ドラマ『日曜の夜ぐらいは…』5話を考察。他人と接するのを避けて生きてきた3人の孤独は、他人とつながりで救われるのか
ラジオ番組のバスツアーで出会って、ラジオ番組のバスツアーで3人(清野菜名、岸井ゆきの、生見愛瑠)は、いったんは山分けした宝くじの当選金3千万円をひとつにまとめます。それを元手に一緒にカフェを開こうという夢に向かって歩き出したのでした。『日曜の夜ぐらいは…』(テレビ朝日系 日曜よる10時〜)5話を、ライター・近藤正高さんが振り返り、今後の展開を考察します。
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重いとか気持ち悪いとか思わないで
『日曜の夜ぐらいは…』では、主人公のサチ(清野菜名)と翔子(岸井ゆきの)、若葉(生見愛瑠)が山分けした宝くじの当選金3千万円を改めてひとまとめにし、それを元手に一緒にカフェを開こうと決めた。先週(5月28日)放送の第5話では、彼女たちがさまざまな出来事を通じて改めて友情を確認しながら、夢の実現に向け一歩を踏み出す――。
共通の夢を持ったことで、3人の心は浮き立つ。サチと翔子は街でよさげなカフェを見つけるたび、自分たちの店の参考にしようと写真に収める。これに対し、田舎住まいの若葉の周囲にはカフェがなく、自分だけ取り残されている感じがして焦りを募らせていた。
そんなある日、サチが一軒のカフェの前で写真を撮っていると、カフェプロデューサーの住田賢太(川村壱馬)と偶然出くわす。賢太も仕事の参考にするため、その店を訪ねてきたのだ。ただ、男ひとりでは入りづらいと、サチに同行をお願いする。いざ入った店内で二人はカップルを装い、会話もそれらしく、お互いを下の名前で呼び合うのだが、どうもぎこちない。もっとも、ここで賢太が慣れた感じでサチに接したら、いつもこの手で女性を誘っているのかと疑ってしまったことだろう。ぎこちないからこそ、逆に賢太に好感が持てた。
一方、翔子には勤務するタクシー会社に突然、実家の兄(時任勇気)が訪ねてきた。翔子は実家からほとんど縁を切られていただけに何事かと思えば、死んだ父の遺産を放棄してほしいと切り出される。
思いがけないことに困惑し、心を傷つけられた彼女は、帰宅してやけ酒をあおっているうちに寝てしまった(ということはあとになってわかったのだが)。その間、サチと若葉は再三メッセージを送ったにもかかわらず、翔子から一向に反応がないので心配になる。サチはいても立ってもいられず、懸命に自転車を漕いで翔子の家に向かった。
ようやく目が覚めて、二人からのメッセージに気づいた翔子は、あわててサチに電話をかける。すると、窓の外からもスマホからも救急車の音がしたので、もしやと思い、外に出てきたところ、まさに自宅の前にサチがいた。
サチは息を切らしながら、「重いとか気持ち悪いとか思わないで。ちょっとどうしようもなくなっちゃって、気持ちが。それだけだから……」と申し訳なさそうに告げた。彼女は前回描かれたように、かつて親友から、母のけがのため高校をやめた自分のことを心配してもらいながら、それが重いと感じて、ついつらく当たってしまった苦い経験があるゆえ、翔子にそんな言い訳をしたのだろう。だが、翔子はサチが自分を心配してわざわざ遠くまで来てくれたことに感激し、「そんなことないよ、うれしいよ」と抱きつく。
いいちくわぶをつくり続けろ
その後、若葉も、サチから翔子に無事会えたと写真で知らされ、安堵する。ただ、この一件もあって、彼女の“ひとりだけ置いてけぼり感”はますます強くなっていく。とうとうたまりかねて、ある朝、祖母の富士子(宮本信子)に「東京へ行きたい」と打ち明けた。
若葉がいままで言い出せなかったのは、富士子が地元に未練があるようなので、自分が上京すればひとり置いていかねばならないと悩んでのことだった。しかし、当の富士子は前回、一番の未練だったかつての自分の家について、現在そこに住む女性から褒められたうえ感謝までされ、すっかり思いが吹っ切れていた。若葉の申し出に即座に同意し、東京行きを決める。当然、それまで二人で一緒に勤めていたちくわぶ工場も辞めることになる。
退職の挨拶で、若葉はここぞとばかり、工場の同僚たちからいままでさんざん嫌がらせを受けてきた恨みつらみをぶちまけた。そこで彼女は、同僚たちを「おまえたち全員に呪いをかけ続けてきた」と脅したかと思うと、「呪いが解ける方法がひとつだけある。教えてやるよ」と言う。まさか土下座でもしろと言い出すのかとドキドキしたが、その方法が「いいちくわぶをつくり続けろ」と聞いて安心した。
若葉は返す刀で今度は社長に「おい、バカ社長」とのたまうと、「先代のおかげでいいものつくってんだから、もっと企業努力しろ、タコっ!」と捨て台詞を吐き、その場を立ち去る。思えば、これまで社長(演じるのはお笑いコンビ・ラバーガールの飛永翼)は工場作業用のマスクにキャップをかぶった姿でしか登場してこなかったので、顔を出したのはこれが初めてではなかったか。若葉の啖呵にうろたえる社長の表情といったらなかった。
