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ドラマ『日曜の夜ぐらいは…』4話を考察。若葉(生見愛瑠)!そんな母親に通帳を渡してしまうの?視聴者が息を呑んだ賞金1千万円の行方

 ラジオ番組のバスツアーで出会って、いっしょに買った宝くじが当たった3人(清野菜名、岸井ゆきの、生見愛瑠)の山分けした賞金は、それぞれに不安な状況をもたらします。たまらず、「会いたい」とメッセージを送りあった3人は、再会して思いっきり語りあうことに。『日曜の夜ぐらいは…』(テレビ朝日系 日曜よる10時〜)4話を、ライター・近藤正高さんが振り返り、今後の展開を考察します。

サチは3万円を父親に渡す

『日曜の夜ぐらいは…』というタイトルどおり、日曜の夜ぐらいはやっぱりこんなドラマが見たいと、改めて思わされた先週(5月21日)放送の第4話だった。

 主人公のサチ(清野菜名)と翔子(岸井ゆきの)、若葉(生見愛瑠)の3人は、前話で宝くじの当選金3千万円を山分けしてからというもの、次々と災いに見舞われる。サチは別れた父親(尾美としのり)がバイト先のファミレスに突然やって来て、土下座してカネをせびられる。初めは深刻そうな雰囲気だった父だが、サチが断るとすぐに素に戻るあたり、いつもそうやっては他人にカネをたかっているのだろうと思わせた。

 サチは断る理由として、かつて母親の邦子(和久井映見)の足が不自由になったあと、一度だけ父に泣いて助けを求めたときのことを挙げた。このとき、普通の冷蔵庫では邦子が車椅子に乗ったまま扉を開けられないので、観音開きのものに買い替えねばならないと訴えたにもかかわらず、カネのない父はただ一緒に泣くだけだったらしい。

 邦子が車椅子で暮らすようになってからというもの、サチは冷蔵庫以外にも色々と出費を迫られたに違いない。第4話では、邦子が車椅子に乗ったまま台所でカレーをつくるシーンがあったが、これにしたって流し台を低くしたりとリフォームする必要があっただろう。そのためにサチは高校もやめ、ヤングケアラーとして母の面倒を見つつ、ファミレスで休みもとらずに働いて稼いできたのだ。

 一旦は父の頼みをきっぱり断った彼女だが、結局、そのとき財布に入っていた3万円だけ渡して退散させた。だが、すんなりカネを渡したことが、かえって何かあると父に思わせてしまう。後日、再びファミレスにやって来た父は、店長(橋本じゅん)の言動からサチと彼の関係に何やら勘づいた(実際には何もないのだが)。ダメダメな父親だが、他人の隠し事に対する嗅覚だけは人一倍効くようだ。

若葉が母親に渡した通帳

 その点は若葉の母親(矢田亜希子)も共通する。この母親もまた、別れて暮らしていたにもかかわらず、若葉が宝くじの当選金を得た直後、突如として現れ、彼女と二人暮らしの祖母・富士子(宮本信子)にカネをよこせと迫った。若葉はそれに対し、とっさに通帳と印鑑を渡そうとする。

 宝くじで得た1千万円をそんなにやすやすと渡してしまうなんて!……と富士子も視聴者も思ったが、じつはそれは当選金を入れたのとは別の通帳であった。それまでにも、旅行や大学受験のためカネをようやく貯めたところで母が襲来しそれを奪い去っていくということが繰り返されてきたため、胸騒ぎがした若葉は事前に用意しておいたのだ。

 こうして若葉は何とか1千万円は守り抜いたとはいえ、くだんの通帳に入った92万円は、それまで彼女がちくわぶ工場でいやな思いをしながらも働いて貯めてきたものである。気持ちとしては1千万円以上の価値があったはずだ。そんな娘の思いには一切考えが至らないまま、母親は涼しい顔でまたどこかへ去っていった。

