猫が母になつきません 第376話「のこす」
母のあれこれの一方で引越し準備。これまた大変です。50年超の実家の歴史を一気に片づけなくてはならない。引越し先は小さな平屋、実家のものをそのまま移動というわけにはいきません。家具はほとんど処分だし、祖母の代からの着物や何焼きかもわからない壺や使わない食器、父の本、無駄に多い布団類…そもそもいらないものが多いのです。自分のものにしても10年以上前に都会に住んで仕事をしていた頃に来ていた服を後生大事にとっているものの「またそれを着る日は来ないな」と思う。体型は変わっていないので着ることはできます。でも都会ではきらきらしていた服たちも田舎のタンスの中で長い間じっとしているうちに死んでしまったらしく、みな色褪せてぐったりしているように見えます。それは服に限らないのですが。
たくさんの物の中から残すものを選んでいると、いやおうなく「これから自分はどう生きるのか?」ということを考えさせられます。この服は着るのか?この食器は使うのか?この本は読むのか?いつ?どこで?誰と? それはまだぼんやりとしているので迷います。母のものも悩ましく、今は車椅子なので着られる服が限られるためワンピースやスーツはほとんど処分するしかありません。それでもやはり…それを着ていた母が脳裏に浮かんで、お気に入りを何着か残しておこうと思うのです。
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作者プロフィール
nurarin(ぬらりん)/東京でデザイナーとして働いたのち、母とくらすため地元に帰る。典型的な介護離職。モノが堆積していた家を片付けたら居心地がよくなったせいかノラが縁の下で子どもを産んで置いていってしまい、猫二匹(わび♀、さび♀)も家族に。