大村崑さん(93才)夫婦のシニアレジデンス生活「元気の秘訣はジムやカラオケ」 そして「夫婦でも大切にする一人の時間」
御年93ながら溌剌とした日常を送る大村崑が、新天地として選んだのは大阪にあるシニアレジデンスだった。スクワットや背筋などトレーニングで汗を流し、余暇には夫婦でワイングラスを傾ける二人の実生活に密着した。
教えてくれた人
大村崑(おおむらこん)さん/1931年11月1日生まれ、兵庫県出身。1958年テレビデビュー。ドラマ『番頭はんと丁稚どん』『頓馬天狗』などに出演。オロナミンCやダイハツミゼットのCMで国民的タレントとなる
麻雀、カラオケ完備でクリニックも併設
今年11月に94才を迎える大村崑。頭脳も肉体も老いとは無関係だが、5才年下で歌手の妻・瑤子さんとともに住み慣れた家を離れ、シニアレジデンス(自立型有料老人ホーム)に引っ越したのは2023年の暮れだった。「崑ちゃん」が引っ越しの理由を語る。
「テナントや居住者がいなくなり、6階建てのビルに僕たち二人だけになっちゃってね。やはり老夫婦だけでは不用心。安心と安全を求めて入居することに決めたんです」
瑤子さんと見学に行くと二人とも気に入り、トントン拍子で話が進んだ。
「二人の息子には報告こそしましたが、相談はしていません。僕は昭和生まれの昔人間だけど、昔から親は親、子供は子供という考え。『親の面倒を見る必要はない。その代わり親の財産を当てにしないでほしい』と常々伝えてきました」
このシニアレジデンスは少なくない入居金の支払いに加え、その後も継続的に費用がかかる。
「正直、息子たちに遺せるものはほとんどありません。瑤子さんがゆったり暮らせる分だけ残し、あとは使い切って死ぬつもり。その代わり、子供たちには迷惑をかけない。親は親の金で他人さんに面倒をみてもらう。そんな時代が来ているんとちゃいますか」
250人が入居する館内には多彩な共用施設がある。1500冊の蔵書を誇るライブラリー、多目的ルーム、フィットネスルーム、カラオケルーム、麻雀ルーム、演奏室などがあり、サークル活動も活発だ。さらに建物内にはクリニックと薬局も開設されている。
「自宅にいた頃と違うのは、部屋を一歩出ると大村崑を演じなければならないこと。施設の中ですれ違うと『崑ちゃん』と声を掛けられるので、背筋を伸ばして大村崑を演じないといけない。それがちょっと大変ですが、元気でないといけないという気持ちになる。皆さんもお化粧をして正装に着替えてレストランで食事をされる。脳の刺激にもすごくいいことだと思いますね」
素晴らしい環境でも、高齢になってから住み慣れた家を引っ越すことへの不満や不安はなかったのか。
「食事や大浴場の入浴時間が決まっているのは夜型の僕たちには多少窮屈ですが、不満ばかり言っても仕方がない。環境の変化を元気の源と捉えると気持ちが前向きになり、生活に張りができる」
二人は入居後も以前の生活パターンを継続させている。寝床に就くのは深夜2時頃で、たっぷり8時間の睡眠をとる。昼前に起きて、通いの家政婦さんが作った遅い朝食を食べ、1日2食。
「瑤子さんと四六時中一緒じゃなく、僕は仕事やお付き合いで外出することも多く、お互いに自分のペースに合わせてやっています」
夫婦の入居でも「一人の時間」を
88才の瑤子さんは現在、カンツォーネ歌手として活動。勉強のために毎年1か月間、イタリア・ナポリのホテルに滞在。今年も10月に出発するという。瑤子さんが語る。
「夫婦で近くのジムに通っていますが、予約日はバラバラ。崑ちゃんは週2回だけど、私は頑張って4回通っています」
夫婦でトレーニングジムに通い始めたのは7年前。90才を超えてなお実践する「崑ちゃんスクワット」を夫婦で披露してくれた。
「館内のレストランでの夕食後、崑ちゃんは部屋へ帰っちゃうんですが、私はロビーで雑誌を読んだり、カラオケルームで大声を出したりしています。仲が良い夫婦にも一人の時間は大切だと思います」(瑤子さん)
二人の子供とは頻繁に連絡は取るが、顔を見せることはないという。
「老後の面倒を見なくてよくなった息子たちが一番安心しているかもしれないですね。子供には子供の生活があるということで引っ越したわけですから」
93才と88才のシニアレジデンス生活。年を取るのも悪くないかと思ってしまう。
取材・文/鵜飼克郎 撮影/太田真三 写真/産経新聞社