60代女性が注意すべきメンタル不調 心の健康を保つ8つの方法を精神科医師が指南
ストレス社会においてメンタル不調を訴える人は年々増加している。厚生労働省の患者調査(2017年)によると、男性のうつ病患者は49.5万人、女性は78.1万人で女性が圧倒的に多く、年齢別では女性の40代、60代後半から70代に多く見られる。そこで、心の健康を保つ生活のポイントについて、精神科医の尾林誉史さんに聞きました。
60代女性が注意すべきメンタル不調
「女性にうつ病が多いのは、月経、妊娠・出産、更年期など女性ホルモンの変動が心身に影響を及ぼし、心が不安定になるからといわれています。特に更年期には、女性ホルモンのエストロゲンが急激に減少するため、疲労感やイライラ、不眠、不安感など心身の不調が表れ『更年期うつ』になることも。そして60才を過ぎると見た目や身体機能などに変化が表れ、『老化』を感じることで不安が増すのです」
また、60代は介護など家庭内での役割も増えるため、仕事と家事を両立させるためには肉体的、精神的にも大きな負担を強いられる。こうした状況に気候の変動や環境変化が重なると、心身に負担がかかり、メンタル不調に陥りやすくなるのだ。
「体や生活環境が変化することで心が不安定になったり、寂しく感じることはとても自然なこと。そういう心持ちになること自体は、決して悪いことではありません。
ただ、変化を受け入れるにはある程度の時間が必要なため、『これからの人生、次は何をやろうか』という希望より、『この先、どうなってしまうんだろう』という不安を抱いても、一時的なものなら心配する必要はありません」
メンタル不調にならないための8つのポイント
【1】とにかくダラダラ、ゴロゴロして休む
体の疲労サインに続き心に症状が出ているときは、神経伝達物質のセロトニンやノルアドレナリン、ドーパミンなどが不足し、それがもとで脳疲労も起きている状態。
「まずはきちんと休むこと。何もできず気力がないなら、ダラダラして体と心の疲れを取りきること。眠いと思ったら一日中寝ていてもいいんです。いわば心のデトックス。何も考えず、一生懸命ダラダラしてください」(尾林さん・以下同)。
【2】好きなこと、楽しいことに没頭する
現代社会は、誰しも生きているだけでストレスを抱えやすい。ストレスフリーに生きようと思ったら、ふだんから意識的にストレスを発散するように心がけた方がいい。それには、好きなことを見つけて心置きなく楽しむことだ。
「自分の価値観で好きなことを見つけ、楽しむのがいちばんです。そこに仲間が見つかれば連帯感が生まれ、会話も楽しむことができるので、ストレス発散率も高まりますよ」。
【3】あえて変化を求めず、環境になじむ
春のメンタル不調の原因は「変化」にあることが多い。そんなときに無理をして規則正しい生活をしようとしたり、運動を始めるなどさらなる「変化」を加えると、ますます心は適応できず、症状は悪化しかねない。
「新しい環境になじむように、ゆったりとした生活を心がけてください。『〇〇せねば』と頑張ってしまうと、疲労と焦りが重なってしまいます。『〇〇したい』と思えるまで待ちましょう」。
【4】完璧を求めず、「いい加減」「適当」を目指す
何でもきちんとこなそうと思うと、できなかったときに自分に厳しくしてしまい、心に負担をかけてしまうことがある。
「私の好きな言葉は『いい加減』と『適当』です。皆さんも、もっと自分に優しく、積極的に手抜きをしてください」。家事に追われている場合は、ロボット掃除機などの便利家電を導入してもいい。食事は冷凍食品や総菜を利用し、「全部自分で」と抱え込まないのが得策だ。
【5】自分へのご褒美としてプチ贅沢をする
頑張りすぎから「手を抜く」という方向にシフトし自分をあえて甘やかすことと、頑張った自分に「ご褒美」を与えるという感覚は、心の水位を保つ上で両輪の役割を果たすという。
「頑張るのが普通の人は、いきなり甘えるとか、手を抜くのは難しい。でも、頑張った成果としてプチ贅沢をするのは取り入れやすいと思うので、自分に優しくなれるように両面から取り組んでみるといいですね」。
ご褒美スイーツや、主婦業を1日休むなど、できそうなことからやってみよう。
【6】よもやま話・井戸端会議を楽しむ時間を作る
コロナ禍でめっきり少なくなったが、地域の情報交換の場でもある井戸端会議は、メンタルヘルスの上でもとてもよい仕組みだ。
「日常のささいなことについてこぼしたり、ちょっとした出来事について話すのは、心の内を吐き出し、ほかの人のことを知るという点でも、心の安全装置としての役割があると思います。くだらないと思うことほどシェアすることが大切です。意識的に井戸端会議の場を作りましょう」。
【7】友人・知人関係を見直し、価値観をシェアする
人間関係はメンタル不調に直結するため、定期的な友人や知人関係の見直しは大切だ。
「こと人生における辛酸みたいなところは経験した者同士でないとわかり合えないもの。昔からの友人や知人と価値観をシェアし、お互いの労苦を認め合う作業は必要です。しかし、環境の変化によって、人間関係も変わって当然。無理してつきあい続ける必要はありません」。
合わない人との関係は整理することが、心に平安をもたらす。
【8】メンタルが安定しているときに新しいことに挑戦する
好奇心を持って新しいことに挑戦するのは、心豊かに生きていくためには重要なことだ。
「年を重ねるごとに、家族や仲間たちとの別れが増えてくる。何もしなければ孤独にさいなまれ、精神状態も不安定になりがちなので、未来を見据えて新しいことに挑戦しましょう。コミュニティーを形成して、趣味や好きなことを充実させていくことは、孤独にひもづく不安や寂しさを吸収する要素になるので、おすすめです」。
教えてくれた人
精神科医・産業医 尾林誉史(おばやしたかふみ)さん/『VISION PARTNERメンタルクリニック四谷』院長。東京大学医学部附属病院精神神経科に所属。著書に『元サラリーマンの精神科医が教える 働く人のためのメンタルヘルス術』(あさ出版)など。
取材・文/山下和恵 イラスト/オカダナオコ
※女性セブン2022年5月5日号
https://josei7.com/