 もっとも、この母親も母親で、自分の母である富士子に「何でこうなっちまったのかみたいな空気になってるけど、全部親のせいだから」と言っていたところを見ると、親子のあいだにはどうも複雑な過去があるらしい。

 翔子もまた、昔の同級生から美顔器を買わされるなど無駄な出費がかさみ、1千万円を入れた通帳もみるみる残高が減っていた。こんなはずではなかったのに……3人とも思わぬ方向に運命の歯車が狂い出し、互いに助けを求めるような思いで「会いたい」とメッセージを送り合う。

3人のプチ贅沢と「ケンタ」

 こうして再び集まった3人は、翌日の朝まで思う存分遊ぶことにする。まず、おしゃれなスイーツ店でまるで中学生のようにはしゃぎ、そのあとはアンティークショップに長居して、それぞれ友達の歴史について語り合った。

 サチには高校時代にひとりだけ親友(日比美思)がおり、母親のことがあって学校をやめたあとも色々と気遣ってもらったにもかかわらず、つい八つ当たりして絶交してしまうという苦い過去があった。若葉は若葉で、親友だと思っていたクラスメイト(中尾百合音)から裏切られ、心に傷を負っていた。

 翔子はといえば、友達はたくさんいたはずなのに、付き合っているうちになぜか煙たがられ、いつの間にかひとりぼっちになっていたという。それだけにサチと若葉もいずれいなくなってしまうのではないかと、心のどこかで思っていると打ち明け、別れるときはちゃんと言ってと頼むのだった。これに二人は「『そんなことはない』と言ってもだめなの?」と確認したうえで、「じゃあ言うよ」と返すのだが、翔子はそれを聞いて「うわ、言うんだ~」と苦笑する。もちろん、本当に別れるなんて、3人ともみじんも考えていないだろう。冗談交じりのやりとりが、彼女たちの仲が深まったことを逆にうかがわせる。

 サチはこの日、自宅に二人を招待する予定で、その前にもう一軒、家の近所にできたばかりのカフェに案内した。そのカフェは、もともとは酒屋をやっていたサチの同級生の家で、リノベーションしておしゃれな店に生まれ変わっていた。サチは前回初めて入って以来、仕事帰りにちょこちょこ寄るようになったらしい。メニューの名前はどれも長ったらしいが、そういう手の込んだところが、彼女には誰かがいろんなことをしてくれているんだと思えて、プチ贅沢をしている気持ちになれるという。

 サチはふいに、そこの店長らしき男性(川村壱馬)の名前が、翔子の元カレと同じ「ケンタ」だったことを思い出すと、店員に呼んでもらう。このとき、ケンタは漢字では「賢太」と書くこと、そして彼はこの店の店長ではなくプロデューサーであり、この店での仕事はひと段落したのできょうをもって離れると本人から知らされる。ここで賢太から名刺を受け取ったことが、彼女たちのその後の運命につながってゆきそうな予感を抱かせた。

サチの母(和久井映見)もみね君(岡山天音)も!

 それにしても、今回、登場人物のなかでいちばんうれしかったのは、翔子と若葉を自宅に迎えたサチの母・邦子だろう。何しろ、これまでずっと楽しむことを封印してまで自分を世話してきてくれた娘が、自分が応募したラジオ番組のツアーへの参加をきっかけとして友達が二人もできたうえ、家まで連れてきたのだから。この日のため腕を振るってつくったカレーも好評を得る。食事のあとも、サチたちが寝室ではしゃぐ声を、台所で聞きながら満足そうな表情を浮かべる邦子に、見ているこちらも胸が熱くなった。

