「60才以上の語学を学ぶ人は自己肯定感や生活の充実感が高い」<語学学習とシニア層の意欲調査>レポート
体の衰えや認知機能の低下など、加齢によって生じる変化に不安を抱き、早めの認知症対策が必要だと考える人は多い。外部とのコミュニケーションや生きがいを持つことが対策として有効と言われているが、現在、語学学習を行っている人とそうでない人とでは、意識に大きく違いがあるようだ。語学学習アプリ「Duolingo」を提供するDuolingo,Inc.が行った調査の結果をもとに、語学学習の有無でシニア層の新しい学びに対する意欲にどのような差があるのかをレポートしていく。
語学学習の有無で生まれる新しい学びへの意欲の差とは
総人口の29.1%に当たる3,623万人が65才以上(※1)となり、「超高齢社会」に突入した現代日本。さらに令和4年から5年にかけて実施された調査によると、令和4年における認知症の高齢者数は443.2万人、認知症の前段階と考えられている軽度認知障害は558.5万人(※1)と推計されており、高齢化が進むにつれて認知症患者の増加も問題視されている。
※1 令和6年版高齢社会白書
「人生100年時代」を迎えた今、健康で自分らしい暮らしをするためには、人や地域との繋がりや、生きがいを持つことが大切だ。世界で最もダウンロードされている語学学習アプリ「Duolingo」を提供するDuolingo,Inc.(以下Duolingo)は、高齢者が活き活きと過ごす秘訣を探るため、60才以上の600人を対象に「語学学習の有無によるシニア層の私生活の意欲に関する比較調査」を実施。認知症予防への意識や、外部の人との繋がりや新しい学びなどの事柄において、語学学習者と非学習者ではどのような違いがあるのかを調査した。
シニア層の約2人に1人が認知機能の低下を不安視
まず、年齢を重ねることに対しての印象を尋ねたところ、「不安」という回答が最も多く、回答者の85.6%が何かしらの不安を抱えていることが判明した。続けて具体的にどのようなことに不安を感じるのかを質問。すると「体の衰え」(65.8%)が最も多く、次いで「記憶力の低下/物忘れ」(49.8%)という結果となった。身体的な不安以外にも認知機能の低下に不安を抱いている人は多いようだ。
また、認知症に対する予防の必要性について尋ねたところ、70.8%の人が「必要」(とても必要だと思う/必要だと思う)と回答した。
その理由としては、「今まで通り自立した生活がしたいから」(67.7%)、「家族や身内などの周りの人に身体的・精神的な負担をかけてしまうから」(65.2%)、「要介護にならないため」(60.2%)がトップ3にランクイン。多くの人が認知症の発症による生活の変化を懸念していることがわかる。
実際に、認知症予防として行っていることはあるかという質問に対して、「実施していることはない」と回答した人は16.2%に留まり、83.8%が何かしらの対策を起こしていることが判明した。
認知症予防には語学学習が効果あり?
認知症予防としてよく挙げられるのは食生活の改善や運動などだが、近年「語学学習」も注目されているようだ。本調査においても、語学学習に取り組んでいる人のうち、69.6%の人が「認知症予防のため」と回答し、さらにそのうち4人に1人は10年以上も学習を続けていることが明らかとなった。
では、実際に語学学習は認知機能低下および認知症のリスク低減に役立つものなのだろうか。
公立諏訪東京理科大学教授の篠原菊紀さんによると、「第二言語の学習は認知機能低下予防・認知症予防に役立つ可能性がある」ようだ。
「実際、『バイリンガルが認知症の発症を遅らせる』との研究結果も発表されている」。これは複数の言語を処理する神経ネットワークを持つことが、脳損傷が起きたときのバイパスとなりうるからと考えられている。
世界保健機関(WHO)が2019年に公表した「認知機能低下および認知症のリスク低減〔Risk Reduction of Cognitive Decline and Dementia〕」のためのガイドラインでは、推奨しうることとして運動、禁煙、野菜・魚が豊富なバランスのいい食事、高血圧・高脂血・高血糖への介入と並んで認知的トレーニングがあげられているが、第二言語の学習はこの認知的トレーニングにも当たる。
歳を重ねると、記憶や情報を一時的に脳にメモしながら考えたり行動したりといったワーキングメモリの力が低下しがちだが、第二言語の学習はこのワーキングメモリのトレーニングにも役立つという。
語学学習を行うシニアは自己肯定感が高い傾向に
