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毒蝮三太夫が明かす「俺の人生にとっての『ウルトラマン』」【連載 第35回】

『ウルトラマン』と『ウルトラセブン』に出たことは、俺という人間とは切っても切り離せない」と毒蝮さんは言う。絶大な人気を集めた巨大ヒーローは、出演者の役者人生も大きく変えた。コロナウイルスと人類との戦いが続いているが、そんな中、かつて怪獣や宇宙からの侵略者と戦っていた頃の貴重なエピソードを語ってもらった。(聞き手・石原壮一郎)

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「マン」や「セブン」で共演していた仲間に怒ったことがある

 一都三県だけじゃなくて、全国のあちこちの府や県に「緊急事態宣言」が発出された。身内の年寄りと直接会って話をするのも、今は我慢の時期だ。政府や政治家にはいろいろ言いたいこともあるけど、とにかく一人ひとりが感染防止に気を付けて、どうにか早くコロナを抑え込もうじゃないか。

 前回は『ウルトラマン』に出ることが決まったときの話や、撮影が過酷だったっていう話をした。

→『ウルトラマン』が誕生して55年後の今も人気がある理由|毒蝮三太夫インタビュー【連載 第34回】

『ウルトラマン』と『ウルトラセブン』に出たことは、放送が終わってからも、石井伊吉から毒蝮三太夫になってからも、俺という人間とは切っても切り離せない。55年たった今だって、こうして求められて話ができるんだから、こんな幸せなことはないよ。


 いっしょにやってた仲間の中には、ひとつのイメージで見られたくないからって、『ウルトラマン』や『ウルトラセブン』の話をしたくないって言ってた連中もいた。だけど、それは無理な話なんだよ。あれだけ強い印象を残す役をやっちゃったんだから。

『ウルトラマン』でフジ隊員をやった桜井浩子も、『ウルトラセブン』でアンヌ隊員をやったひし美ゆり子も、一時期は離れようとしてた。ふたりに限らず、それぞれいろんな映画やテレビドラマに出てたからね。だけど、桜井浩子が『特別機動捜査隊』に出てたとか、ひし美ゆり子が『プレイガール』に出てたとか、こう言っちゃ悪いけど、覚えている人はあんまり多くないんじゃないか。

 俺は『笑点』に座布団運びで出てるときも、いきなり「シュワッチ!」なんてやってた。今のテレビ東京(東京12チャンネル)で「ウルトラシリーズ」を紹介する番組をずっとやってたんだけど、その解説みたいなことを20年ぐらいやったりね。共演した仲間の中では、俺がいちばんシリーズをPRしてたんじゃないかな。

 あるとき、俺はみんなに怒ったことがある。「お前たちね、もう『ウルトラマン』や『ウルトラセブン』の話は嫌だって言うけど、お前たちの仕事で多くの人の心に刻まれてるのは、あれしかないだろ。避けて通れないんだよ」って。それがきっかけになったかどうかわからないけど、みんなだんだん関連番組やイベントにも積極的に出るようになった。

 毎年夏に池袋のサンシャイン・シティで「ウルトラマンフェスティバル」があって、俺もラジオの中継で会場に行ったりしてる。去年はコロナでオンラインだけになったけど、今年はやれるといいな。俺が中継をする日になると、桜井浩子や『ウルトラセブン』のアマギ隊員の古谷敏や、ウルトラシリーズをたくさん演出した満田かずほ監督が来てくれたりして、同窓会みたいになる。それも楽しみなんだよな。

 アマギ隊員の古谷は、その前の『ウルトラマン』ではウルトラマンのスーツアクターをやってた。長身で足が長い彼が入って、キレのある動きで「ジョワ!」ってやったから、ウルトラマンというヒーローがさらに魅力的になったんだ。最初は『ウルトラQ』のケムール人の中に入って、そのスタイルや動きが評価されてウルトラマンに入った。

 ただ、役者なのに顔を出せないのは寂しかったと思うよ。イデ隊員の二瓶正也は東宝ニューフェースの同期だし、ハヤタ隊員の黒部進は後輩だからね。俺はよく飲みに連れていってやったり、「おっ、頑張ってるな」って励ましたりしてた。『ウルトラセブン』ではアマギ隊員として顔の出る役をやったわけだけど、もともといい役者なんだから当然だ。

 だけど、心無いことを言うヤツがいるんだよ。週刊誌に「ウルトラマンの中に入っていたご褒美で隊員に選ばれた」なんて書かれて、元気をなくしてる時期もあった。だから俺は言ってやったんだ。「そうじゃない。お前の『ウルトラマン』の演技が評価されて今回は隊員になったんだから、胸を張ってやればいいんだ」ってね。実際、彼が演じたから、知的でスマートでカッコいいアマギ隊員が人気を集めたわけだ。

 昔の話をしちゃったけど、「そうだったのか」って興味を持って読んでくれるファンがいる限りは、けっして「過去の話」じゃないんだよな。元気なうちにちゃんと話しておくのは、当事者としての責任だと思ってる。画面に出てこないエピソードを知ってから作品を見直すと、また別の面白さも味わってもらえるんじゃないかな。

 自分の親やまわりのジジババにも、コロナが落ち着いてまた気軽に会えるようになったら、昔の話をどんどん聞いてみるといいよ。きっと「当事者にしか語れない貴重な証言」が出てくるはずだ。誰だってそれぞれの人生で、それなりにヒーローやヒロインだった時期があるだろうし、大事な何かを守るために戦ってきたはずなんだから。

マムちゃんの極意

→毒蝮三太夫さんの他の記事を読む

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毒蝮三太夫(どくまむし・さんだゆう)

1936年東京生まれ(品川生まれ浅草育ち)。俳優・タレント。聖徳大学客員教授。日大芸術学部映画学科卒。「ウルトラマン」「ウルトラセブン」の隊員役など、本名の「石井伊吉」で俳優としてテレビや映画で活躍。「笑点」で座布団運びをしていた1968年に、司会の立川談志の助言で現在の芸名に改名した。1969年10月からパーソナリティを務めているTBSラジオの「ミュージックプレゼント」は、現在『土曜ワイドラジオTOKYO ナイツのちゃきちゃき大放送』内で毎月最終土曜日の10時台に放送中。84歳の現在も、ラジオ、テレビ、講演、大学での講義など精力的に活躍中。最新刊『たぬきババアとゴリおやじ 俺とおやじとおふくろの昭和物語』(学研プラス)は幅広い年代に大好評!
たぬきババアとゴリおやじ 俺とおやじとおふくろの昭和物語

取材・文/石原壮一郎(いしはら・そういちろう)

1963年三重県生まれ。コラムニスト。「大人養成講座」「大人力検定」など著書多数。この連載では蝮さんの言葉を通じて、高齢者に対する大人力とは何かを探求している。

→『ウルトラマン』が誕生して55年後の今も人気がある理由|毒蝮三太夫インタビュー【連載 第34回】

→「親が認知症になったら…」毒蝮三太夫がズバリ!アドバイス【連載 第27回】

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