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ドラマ『日曜の夜ぐらいは…』3話を考察。運に恵まれなかった3人にとって、人生を変えるに十分な額「1千万円」を狙うのは“久々の人物”

 ラジオ番組のバスツアーで出会った3人(清野菜名、岸井ゆきの、生見愛瑠)が一緒に買った宝くじのうち、サチ(清野菜名)の持って帰った1枚は、3千万円の一等当たりくじでした。約束通り山分けしようと再会した3人は、絶対幸せになろうと誓い合いますが、不穏な空気がただよいはじめて……。『日曜の夜ぐらいは…』(テレビ朝日系 日曜よる10時〜)3話を、ライター・近藤正高さんが振り返り、今後の展開を考察します。

大金を手にした彼女たちの運命は?

『日曜の夜ぐらいは…』では前回、第2話のラストで、主人公のサチ(清野菜名)が宝くじで1等の3千万円を当てた。その宝くじは、以前、ラジオ番組主催の旅行ツアーで出会った翔子(岸井ゆきの)と若葉(生見愛瑠)と一緒に購入したものだった。そのとき、当たったら3人で山分けすると約束したのを思い出したサチは、再度ツアーに参加して、めでたく彼女たちと再会を果たす。

 じつは、ツアーに出かける前、サチは母の邦子(和久井映見)から、3千万円を山分けすることを反対されていた。もちろん、邦子が反対したのは、賞金を母子で独り占めしたいという欲得からではない。あくまでサチには幸せになってほしいという親心からである。

 ツアー出発の前夜にも「もう1回だけね。憎まれ役なのはわかってるけど、あなたのためにね。幸せになってほしいからさ、お母さん、あなたに」とダメ押しする邦子に、サチは言い出したことを撤回こそしなかったが、その思いは理解して「ありがとう。もう言わないで」と返した。それに対し、邦子がおどけるように頬をふくらませたのが、何ともかわいらしかった。サチがこれまでつらいことがあっても耐えてこられたのも、邦子のこうした愛嬌ある性格のおかげなのかもしれない。

 それにしても、3人で分けた1千万円という金額は考えるにつけ、ドラマ的に絶妙な設定である。たしかに大金ではあるけれど、劇中でサチも言っていたように、けっして一生遊んでいけるほどの額ではない。また、若葉が2人暮らしをしている祖母の富士子(宮本信子)に、以前住んでいた家を買い戻すとしたらいくらかかるかとさりげなく訊ねたところ、「7千万ってとこか」という答えが返ってきたのを見ると、それ相応の家を買うにはまだ足りない額のようだ。

 それでも、いままで運に恵まれなかった3人にとっては、1千万円は人生を変えるに十分な額ではあることは間違いない。果たして大金を手にした彼女たちに一体どんな運命が待ち受けるのか、期待と不安を抱きながら見守った先週(5月14日)放送の第3話であった。

みね君の偶然

 第3話の冒頭では、前回のラストからちょっとさかのぼり、サチが宝くじの番号を確認する様子が描かれた。母の邦子にも見てもらい、たしかに当選したとわかっても、サチは逆に不幸の始まりだと頭を抱える。あとできつくなるからと、自らに楽しむことを禁じてきたサチらしいといえばらしい。彼女が、賞金を翔子と若葉に山分けすると約束していたのを思い出したのは、このあと、頭を冷やすため、団地の公園にあるパンダの像に向き合ったときだった。

 もちろん、山分けすることにしてもサチの不安が消えたわけではない。ツアーの宿泊先の旅館でも、彼女は久々に会った2人とはしゃぎながらも、「期待とかするからがっかりするし、自分の人生にそんないいことが起きるはずがないと思っちゃうんだ」と本音を漏らし、「母も言ってたけど、どんだけ後ろ向きなんだって話なんだけど」と自嘲する。

 筆者も、あらかじめ最悪の事態を想定しておけば、少しぐらい悪いことが起こってもあきらめがつくと考えてしまうタチだけに、サチの気持ちはよくわかる。まあ傍から見れば、サチが自嘲したように、それはあまりに後ろ向きでネガティブな姿勢なのだろうが……と思っていたら、若葉がいきなり「そんなことないと思います。お内裏様(サチのニックネーム)は後ろ向きなわけじゃないです」と言い出し、次のように続けた。

「現実から逃げてないですから。背を向けていないので、ちゃんと前向きです。しっかり前を見てるから、慎重になったり、拒絶したりしてしまうわけで。むしろそれこそが前向きです。前向きだから進まないという選択肢もあると、私は思うのです」

 何という説得力。一体、この子は人生何周目なの!? と思わせた。若くしてそんな達観した見方ができるのは、若葉自身がそれまで苦労してきたからなのだろう(おばあちゃん子というのもあるかもしれないが)。

 しっかり者の若葉に加え、場をなごませるムードメーカー的な翔子のおかげで、サチの不安も少しはやわらいだようだ。ちょっと気が大きくなった3人は、ロビーで遭遇した「みね君」ことツアーの幹事役の市川みね(岡山天音)や、ラジオ番組のパーソナリティであるエレキコミックの2人(やついいちろう・今立進)に、自販機のビールをおごる。