若葉の退職にあたり、サチと翔子に加えてみね君(岡山天音)も駆けつけ、彼女の態度を褒めたたえる(ヤンキー風の口ぶりは翔子の影響もありそうだが)。こうして晴れて東京に引っ越した若葉と富士子の新居は、サチが母の邦子(和久井映見)と住む団地の同じ棟の4階……邦子の足が不自由になるまで住んでいた部屋だった。ご近所どうしとなった邦子と富士子は、すぐに打ち解ける。
自分たちの家族をも結びつけたサチたち3人は、カフェのオープンに向け、みね君を呼び出すと、それぞれが宝くじの当選金を入れた通帳を渡し、一つにまとめてほしいと頼んだ。
みね君にはすでに、先にサチの自宅に二人が泊まった際に呼び出して、ラジオ番組のバスツアー中に買った宝くじで3千万円が当たったことも伝えていた。これに対し、みね君は「どうするんですか、俺が悪いやつだったら」と戸惑うが、3人とももはや彼を信用しきっていた。以来、彼は補欠という扱いながら仲間に加わる。
3人からの頼みを受けて、みね君も自分のなけなしの貯金も一緒の通帳にまとめ、その管理役に収まった。そこへ賢太もプロデューサーとして顔を出すと、彼と名刺を交わす。このとき初めて、みね君がサニタリー関係の仕事をしているとあきらかになった。要はトイレや浴室など水回りの設備に関する仕事だが、みんなの関係を円滑にする彼のキャラクターにふさわしい職業ではないか。
『日曜の夜ぐらいは…』と『怪物』
こうして3人は、周囲の協力も得つつ夢の実現に向けて順調に転がり出した。ただ、ひとつ気がかりなのが、サチの父親(尾美としのり)の動きである。父は、サチのバイト先のファミレスの店長(橋本じゅん)を抱き込むと、娘がシフトをできるかぎり入れて働き詰めていることを知る。変なところで勘のいい父は、サチがシフトはもう普通でいいと言い出したら、経済的にいい感じになったということだろうと推測する。ここへ来てまだ娘にたかろうという腹積もりか。店長でなくても「最低ですね」と言いたくなる。
そんな父の企みなど知らず、サチは賢太からもらったらしいレジュメをもとに、自分たちの店のコンセプトをノートにまとめていた。上京したての若葉は修業のため、賢太のプロデュースしたカフェで店員として働き始める。富士子も新たな仕事を求めて、団地の掲示板の求人募集に目を凝らす。みね君も、職場の同僚たちとはしっくりいっていないものの、仕事のほうはそれなりにこなしているようだ。邦子は邦子で、サチたちのカフェのためメニューを考えている様子である。
そして翔子は店にするための物件を見つけたらしい。もちろん、開店までにはもう少し時間がかかるのだろう。視聴者としては、どうかこのまま順調に行ってほしいと思いつつ、それではドラマにならないだろうと悩ましくもある。
話はいきなり変わるが、第5話放送の前日の5月28日(日本時間)、カンヌ国際映画祭で日本から出品された『怪物』が脚本賞に選ばれた。受賞した坂元裕二はこれまで、『東京ラブストーリー』をはじめとしてテレビドラマで数々のヒットを飛ばしてきた脚本家だ。その坂元は、翌29日に帰国した監督の是枝裕和とのぞんだ記者会見で、今回の作品について《大勢の観客に向けてではなく、どこかにいるであろう孤独に過ごしている誰かのために書きました》と語った(「朝日新聞デジタル」2023年5月29日配信)。
坂元が『怪物』に込めた思いは、『日曜の夜ぐらいは…』にもどこか通じるところがあるような気がする。本作に出てくる主人公をはじめ3人の女性は、それぞれの事情から長いあいだ、他人と接するのを避けて生きてきた。きっと、そういう人は世の中にたくさんいるだろうし、ここ最近起こった事件では、当事者の孤独がクローズアップされることがやけに目立つ。考えてみると、若葉もサチたちと出会ったからいいものの、そのまま田舎でいやがらせを受けながら暮らしていたら、いつか怒りや恨みを何らかの形で暴発させていたかもしれない。
ドラマが、現実に鬱屈した人たちを直接的に救うことはたぶんないだろう。しかし、ドラマのなかのサチや若葉たちの姿を見ていて、自分もどこかで他人とつながりを持てば少しはいいことがあるのでは……と希望を一瞬でも感じる人はきっと少なくないはずだ。
『日曜の夜ぐらいは…』を注意して見ていると、一つひとつのシーンをつなぐのに、よく空のカットが出てくる。それは、たとえ離れた場所に暮らしていても、人は誰でも同じ空のもとでつながっているとほのめかすようだ。今回のラストでも、主人公と仲間たちだけでなく、若葉から叱咤激励された若社長や彼女の母親(矢田亜希子)が、同じ青空のもとですごすさまが描かれていて印象的だった。
そういえば、若葉の母親はアイスを片手に、娘から以前奪い取った通帳を眺めていたが、まだそこに入った金には手をつけていないらしく、残高はそのままだった。これは何を意味するのか。娘のことを考えると、やはりこの金は使えないと思ってのことなのか。サチの父親の動きとともに、こちらも今後、何かしらの伏線になってきそうな予感を抱く。
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文/近藤正高 (こんどう・ まさたか)
ライター。1976年生まれ。ドラマを見ながら物語の背景などを深読みするのが大好き。著書に『タモリと戦後ニッポン』『ビートたけしと北野武』(いずれも講談社現代新書)などがある。