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ドラマ『日曜の夜ぐらいは…』2話を考察。サチ(清野菜名)が楽しみを禁じるのは、母(和久井映見)への負い目?そして母も……

 ラジオ番組のバスツアーで出会った3人(清野菜名、岸井ゆきの、生見愛瑠)はせっかく仲良くなったのに連絡先を交換しませんでした。しかし、思いがけないラッキーが3人の再会を実現させることになります。『日曜の夜ぐらいは…』(テレビ朝日系 日曜よる10時〜)2話を、ライター・近藤正高さんが振り返り、今後の展開を考察します。

岸田サチ(清野菜名)の事情

 楽しいことがあるとつらくなる――。『日曜の夜ぐらいは…』の第1話で主人公・岸田サチ(清野菜名)が言っていたとおりだった。

 先週(5月7日)放送の第2話、ラジオ番組『エレキコミックのラジオ君』が企画した旅行ツアーで出会い、楽しい時間をすごしたサチと野田翔子(岸井ゆきの)と樋口若葉(生見愛瑠)の3人は、解散後、帰宅の途についた途端、つらい日常に引き戻される。

 ツアーを終えたあとの『ラジオ君』では、3人のことが紹介された。サチと団地で一緒に暮らす母・邦子(和久井映見)はそれを聴いて、娘にも友達ができたと喜ぶが――そもそも邦子は、サチが何の楽しみもなく暮らしていることを心配して、強引にツアーに参加させたのだから当然である――、当のサチは何事もなかったかのように翌日、またバイト先のファミレスに出勤する。

 サチはこのとき、うっかりスマホを置き忘れて家を出てしまった。それに気づいた邦子から大声で呼び止められ、サチは急いで引き返すとともに、つらい過去の出来事が脳裏によみがえる。彼女が高校生だったころ、弁当を忘れて家を出ると、このときも邦子が気づいて大声で呼び止めたのだ。だが、邦子は弁当をサチに届けようとして、団地の階段から転落してしまう。彼女が車椅子で生活するようになったのは、これが原因だった。

 邦子がそうなったことを、サチは、すでに離れて暮らしていた父(尾美としのり)にも一応報告する。ただ、父はただ話を聞くばかりで援助してくれるとは言ってくれなかった。サチも最初から父をあてにはしていなかったようだ。このときにはすでに学校もやめていた。これからは自分が生活費を稼ぎながら、母を介護すると決意してのことだろう。ちょうど父と会ったファミレスでバイトを募集していると知り、以来、現在にいたるまで働き続けることになる。

 サチが楽しむことを自分に禁じるようになったのも、母に対する負い目からであったに違いない。しかし、母の邦子も同じぐらい、娘をそんなふうにしてしまったことに責任を感じていた。それゆえにお互い遠慮がちに振る舞う2人が、何とももどかしい。

野田翔子(岸井ゆきの)と樋口若葉(生見愛瑠)の背景

 他方、若葉もまた重い過去を背負っていた。家を出ていった母親が男性関係にルーズで、若葉の父親も誰かわからないため、娘である彼女まで子供のときからいじめられたり、後ろ指をさされながら生きてきたらしい。そこへ来て先のツアーでサチと翔子と仲良くなり、今度こそ友達ができそうだと思ったのに、サチから連絡先は交換しないでおこうと言われてしまった。若葉は、そうなったのは私に昔から友達がいなくて、他人との距離の取り方がわからないせいだと自分を責める。

 それでも若葉には、一緒に暮らしながらちくわぶ工場で働く祖母の富士子(宮本信子)という心の支えがあった。同様にサチにも母親が救いになっているところがある。12月のある日、彼女はバイト先のファミレスの店長(橋本じゅん)から唐突に、君を優遇しているために皆が自分たちの関係を噂しているから、いっそのこと本当に関係しないかと、わけのわからない理由で迫られる。おかげですっかり職場にいづらくなってしまったサチだが、それでも帰宅すると、その日はちょうど誕生日で、邦子が部屋を飾りつけ、ケーキも用意して待ってくれていた。

 そんなサチや若葉に対し、翔子は一人暮らしのうえ、じつは家族から縁を切られていた。それがあきらかにされたのは、彼女の運転するタクシーに偶然にも兄(時任勇気)が客として乗ってきたときだった。運転手が翔子だと気づいた兄は、久々の再会を喜ぶどころか「俺に妹などいない」「家じゃおまえの存在、なかったことになってるから」と言い放つ。兄によれば、このあいだなど母親がパーティーで初対面の人に「子供は息子2人ですの」と言っていたという。

 母親がパーティーに出席するような身分ということは、翔子はそれなりの家のお嬢様だったのだろう。前回、彼女が元ヤンキーだとしきりにアピールしていたことを思えば、かなりのギャップだが、それも家族に反発してのことであったのかもしれない。結局、兄はおまえのようなやつに命は預けられないと言い捨てて、目的地まで乗らずに降りていった。