 いや、邦子と同じぐらい今回うれしかったであろう人がもう一人いた。サチが最初にツアーに参加したときに翔子と若葉に引き合わせてくれた、みね君(岡山天音)だ。サチたちはその御礼として彼に何かおごってあげようと、2度目のツアー中から話し合っていた。ただ、前回、3人で宝くじの現金への引換手続きを済ませた直後、みね君と偶然にも遭遇して話しかけられると、いまは心に余裕がないので、話を聞くのはおごるのと合わせて一旦キープにしてほしいと頼んでいたのだった。それを思い出した3人は、サチの家のわりと近くに住んでいるらしい彼をさっそく呼び出す。

 みね君は、早くに亡くした母が、男社会に対しずっと怒っていたこともあり、女の人には幸せでいてほしいと願っていると、先に3人と会ったときに話していた。彼自身も男社会になじめないところがあったはずだ。サチたちから連絡を受けた際、彼がカラオケボックスで会社の同僚らしき人たちに付き合っている様子からも、そのことがありありと伝わってきた。誘われた途端、喜び勇んだのも当然である。タクシーで待ち合わせのコンビニに到着するや、彼女たちから歓迎されて思わず涙ぐむみね君の姿に、誰かが自分の存在を覚えてくれているというのは、何と幸せなことだろうと思わずにはいられなかった。

 サチたちのあいだでは、みね君を迎えに行くまでに、ある計画が持ち上がっていた。それは、若葉の「一緒にいたい。一緒に生きていきたい。一緒に使いたいです」との一言から始まった。「例のおカネ、山分けとかじゃなくて、3人で一緒にして、一緒に使ったら楽しいのにって思ったんです」との提案に、サチと翔子も乗り気になる。さらにサチからも、「最近寝るときにね、小さなカフェとか3人でやってるのを想像しながら寝てる」と告白すると、二人は「あるんじゃなーい」と意気投合してくれた。山分けした1千万円も、ひとりでならすぐに使い切ってしまいそうだが、3人で一緒にそれを元手に何かを起こせば、儲けを増やすばかりか、幸せをつかみとることも夢ではないだろう。何て前向きな展開! まさに憂鬱になりがちな日曜の夜にふさわしい。

 今回は、前半でサチと若葉がそれぞれ、たかってきた親をどうにか退けてからは、心温まるシーンが続いた。若葉の留守中、富士子もそれまで近所にある自分たちがかつて住んでいた家をずっと監視し続けていたのが、やめる決意をする。それというのも、その家の現在の住人である幸田夫人(生田智子)――コウダではなくサチダと読むらしい――が声をかけてきて、富士子がこだわって設計した家を褒められたうえに、御礼まで言われたからだ。

 ただ、そんな今回にあって、ひとつだけ気になることがあった。それは例のカフェで、賢太の話題が出たとき、若葉が何だか不満げな表情を見せたことだ。彼女としてみれば3人でいるときに、恋愛絡みの話題が出てくるのが許せなかったのかもしれない。母親が男にだらしないがために、いままでさんざん振り回されてきた彼女の身上を思えば、それも無理はない。次回予告では、サチが賢太から下の名前で呼び捨てされるカットが出てきたが、ここから予想されるとおり、もしサチと賢太が恋仲に発展するとして、若葉はどんな態度をとるのだろうか。それを思うとちょっと不安になるものの、たとえどんなことがあろうとも、3人には幸せになってほしい。

●ドラマ『日曜の夜ぐらいは…』3話を考察。運に恵まれなかった3人にとって、人生を変えるに十分な額「1千万円」を狙うのは“久々の人物” 

●ドラマ『日曜の夜ぐらいは…』2話を考察。サチ(清野菜名)が楽しみを禁じるのは、母(和久井映見)への負い目?そして母も…

●ドラマ『日曜の夜ぐらいは…』は車椅子の母からの贈り物から始まる。「たまには私から離れて、思いきり笑ったりしてらっしゃい」

文/近藤正高 (こんどう・ まさたか)

ライター。1976年生まれ。ドラマを見ながら物語の背景などを深読みするのが大好き。著書に『タモリと戦後ニッポン』『ビートたけしと北野武』(いずれも講談社現代新書)などがある。

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