認知機能の低下や認知症リスクの低減が期待できる語学学習だが、それ以外にはどのようなメリットがあるのだろうか。Duolingoはシニア世代における語学学習の影響を探るため、語学学習者と非学習者を比較し、家族や外部とのコミュニケーション頻度、新しい学びへの積極性・意欲、自己肯定感などにどのような違いがあるのかを調査を実施。その結果、語学学習者は非学習者に比べポジティブな傾向が見られることが判明したようだ。
まず、家族とのコミュニケーション頻度についての質問を行った。週に1、2回程度以上の雑談をしていると回答した語学学習者は68.5%だったのに対して、非学習者は58.6%と、語学学習の有無で家族とのコミュニケーション頻度には若干の差が見られた。また、家族以外との繋がりの機会においても、週に1、2回程度以上あると回答した語学学習者は52.3%で、非学習者の38.6%を上回る結果となった。
続いて物事への意欲を探るため、新しいことを学ぶことに関してどの程度意欲を感じるかを尋ねた。その結果「興味がある/意欲がある」と回答した語学学習者が84.8%であったのに対し、非学習者は42.4%に留まり、両者には約2倍の差があることが明らかとなった。学習動機にもやや違いが見られ、非学習者は新しく何かを学ぶことに対して「老化予防のために必要だと思うから」という外発的動機が最も多かったが、語学学習者は「自分の視野を広げたいから」「新しいことを学ぶのが楽しいから」などといった内発的動機を挙げ、学びそのものを楽しむ傾向が強いようだ。
次いで語学学習者と非学習者の両者に、現在行っていることを尋ねたところ、語学学習者の86.6%がボランティア活動や楽器の演奏など語学学習以外の活動もしていたのに対し、非学習者は57.7%に留まった。非学習者と比べ語学学習者は自分の視野を広げるために興味や趣味の活動にも意欲的だと言えるだろう。
さらに現在達成したいと考えている目標はあるかという質問には、語学学習者の34.8%が「具体的に達成したい目標がある」と回答。「なんとなく考えている目標がある」と回答した人は43.2%であり、合わせて語学学習者の8割近くが何らかの目標を持っているのに対し、非学習者は「目標は持っていない」と回答した人が54.5%と半数を超え、語学学習の有無で目標の有無も大きく分かれる結果となった。
こうした意欲や目標意識の高さは、自信や自己肯定感に影響を与えている可能性がある。現在の自信や自己肯定感がどのくらいあるかという質問を行ったところ、「非常に高い/かなり高い」と回答した語学学習者は45.9%だったのに対し、非学習者は35.4%に留まった。
さらに語学学習者に対して、語学学習を始めてから自信や自己肯定感に変化はあったかという質問を実施。「高まった」と回答した人は58.0%となり、語学学習が自己肯定感の向上にも寄与していることが示唆された。
60才以上で最も多く学んでいるのは英語、中国語や韓国語も人気
Duolingoではさらに語学学習の詳しい実態調査も実施。60才以上の語学学習者に最も多く学ばれているのは英語で80.7%にものぼり、次いで中国語、韓国語を学んでいる人が多い結果となった。
さらに学習期間に関しては10年以上学んでいると回答した人が45.8%と最も多く、継続して学習している様子が判明した。
また、語学学習をしていてよかったと思うことについて質問を行ったところ、「他の国や文化、政治など興味・関心が持てるようになった」、「語学学習により、充実した生活が過ごせている」、「海外旅行が楽しめるようになった/不安が軽減された」という回答が上位に上がった。
以上の調査結果から、語学学習は学びへの意欲や自己肯定感の向上に貢献し、その結果、認知症予防としても効果的だと言えるだろう。この先も続く人生を前向きに過ごし、自分らしい生活を続けていくためにも、語学学習を検討してみてはいかがだろうか。
【データ】
Duolingo,Inc.
【調査概要】
調査名称:『語学学習の有無によるシニア層の私生活の意欲に関する比較調査』
調査対象:60才以上の母国語が日本語で、語学学習をしている人/していない人
調査期間:2024年8月27日~8月28日
調査方法:インターネット調査
有効回答:600名(語学学習あり・なし:各300名)
※Duolingo,Inc.の発表したプレスリリース(2024年9月10日)を元に記事を作成。
図表/Duolingo,Inc.提供 構成・文/秋山莉菜
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