毒蝮三太夫がこども新聞で呼びかけた高齢者に対する「3つのかける」とは?【連載 第33回】
「笑顔で話しかける」「肩に手をかける」「気にかける」――。年寄りと接するときに大切なのは3つの「かける」だと、毒蝮さんは言う。いつもとは違う様相の年末年始、会いたくても会えない親とどうコミュニケーションを取るか。新しい年は、コロナ禍で変化した人と人との関係をどう元に戻していけばいいか。マムシさんが提案する。(聞き手・石原壮一郎)
コロナのせいで誰もが「気にかける」を忘れている
このあいだ『読売KODOMO新聞』(2020年12月3日)が「長寿大国ニッポン」って特集※をしたんだけど、その表紙で読者の子どもたちに向けて手紙を書いたんだよ。自分が子どものときに銭湯で会った怖いジジイのことや、年寄りには「笑顔で話しかける」「肩に手をかける」「気にかける」の3つの「かける」が大事なんだよっていう話だ。
※https://www.yomiuri.co.jp/kodomo/fromeditor/latest/20201201-OYT8T50057/
3つの「かける」は、本で読んだり教わったりしたわけじゃない。下町で育った経験や長年のラジオの中継を通して俺が考えた。聖徳大学で20年やってる講義でも、女子学生に最初の頃から言い続けてる。最近は核家族がほとんどで、身近に年寄りがいない子が多いから、どう接していいかわかんないんだよな。
そしたら本家の『読売新聞』(2020年12月4日)の「編集手帳」って囲みのコーナーで、俺の手紙のことを取り上げてくれた。そんなことはめったにないらしい。記事は「三つ目がずしりとくる」で締めくくられてた。たぶん、記者の人は「最近、自分も含めて『気にかける』がおろそかになっているかもしれない」と思ったから、そういう締め方で問題提起をしたんじゃないかな。
いちばん最初の「笑顔で話しかける」っていうのは、「あなたに敵意はありませんよ」「私は味方ですよ」っていうサインだよね。年寄りに限らないけど、誰だって初めての相手は警戒する。「どんなこと言い出す気なんだろう」「嫌なヤツなんじゃないか」ってね。笑顔を見せて話しかけることは、ちゃんと向き合って、心を開いてもらうための第一歩だ。
知ってる相手でも同じことなんだよな。朝、会社にきてムスッとした顔で黙ってると、周囲は「今日は機嫌が悪いのかな」「なんか怒らせるようなことしたかな」って不安になっちゃう。「おはよう。いい天気だね」って挨拶するのが大事だっていうのは、相手に余計な気を遣わせないための配慮なんだ。これは家族でも同じことだよね。
「肩に手をかける」は、スキンシップが大事だってことだ。笑顔で話しかけながら肩や腕に手を置くと、相手はさらに安心するし、距離が縮まった気がする。看護師さんや介護士さんも、そういうふうにしてるよね。ただ、これは年寄りに対しては大事な心得だけど、会社で男性上司が部下の女性にやると怒られちゃうな。気を付けてくれ。
いちばん難しいのが、3つ目の「気にかける」だ。難しいけど、いちばん心に響く。たとえば、コンビニに毎日のように来るおばあさんが、しばらく顔を見せなくて、1週間ぶりに来たとする。アルバイトの店員さんが「しばらくお見かけしませんでしたね」と言ったら、「ちょっと風邪ひいてて」と返ってきた。「それはたいへんでしたね」「ありがとう。もう大丈夫よ」なんて話になったら、おばあさんは嬉しいよね。
「気にかける」にはすごいパワーがあって、かけてもらった側だけじゃなくて、かけた側もあったかい気持ちになれる。「気にかける」は人のためならず、なんだよな。ただ、「ちょうどいい気にかけ具合」を保つのは、そう簡単じゃない。やり過ぎるとおせっかいになるし、「ほっといてくれ」と思われちゃう。相手に想像力を働かせる必要があるんだよな。
年末年始帰省を取りやめた人たちへ
2020年もあと少しだけど、今年は世界中が「コロナ」に振り回された一年だった。日常生活にいろんな影響があったけど、人と人との関係も変化してる。誰しも心に余裕がないから、周囲の人を「気にかける」ことが疎かになりがちなんじゃないかな。「ソーシャル・ディスタンス」じゃないけど、物理的にも心理的にも距離が離れちゃった。
このお正月は、帰省を取りやめた人も多い。親の側も子どもの側も「今年はしょうがない」って納得はしてても、やっぱり寂しいもんだ。いつも以上に、電話や手紙で「ちゃんと気にかけてるよ」ってことを伝えようじゃないか。スマホやパソコンを使えば、テレビ電話だってできるんだろ?年寄りに使い方を覚えさせるのも、いいボケ防止になるかもしれない。
ちょっと奮発して、肉やカニを送ってあげるのもいいね。「いっしょに食べられなくて残念だけど」なんて伝えてさ。料理が好きな親だったら、「母さんのおせち料理を送って欲しい」って頼めば、きっと張り切ってくれるよ。「お礼に何かプレゼントを贈るよ。欲しいものない?」って聞いてあげたら、親はきっと嬉しいよ。
明けて2021年は、親子も家族も友達も、お互いがお互いを「もっと気にかける」ことを目標にしたいね。コロナ野郎の乱暴狼藉はまだ収まりそうにないけど、災い転じて、大事な相手とこれまで以上にいい関係を築いていこうじゃないか。
マムちゃんの極意
毒蝮三太夫(どくまむし・さんだゆう)
1936年東京生まれ(品川生まれ浅草育ち)。俳優・タレント。聖徳大学客員教授。日大芸術学部映画学科卒。「ウルトラマン」「ウルトラセブン」の隊員役など、本名の「石井伊吉」で俳優としてテレビや映画で活躍。「笑点」で座布団運びをしていた1968年に、司会の立川談志の助言で現在の芸名に改名した。1969年10月からパーソナリティを務めているTBSラジオの「ミュージックプレゼント」は、現在『土曜ワイドラジオTOKYO ナイツのちゃきちゃき大放送』内で毎月最終土曜日の10時台に放送中。84歳の現在も、ラジオ、テレビ、講演、大学での講義など精力的に活躍中。最新刊『たぬきババアとゴリおやじ 俺とおやじとおふくろの昭和物語』(学研プラス)は幅広い年代に大好評!取材・文/石原壮一郎(いしはら・そういちろう)
1963年三重県生まれ。コラムニスト。「大人養成講座」「大人力検定」など著書多数。この連載では蝮さんの言葉を通じて、高齢者に対する大人力とは何かを探求している。
撮影/政川慎治