親がうつっぽくなった時は、受診すべきか?薬は?|700人以上看取った看護師がアドバイス
親がうつっぽくなって元気がなくなったり、「死んでしまいたい」と言ったりすることは少なくない。どうなったら、病院に行って薬を服用するのがいいのだろうか。看護師として700人以上を看取ってきた宮子あずささんに、アドバイスをしてもらった。
→うつっぽくなった親に「頑張って」と言っては絶対にだめなのか…
眠れなくて、認知機能も落ちているようなら病院で相談を
うつ状態というのは、簡単に言うとエネルギーが低下していることです。前回お話したように、身体と気持ちのギャップのために元気がなくなっていっている症状です。
●まずはかかりつけの医師に相談するのもいい
多くの人がおちいる状態ではありますが、眠れなくて、認知機能も落ちているようなら、心療内科や精神科にかかることを考えなくてはなりません。あるいは、まずはかかりつけの内科の先生に相談してみるといいでしょう。
認知機能が落ちているというのは、明らかな物忘れがあったり、以前と比べて受け答えがとんちんかんになったりしているということです。急に機能が落ちてきたら、周囲から見ていてもわかるはずです。
●眠れない時に処方される可能性のある薬は3種類
このような状況で病院に行くと、薬を出される可能性があります。眠れない時に処方される薬は大体以下の3種類です。
1.睡眠薬(眠剤)・睡眠導入剤
2.抗うつ剤
3.抗不安剤
薬のメリット・デメリット
薬を飲むことのメリット・デメリットをわかっていたほうがいいでしょう。3種類のどれも、足を取られる危険性があります。高齢者の場合、いちばん怖いのは転倒です。残念ながら、病院に行ったら薬を飲まされて転んでしまったということもあります。
多くの医師が、そこを気にして処方してはいます。慎重な先生は、薬を処方するにあたって、独居の場合など入院を勧めることもあります。夜、見ている人がいないと言うのだったら相談してみるといいと思います。ただし、入院して環境が変化するために調子を崩す場合もあるので、難しいところです。
飲んで足元がふらついて怖いようだったら、薬を替えることになります。いろんな種類の薬があるので替えてみることができます。薬の効き方も副作用の出かたも人によって大きな差があります。
ちなみに、足元がふらつく場合は、いきなり起きたりしないで、ゆっくり立ち上がるようにするのが大事です。
薬が合わないようなら、医師に言ってみる
この薬は心配だと思ったら、ためらわず医師に言ってみることです。医師に文句をつけるようでどうだろうかと逡巡するかたもいますが、医師に副作用の出かたまで予測することはできないので、責めていることにはなりません。しかも、最近の医師は、患者や家族から何か言われることに慣れています。我慢せずどんどん言ってみてください。
いつからどういうことが起こっているか、具体的に状況を伝えます。これなら、非難がましいのではないかと心配しなくてもいいと思います。
医師が合わないようなら、医師も変える
さらに、この先生はどうもだめかもしれないと思ったら、先生も変えたほうがいいのです。相性ということはあるので、先生と話しにくいという理由でも我慢しないで変えることを考えてみてください。最近の医師は、患者が来たり離れていったりすることにも慣れています。
●クリニックを変えるのは簡単。病院の中で変わるなら
クリニックに通っていて、別のクリニックに変わるなら簡単です。ひとつの病院の中で担当医を変えてもらうことのほうが、ちょっと大変かもしれません。変えたい場合は「木曜日に来られなくなったので」と言って、今担当している医師が外来に出ていない曜日に行くようにするという方法があります。
●できれば話して紹介状を書いてもらう
病院を変える場合、黙って変えてしまうよりは、治療の継続性という意味から、できれば話して紹介状を書いてもらうのが理想です。
「家から近いほうがいいから」「臨床心理士がいてゆっくり話を聞いてもらえるところに通いたいから」逆に「やはり大きい病院で診てもらいたいから」などと理由がつけられると、話しやすいかもしれません。
変えることを話しにくい場合は、いつからどういう症状があって、どういう治療を受けていたかを新しい先生になるべく伝えられるように、整理しておくといいでしょう。こういう時のためにも、日頃からお薬手帳をきちんと使っていることが必要ですね。
どうしても医師にかかった方がいい場合は
早く医師にかかったほうがいいのは、焦燥感がある場合です。焦りがひどくて、じっとしていられないようになっているなら、早く薬を使う必要があります。自殺のリスクも考えておいたほうがいいでしょう。周囲に注意を払えなくなっていることもあるので、車にはねられるとか、駅のホームから落ちるといった事故に遭う可能性もあります。
<親がうつっぽくて病院に行く時のまとめ>
●眠れなくて認知機能も落ちているなら病院で相談する
●眠れない時に処方される可能性のある薬は、足を取られる可能性がある
●足を取られるようだったら薬を替えることになる
●薬が合わないようなら、状況を伝える
●医師がどうも合わないようなら、クリニック・病院を変える
●治療の継続という意味からは、話して紹介状を書いてもらうほうがいい
●焦燥感がある場合は、早く医師にかかったほうがいい
今回の宮子あずさのひとこと
●私は看護婦としてどう接しているか
私が、看護師としてうつ状態のかたと接する時には、自分のテンションを一定にするように心がけています。相手が暗いからこちらも暗くというのではなく、安定して明るめに淡々と、かつイキイキと、というところでしょうか。
うつ状態になっていると、自分の内面の暗いところばかり見ています。いわばおへそをのぞき込んで内にこもって暮らしているようなものです。こちらは相手が落ち込んでいるのにつきあっていかないで、少しでも現実感が持てるような日常的な話をするといいと思います。
相手の内面ではなく、とりあえずこちらが手出しできるような、例えば「このあとは何をするんですか」とか「お食事はどうなさるんですか」といった生活の面について話しかけてみます。相手が落ち込んでいるからと、そちらに入っていって一緒に暗くならず、「明るめに淡々とイキイキと」を試してみていただければと思います。
教えてくれた人
宮子あずさ(みやこあずさ)さん/
1963年東京生まれ。東京育ち。看護師/随筆家。明治大学文学部中退。東京厚生年金看護専門学校卒業。東京女子医科大学大学院博士後期課程修了。1987年から2009年まで東京厚生年金病院に勤務。内科、精神科、緩和ケアなどを担当し、700人以上を看取る。看護師長を7年間つとめた。現在は、精神科病院で訪問看護に従事しながら、大学非常勤講師、執筆活動をおこなっている。『老親の看かた、私の老い方』(集英社文庫)など、著書多数。母は評論家・作家の吉武輝子。高校の同級生だった夫と、猫と暮らしている。
構成・文/新田由紀子
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