訪問介護の危機、相次ぐ事業者の倒産「利用者はどうすべきなのか?」倒産の背景や対策を社会福祉士が解説
近年、訪問介護事業所が倒産・休廃業、ヘルパーの人材確保が困難などのニュースが流れています。現在、在宅で介護を受けている方々は勿論、これから親や自分自身が介護が必要になったとしても自宅で暮らし続けたいと希望しているかたにとっても気になる動向だと思います。今回はその社会的背景と対策について解説していきます。
この記事を執筆した専門家/渋澤和世さん
渋澤和世さん/在宅介護エキスパート協会代表。会社員として働きながら親の介護を10年以上経験し、社会福祉士、精神保健福祉士、宅地建物取引士、ファイナンシャルプランナーなどの資格を取得。自治体の介護サービス相談員も務め、多くのメディアで執筆。著書『入院・介護・認知症…親が倒れたら、まず読む本』(プレジデント社)、監修『親と私の老後とお金完全読本』(宝島社)などがある。
訪問介護とは「在宅介護との違い」を知らない人も
「訪問介護と在宅介護の違いがよくわからないんだよね」
こう話すのは、筆者の会社の元先輩で、今年72才になる男性です。
日本の男性の健康寿命は、72.57才(2022年時点)ですが、このかたは健康で現在もフルタイムで働いています。早くにご両親を亡くされ、介護とは無縁の生活を送られているご様子。どうも介護に関する言葉についてピンと来ないようです。
シニア世代にとっていつ訪れるかもしれない介護ではあるのですが、まだ自分ごとになっていない人もいるのではないでしょうか。まずは、訪問介護と在宅介護について説明します。
・訪問介護…介護職のスタッフなどが自宅を訪問して身体介護や生活援助などをするサービス。
・在宅介護…高齢や病気などにより介護が必要となったかたを自宅で介護すること。上記の訪問介護などのサービスを利用しながら介護を進めていきます。
訪問介護事業者の倒産が過去最多に
東京商工リサーチによると、訪問介護事業の倒産件数は81件(2024年)に達し、過去最多を更新しています。また、事業を停止した休廃業・解散においても、訪問介護事業は448件で全体の7割以上(73.2%)を占めています。
できる限り住み慣れた地域で医療、介護、生活支援のサービスを受け、状態の改善を目指すことが大切と言われている昨今。介護保険制度もそもそもは在宅生活を重視しており、介護保険の費用を軽減することにもつながっていました。
また、訪問介護、通所介護(デイサービス)、短期入所生活介護(ショートステイ)は、「介護三本柱」と呼ばれ、在宅介護を続ける上で非常に重要なサービスです。それなのに、なぜ訪問介護事業者の倒産、休廃業は増加しているのでしょうか。
参考/東京商工リサーチ 2024年「老人福祉・介護事業」の倒産、休廃業・解散調査。
倒産が増えている理由と背景を考察
理由としては、下記の3つが考えられます。
【1】介護報酬の引き下げ
訪問介護事業所の収益の多くは介護報酬が占めています。2024年度の介護報酬改定は、全体で1.59%のプラス改定となりましたが、訪問介護はマイナス2.27%となりました。大規模であれば他の収入源によってカバーできますが、小規模な事業所は介護報酬の改定で収入減となり経営を圧迫した可能性があります。
【2】人材不足
厚生労働省の調査※によると、2022年度の訪問介護職員の有効求人倍率(求職者1人あたりの求人数)は、令和4年が15.53倍、令和5年は14.14倍となり、高水準となっています。全職種の有効求人倍率の平均1.28倍と比べると、訪問介護業界がいかに人手不足ということがわかります。
また、介護職員の高齢化も進んでいます。少ない人数で回さなければならず、長時間労働になってしまうケースもあるでしょう。人手不足や職員の高齢化により、訪問介護の利用者を増やせず、経営不振に陥る事業所も数多くあります。
※厚生労働省「訪問介護事業への支援について(報告)」https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001303387.pdf
【3】物価高
物価高も要因のひとつです。近年は社会情勢により物価が高騰し、車両を使用することの多い訪問介護事業所はガソリンの急騰に大きな影響を受けています。
倒産・休廃業したときの対処法と懸念点
もし、自分が利用している訪問介護事業所が倒産や休廃業するとなったら利用者側としてはどう対応すればよいのでしょうか。
ケアマネを通じて別の事業者を調整・手配
事業所の倒産や休廃業が決まった場合、事前に利用者やその家族にも連絡・報告があります。その事業所はサービスを提供できなくなるので、ケアマネジャーと連携し、別の事業所の紹介等の調整が行われるのが一般的な流れです。
基本的には介護を受けられなくなることはありません。ですが、これは一部の事業所が豊富に存在する地域に限ったこととも言えます。
事業所が少ない地方はより人手不足に
倒産・休廃業は人口が少ない地方の市町村から進むので介護サービスの空白地帯が広がっています。例えば隣の市から40分かけて越境して支援している例もあるくらいで、介護士不足で手が回らない、またガソリン代も高騰する中、新たな利用を受け付けられず事業所が決まらないということは大いにあり得ます。
サービス付き高齢者向け住宅など一か所で集中的に依頼をこなせる事業所は黒字かもしれませんが、山間地域で利用者の家を一軒一軒回るような事業所は、ガソリン代の高騰も大きく響くと同時に移動時間には報酬がつかないため、回れば回るほどマイナスになるというわけです。
都心でも事業所が少ないエリアは要注意
東京都でも大田区は田園調布など高級な住宅街は訪問介護事業所の数が少なめです。蒲田駅側は逆に多すぎて競争激化しています。同じ区内でも距離的な問題で毎日の訪問や朝などの混雑時間は大手の事業所でないと対応は難しいことも出てきます。
事業所が変更となる際は、利用者側としても毎日来てほしいなどの希望があることは理解できますが、依頼側、提供側がお互いの許容範囲を示し納得のいく回数で合意するなど、臨機応変な対応も必要といえます。
自費の訪問介護を活用する
介護保険を使わない自費の訪問介護というものもあります。費用は割高となりますが、時間の制約もなくサービス内容を自由にカスタマイズできるのが魅力でもあります。
「自費訪問介護 ××県」などと、お住まいの地域で検索すると何か所か表示されると思います。ニーズに合うようでしたら、次の訪問介護事業所が見つかるまでこれを利用してみるのもひとつの方法です。
介護保険サービスでは時間に制約があったり、そもそも対応できない依頼もあったりするため、使い分けるのもよいかもしれません。気になったら是非、調べてみてください。