車いすYouTuber渋谷真子さん|セックス、排泄、生理…障がいのある生活を赤裸々に語る
父の跡継ぎを目指していた26才のとき、屋根から転落して車いすとなった“ギャルユーチューバー”の渋谷真子さん(29才)。タブーとされやすい障がい者のリアルな生活を明かして注目を集め、笑顔で語る姿からは、「障がいのある生活」が特別ではないことを気づかせてくれる。
車いすYouTuber渋谷真子さんが本当に伝えたいこと
「事故後、セックスできるか不安だったんですが、お互い満足できるとわかって恋愛に前向きになれると思いました(笑い)!」
「いちばん大変なのは排泄管理。“うんぴっぴ(うんち)”はゴム手袋にワセリンをつけて、指をお尻の穴に入れて出します」
「生理は来ます!」
鮮やかなネイルが塗られた指で金髪のロングヘアをかきあげながらカメラに向かうのは、「現代のもののけ姫Maco」こと、ユーチューバーの渋谷真子さん。下半身麻痺の体で経験したセックスのこと、外出先でうんちを漏らした失敗談など赤裸々に動画で明かしている。
車いす生活となった事故は…
山形県鶴岡市にある築200年近い茅葺(かやぶ)き屋根の実家で渋谷さんは育った。祖父母と両親、姉と兄の7人家族で暮らし、高校卒業後に地元の企業に就職するが、2018年の春に茅葺き職人の父の跡を継ぐことを決意する。
「小さい頃から、茅葺きの家もこの地域も大好きで、大切に残していかなきゃいけないと思っていました。そのために茅葺きの技術を身につけ、高齢の父の跡を継ぐことが自分の役目だと思ったんです」(渋谷さん・以下同)
その年の7月、朝から父と山あいの集落で作業をしていたとき、大事故が起こる。傾斜がきつい屋根の上での作業中、3m下の池の縁石に転落した。
「後ろに下がったら足場がなく、『あ、やべっ!』と思いました。駆けつけた父に“(池から)出れ! 出れ!”と言われて、自分が水につかっているのだと知ることができました。痛みはないけど、背中をバンっと叩かれたような息苦しさがあり、足を動かせない。こういうときは無理に動かさない方がいいのかなと、ぼんやり思っていました」
救急車を待っている間に「自撮り」をするほど冷静だった渋谷さんだが、救急搬送されて7時間に及ぶ手術を受ける。それから3日後、車いす生活となることを医師から告げられた。
「ショック? 全然!(笑い) よく、お会いした人から『どれほどつらい思いをして回復されたか~』とか言われるんですが、まったくないんです。動かない足を叩いてかんしゃくを起こしたり、『もう生きていけない!』と嘆いたりすることもない。自分がやりたいことをやって、自分の不注意で起きた事故ですから。もちろん、日常生活の中でできなくなったことはあるし、不安がないわけではないけど、悩んだって、できないことはできないという考えです」
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車いすYouTuberになった理由とは
ドラマで見かけるような「悲壮感」を渋谷さんから感じることはない。突然の出来事に彼女が取り乱すことなく「普通」でいられたのは、SNSによる影響が大きいという。
「入院直後から、脊髄損傷ってどんなものかな、車いす生活ってどうなんだろうとスマホで調べていたのですが、おしゃれもしてアクティブに活動する海外の車いすの人たちがたくさん出てきたんです。それを見て、『なんだ! できるんじゃん』って、不安が1つ取り除かれました。そのときに、情報の大事さを感じました」
しかし、その情報の中に日本人によるものはほとんどなかった。ならば、「車いすになりたての私が発信しよう」というのが、ユーチューバーになった理由の1つだ。
事故から3か月後には埼玉県のリハビリ専門病院に転院。外出許可が出ると、毎週末のように友達と新宿で待ち合わせ、食事や買い物を楽しんだという。一方で、気づいたこともあった。
