります。
たとえば50才の女性が終身払いで契約した場合、毎月の保険料は約7000円です。平均寿命までの35年間だと、支払った保険料総額が300万円を超えます。一時金は300万円ですから、35年間健康で、認知症などにならなければ損をする計算です」(前出・黒田さん)
朝日生命も昨年4月、「あんしん介護認知症保険」を発売。認知症になって、「要介護1」以上と認定された場合に保険金が支払われる。一時金で受け取るものと、年金で受け取るものがある。
認知症は介護でお金がかかるだけではない。徘徊などで電車を止めてしまったり、事故を起こしてしまったりして、多額の損害賠償を請求されるケースが近年、増えている。
認知症の人の電車事故で、家族に720万円の賠償金が生じた例も
愛知県で2007年に認知症の人が電車にはねられた事故では、JR東海が家族に損害賠償約720万円を求める訴訟を起こした。
そうした事態もカバーする損害保険も今年1月からスタートした。三井住友海上火災保険とあいおいニッセイ同和損保は、障害事故や物損を起こしてしまったときに補償する「個人賠償責任保険」に、認知症の人が線路に立ち入って電車を止めてしまって損害賠償請求を受けた場合、本人や家族に代わってその賠償金を支払う補償を追加した。年間の保険料は2000円程度。それでも補償の範囲は1億円もあるので、生活圏に電車がたくさん走っているような都会住まいの人が、万が一に備えるには一考の価値がある。
認知症保険の加入後は、家族に知らせることを忘れない
「認知症保険に加入するときには自分の子供やきょうだいに加入状況を知らせておくことを忘れないでください。いざ自分が認知症になった時に、加入していることを忘れてしまっていて請求し忘れるケースも考えられます」(黒田さん)
転ばぬ先の杖は、賢く使いたい。
※女性セブン2017年1月26日号