 もっとも、みね君は「俺をすごーく安くあげようとしてませんか」と警戒し、おごるのはまた別の機会にキープしておいてほしいと保留した。何とも面倒くさい反応ではあるが、考えてみれば、宝くじが当たったのも、彼が3人を前回のツアーでバスの席を隣り合わせにして出会わせてくれなければありえなかったのだから、1千万円の御礼に缶ビール1本ではちょっと割に合わないかもしれない(そもそもサチに再びツアーがあると知らせたのも彼だったわけで)。

 そのみね君は、後日、3人が再び集まって銀行で宝くじを賞金に引き換えてもらうための手続きを済ませたあと、喫茶店にいたところへ偶然現れる。振り返れば、彼は前回、サチの働くファミレスに来たときも、翔子の運転するタクシーに乗ったときも偶然だと言っていた。こう何度も続くと、本当にそうなのかちょっと疑いたくなる。とはいえ、サチから「いま話を聞いている余裕がないので、キープで」とやんわり拒まれたにもかかわらず、彼がまた会ってくれるのだと真に受けていたのを見ると、どうも本当に偶然だったらしい。

破滅へのカウントダウンのようで怖い

 肝心の宝くじの賞金は、銀行で手続きして実際に口座に振り込まれるには1週間待たねばならなかった。それでも3人にとっては、じれったくも、希望に満ちた1週間となる。どれだけつらいことがあっても、もうすぐ大金が手に入ると思えば乗り越えられた。むしろ、その後訪れる現実を思えば、このときが彼女たちにとって最良の日々であったのかもしれない。

 好事魔多しとはよく言ったもので、1千万円が口座に振り込まれた途端、それを狙い撃ちするかのように彼女たちの前に続々と“久々の人物”が現れた。

 翔子は1千万円が振り込まれてからというもの、心の隙間を埋めようとしてか、つまらないものばかり買い込んでは我に返り、落胆していた。そこへつけ込むように、昔の学校の同級生から突然連絡があり、会って美顔器を買わされるはめになる。話をするうち、相手が翔子と同姓の同級生と勘違いして連絡を取ってきたとわかったのだが、それでも買い取ったのは、やはり翔子のなかで何か満たされないものがあるからだろう。彼女の通帳の残高がみるみる減っていくさまが、何だか破滅へのカウントダウンのようで怖い。

 若葉も、祖母の富士子に宝くじが当たったと知らせたあとで、昔からこんなことがあるたびに“あの人”が来て全部持って行ってしまう……と不吉な予感を口にする。案の定、その予感が的中してしまう。その日、若葉と富士子が仕事から帰宅すると、“あの人”=いまは離れて暮らす若葉の母親(矢田亜希子)がカネをせびるため待っていた。身なりを見るかぎりでは、若葉たちよりよっぽどいい暮らしをしていそうなのに、母親は「でなきゃ死んじゃう」と富士子を脅してまでカネを出させようとする。その様子にたまりかねた若葉は、富士子が止めたにもかかわらず、1千万円の入った通帳を印鑑と一緒に渡してしまった。

 そしてサチは、母の邦子に先に約束したとおり新しい車椅子を買ってあげると、さっそく一緒に散歩に出かける。このとき、2人の楽しそうな姿を見ていた者がいた。サチの別れた父親(尾美としのり)だ。父は前回の回想シーン(おそらく10年ほど前)とくらべると白髪も増え、立場的にも落ちぶれた雰囲気を漂わせていた。それだけに、こりゃ何かあるなと思ったら、これまた案の定、サチのバイト先にやって来たかと思うと、泣きながら土下座して「頼む、助けてくれ」と懇願するのだった。第3話はそこで終わったが、サチはこれにどう応じるのか。

 賞金が振り込まれてから、ドラマ後半のわずか10分ほどのあいだに、サチたちの運命は大きく揺らぐ。この分だと、せっかく当てた1千万円も早々に彼女たちのもとから離れていってしまいそうである。幸せはけっしてお金で買えるものではないということなのか。だとすれば、彼女たちはいかにして幸せをつかもうとするのか、あるいはしないのか……どう転ぶにせよ、今後の展開にますます目が離せない。

 第3話では、これまでにもたびたび登場した、サチの近所にオープンしたカフェのプロデューサー(川村壱馬)の名が「ケンタ」だと判明した。翔子が高校時代に初めてつきあった彼氏と同じ名前である。翔子はその名前をタトゥーにして彫ってしまったため、次につきあうのもケンタしかいないと言っていただけに、サチはこのプロデューサーをいずれ翔子に紹介するのだろうか。今後、彼が物語にどうかかわってくるかも含めて、気になるところである。

●ドラマ『日曜の夜ぐらいは…』2話を考察。サチ(清野菜名)が楽しみを禁じるのは、母(和久井映見)への負い目?そして母も…

●ドラマ『日曜の夜ぐらいは…』は車椅子の母からの贈り物から始まる。「たまには私から離れて、思いきり笑ったりしてらっしゃい」

文/近藤正高 (こんどう・ まさたか)

ライター。1976年生まれ。ドラマを見ながら物語の背景などを深読みするのが大好き。著書に『タモリと戦後ニッポン』『ビートたけしと北野武』(いずれも講談社現代新書)などがある。

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