「病院の床は平らで、トイレも広く、呼べば看護師さんがすぐ対応してくれるし、院内のコンビニは店員さんも優しい。でも、現実はそうじゃない。いざ外に出てみると、道はでこぼこで、リハビリどおりには進めない。それを知ったことで、リハビリの仕方も変わりました。私は車いすで旅行も行きたいし、だったらバリアフリー対応していないホテルしか泊まれない場合、お風呂はどうすればいいのだろうと、そういったリハビリをやっていました」
家のバリアフリー化は最小限に
退院後は、地元の市街地で母と兄家族と暮らすことに。だが、家のバリアフリー化は必要最小限にとどめているという。
「それは、自宅をすごく快適にすることが正解じゃないと思っているから。私は家の中でずっと生活していくわけじゃありません。自宅を完璧にすれば過ごしやすいかもしれないけど、ほかの場所で過ごすときにつらいと感じるかもしれない。それは嫌なんです。つねにちょっと不便があれば、自分で工夫して動きが向上する。ちょっと大変なぐらいがちょうどいいんです」
そんな彼女の明るさに、最も救われているのは父の一志さん(69才)かもしれない。娘の事故を目の当たりにした一志さんは、当時、自責の念から眠れなくなり5kg以上やせたという。一志さんが言う。
「いまもあのときのことを夢に見て、ハッと目を覚ますことがあります。あの子は昔から運動もよくできるし、なんでもできる子。くじけないし、嫌なら嫌、やると決めたらやり遂げる子でした。いまね、娘がテレビや雑誌に出ているのを見ると、ようがんばってるなと。これだけ多方面にがんばってやっているのを見て、最近は安心感も持てるようになりました」
障がいを「受容」しているわけではない
突然の事故で身体的な障がいを負った場合、その障がいを受け入れる「障害受容」には時間がかかるといわれている。前向きに過ごしている渋谷さんだが、「私は受容しているとは思っていない」と話す。
「河原でバーベキューをするのも難しいし、大好きなヒールもかっこよく履けない。歩けるものなら歩きたいと思っています。ただ、いまの医療技術では治らないということを受け入れているだけ。でも5年後、10年後にはiPS細胞とか何か期待できるかもしれないですよね。だったらいまは、車いす生活を楽しむ方法を考えるべきだと思ったんです。体は不自由だけど、心は不自由じゃないから」
2019年9月から始めたユーチューブの中では、“セカンドバージン”を卒業したという報告もして注目を集めた。しかし、恋愛を満喫しているわけではないようだ。
「相手の男性は友達以上恋人未満で、つきあっているわけではないんです(苦笑)。いまは彼氏募集中! みぞおちより下の感覚がないので直接的な刺激はありませんが、過去の感覚を思い出してセックスはできるし、妊娠、出産もできますよ。いきむことが難しいので帝王切開になると思いますが、パートナーがいれば子供は欲しいです。私の遺伝子を見てみたい」
渋谷真子さんが本当に伝えたいこと…
渋谷さんが望むのは、障がい者が「当たり前」に溶け込める社会だ。
「私は国を動かしたいとかじゃなくて、車いすの人や障がい者を目にした人が、『じゃあスロープをつけよう』とバリアフリーに一歩近づいて、それを見た人がまた一歩近づいてと、ハード面でもソフト面でもバリアフリーにつながることを期待しています。
ドラマや映画も車いすの人を主人公にするのではなく、同僚や友人とか脇役に車いすの人がいるとか、当たり前になってくれるといいなと思うんです。見られて恥ずかしいとか、じゃまだと文句を言われるから嫌だとか、外に出ることを躊躇している人もいっぱいいますから、世間にもっと当たり前の空気があれば、そういう人たちも外に出やすくなると思うんです」
今後は、車いすでも着脱しやすい服のデザインや、スポーツトレーナーの兄と一緒に、車いすでも利用できるジムを作るのが夢だと話す。将来への希望が彼女の背中を押す。
渋谷真子さん
YouTubeチャンネル:現代のもののけ姫 初の書籍『普通でも最高でハッピーなわたし 特別でもなんでもない二度目の人生』(扶桑社)が発売中。
写真/関谷知幸
※女性セブン2020年12月3日号
https://josei7.com/
●ケンタロウさんのリハビリを支える希望の車いす「COGY」に試乗してみた!