宝くじが当たって再会する3人

 と、それぞれ事情を抱えた3人だが、それをこのドラマでは直接的に説明するのではなく、会話のなかでそれとなくほのめかしながら、視聴者に少しずつあきらかにしていく。サチが母の事故後、ファミレスで会っていた中年男性が父親というのも、はっきりそうだと示されていたわけではなく、あくまで会話から推測されるにすぎない。不親切のようでもあるが、視聴者はむしろそのおかげで想像力をかきたてられ、物語に引き込まれていく。

 前回のラストから、3人がこのあとどんなふうに再会するのかも、あれこれ推理せずにはいられなかった。第2話では、例のラジオ番組のツアーの幹事役だった市川みね(岡山天音)が、偶然にもサチの働くファミレスにやって来た(おかげでサチは店長にあらぬ疑いをかけられたあげく、先述のような告白まで受けるハメになったのだが)。さらには翔子のタクシーにこれまた偶然にも乗り合わせることになる。それだけに、みねが自ら言っていたとおり3人を再び引き合わせる“キューピッド役”を担うかと思わせた。

 だが、最終的に3人を再会させたのは彼ではなく、先のツアーで彼女たちが一緒に購入した宝くじだった。前回のレビューで筆者が予想したとおりとはいえ、そこにいたるまでには、これまたうまい見せ方をしていた。

 まず、購入先であるサービスエリアの宝くじ売り場に、当選者が出たと貼り紙が掲示される。そのあとで翔子が思い出したように、宝くじの番号をチェックするのだが、あっけなく外れだと判明する。ちなみに、このとき、翔子が当たったら買いたいもの・やりたいことを事前に書き出した紙が一瞬映り、そこには家族へのプレゼントとともに(この時点ではまだ兄とは再会していなかった)、サチと若葉との食事代として3万円が計上されていた(細かい!)。

 一方、若葉は、買った宝くじを祖母の富士子に見られたことに気づき、たとえ番号を調べていても当たったかどうかは言わないでほしいと頼み込む。当たっているかもしれないと思えば何でも我慢できるし、調べるのは本当につらくなったときまで取っておきたいという彼女の言い分が、微笑ましくも切ない。もちろん、宝くじの賞金には引き換え期限がある。富士子からそのことを教えられた彼女は、ようやく当たっていたか訊ねるのだが、残念ながらこちらも外れであった。

 最後に残ったサチはといえば、誕生日にたまたまテレビで、宝くじに当たっても期限までに換金しない人があとを絶たないというニュースに接し、宝くじを買ったことを思い出す。果たして彼女のくじは当たっていたのか……。

 次のシーンでは、『ラジオ君』のツアーが再び実施されることになり、翔子と若葉は久々に顔を合わせるのだが、バスの出発時間が来てもサチは現れない。そのままバスが走り出したところ、いきなり急停車する。みねが何事かと確認すると、、バスの前にはサチが息を切らして立っており、締切がすぎていて申し込めなかったが、どうしても乗らねばならないと言って強引に車中に入っていくのだった。

 彼女がバスに乗らねばならない理由はもはやあきらか。2人に宝くじが当たったと知らせるためである。しかも当たったら3人で山分けするとサチだけが覚えていた。サービスエリアでそのことを打ち明けられ、驚く2人。だが、「3人で幸せになろう。帰ったら一緒に銀行に行こう」とサチに言われ、先のツアーで別れたときと同じく3人でハグをし、さらに手を組むと喜び勇んで駆け出すのだった。

 これまで不運続きだった彼女たちにも、ようやく運がめぐってきたようだ。ただ、気がかりなことがある。それは、主人公が宝くじに当たるというドラマや映画はこれまでにもたびたびあったが、たいていは当選したあとで不運が訪れる展開になる、ということだ。たとえば、『書店員ミチルの身の上話』(NHK・2013年)というドラマでは、戸田恵梨香演じる主人公が、職場の同僚に頼まれて買った宝くじの1枚が2億円の当選券だと気づいたところから運命の歯車が狂い出した。

 そう考えると、サチたちにもどんな災難が待っているかわからない。早くも次回の予告編では、サチに誰かが土下座しているし……。せめて彼女たちが仲間割れしないことを祈りたい。

●ドラマ『日曜の夜ぐらいは…』は車椅子の母からの贈り物から始まる。「たまには私から離れて、思いきり笑ったりしてらっしゃい」

文/近藤正高 (こんどう・ まさたか)

ライター。1976年生まれ。ドラマを見ながら物語の背景などを深読みするのが大好き。著書に『タモリと戦後ニッポン』『ビートたけしと北野武』(いずれも講談社現代新書)などがある。

●名作『JIN―仁―』が覆した坂本龍馬暗殺の真相、真犯人像の必然

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