「もう死にたいよ」と親に言われたらどう返すか。毒蝮三太夫がアドバイス【連載 第36回】
高齢の親や祖父母と話していると、いきなり「俺だって、いつどうなるかわからない」「長生きしたところで、いいこともないしねえ」といったセリフが飛び出して、リアクションに困ることがある。「死」の話題には、どう返すのが“正解”なのか。高齢者の気持ちを誰よりも熟知している毒蝮さんに、本音でレクチャーしてもらった。(聞き手・石原壮一郎)
年寄りに「死ぬのはいつでも死ねるよ」ぐらい言ってもいい
俺自身も後期高齢者だから、死について考えることもある。怖いと思ったことはないけど、「どんな感じなのかな」って気にはなるよね。だけど、心配したってしょうがない。「なるようにしかならない」って境地だよ。
今はコロナ以前みたいにはできないけど、ラジオの中継でジジイやババアが集まってるところに行くと、「もう死にたいよ」って言ってるのがよくいた。「じゃあ、死んじまえばいいじゃねえか」って言いたいけど、さすがにそうはいかない。向こうは「そんなこと言わないで長生きしてください」って言ってほしいわけだ。そう言われることで「自分はまだ生きてていいんだ」って思いたい気持ちもあるんだろうな。
俺はそんなときには、「好きなものが何かあるだろ?」って聞いてみる。天丼が好きだとかうな重が好きだとか、相撲を見るのが好きだとか、誰だっていろいろあるじゃない。死んじゃったらそれ食えないよ、もう見られないよ、そんなふうに言うことが多いね。
マムシが来るからって集まってくれたジジイやババアだから、「死んじゃったら俺に会えないよ。いいのか?」って聞くと、「よくない。会いたい」って言ってくれる。「じゃあ、元気で生きてなきゃダメだ。元気ならまた会えるからな」って言うと、「そうだな。そうするか」って。人に言うばっかりじゃなくて、俺のほうだって元気でいなきゃいけない。相乗効果になるから、俺はよくそう言ってやるんだよ。
毒蝮三太夫が伝授。ラジオ中継で培った困った発言の受け止め方「第12回 絶妙な返し」
自分の親が「もういつ死んでもいい」なんて言い出したときも同じだ。「まだまだ長生きしてよ」だけだとなんかつかみどころがないし、決まり文句で言っている感じになっちゃう。「あわてて死んだら、好きなお寿司も食べられないよ」「孫の○○と遊べなくなってもいいの」なんて言って、「そりゃ困る」と思わせるのがいいんじゃないかな。
「コロナが落ち着いたら、またみんなで旅行に行こうよ。どこに行きたい?」なんて、楽しい計画を立てるのもいいね。親だって、本気で「死んでもいい」と思ってるわけじゃない。そういう気弱なことを言ってるのは、たぶん寂しいからだ。「まだまだ孫の面倒見てもらわないと困るんだから」って頼ってやるのもいいんじゃないか。
「あなたが生きていてくれることが役に立っている」
だけど、元気な親にはそれでいいとしても、病気で寝込んでいる場合はそうはいかない。病院を何度も出たり入ったりしてる親に「もう死んだほうがマシだよ」なんて言われたら、どう答えていいか困っちゃうよな。
俺なんか、入院している友達の見舞いに行って気弱なこと言われると、ブラックジョークで「いやー、死ぬのもいいもんだよ。あの世では知ってるヤツがたくさん待ってるから、早く行ってみるか」なんて言ってやるんだけどね。でも、こっちも同じぐらいの歳だからかろうじてジョークになるけど、子どもが親に対してそんなこと言えないよな。
「あの世に行っちゃったヤツらがたくさんいるけど、あの世がいいところかどうか、ぜんぜん言ってこない。報告してくるまで待てばいいよ」って言うこともある。
「死ぬのはいつでも死ねる。あわてる必要はない。死ぬことを不安に思うより、それまでは生きることを楽しもうよ」ってね。こっちなら、親にも言えるかな。
人間が歳を取っていちばん寂しいのは、自分は役に立ってないんじゃないかっていう気持ちになることなんだ。役に立ってる実感、いわゆる有用感を持てなくなる。元気な状態ならもちろん、たとえ寝たきりでも、「あなたが生きていることが役に立ってるんだ」っていう意味のことを言ってあげるといいよね。
「母さんのおかげでこんなに大きくなれたし、こうやって元気でいられる」でもいいし、「おばあちゃんと会って話をすると、また明日から仕事をがんばれる」でもいい。あなたが生きていてくれてありがたいんだってことを強調してあげることが大事だね。
世の中が「コロナ、コロナ」になっちゃって、もう1年だよ。テレビをつけたら怖いニュースばっかりで、元気をなくしている年寄りも多い。遠くに住んでると今は電話になっちゃうけど、少しでも元気が出るようなこと、生きてるのが嬉しいと思えるようなことをたくさん言ってやってくれよ。やさしくすることで、言ってるほうだってあったかい気持ちになれるはずだ。ほら、やっぱり年寄りは、生きてるだけで役に立ってるじゃないか。
マムちゃんの極意
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毒蝮三太夫(どくまむし・さんだゆう)
1936年東京生まれ(品川生まれ浅草育ち)。俳優・タレント。聖徳大学客員教授。日大芸術学部映画学科卒。「ウルトラマン」「ウルトラセブン」の隊員役など、本名の「石井伊吉」で俳優としてテレビや映画で活躍。「笑点」で座布団運びをしていた1968年に、司会の立川談志の助言で現在の芸名に改名した。1969年10月からパーソナリティを務めているTBSラジオの「ミュージックプレゼント」は、現在『土曜ワイドラジオTOKYO ナイツのちゃきちゃき大放送』内で毎月最終土曜日の10時台に放送中。84歳の現在も、ラジオ、テレビ、講演、大学での講義など精力的に活躍中。最新刊『たぬきババアとゴリおやじ 俺とおやじとおふくろの昭和物語』(学研プラス)は幅広い年代に大好評!取材・文/石原壮一郎(いしはら・そういちろう)
1963年三重県生まれ。コラムニスト。『大人養成講座』『大人力検定』など著書多数。この連載ではマムシさんの言葉を通じて、高齢者に対する大人力とは何かを探求している。
撮影/政川慎治