健康寿命1位へ「長野県」の秘密|そば店が多い、魚代わりにおやき、野沢菜漬けの力ほか
やりがいのある仕事を張り切ってやり、野菜たっぷりの食事をして、休みの日は近所の人とスポーツや趣味にいそしんで、最期はピンピンコロリと旅立ってゆく──そんな桃源郷のような場所が存在する。健康寿命第1位の長野の秘密を徹底解剖。
「人生100年時代」という言葉が浸透して4年。もともとは英ロンドンビジネススクール教授のリンダ・グラットン氏が2016年にベストセラーとなった著書『ライフ・シフト』で提言した概念であり、同書では約100年後の2107年には主な先進国で半数以上の人が100才を超えて長生きするようになり、80年で考えられてきたこれまでのライフサイクルを見直す必要がある、と説かれている。
しかし、たとえ超長寿を実現して1世紀以上生き続けられたとしても、体の自由がきかなかったり、病気にかかっていればその楽しさは半減してしまうだろう。そこで重要になってくるのが、「健康寿命」という考え方。最期まで自分の足で歩くことができ、自分の歯でおいしい食事が食べられてこそ、幸せな老後ではないかというわけだ。この「健康寿命」を延ばすヒントが長野県にある。
“たまたま” じゃない! これだけの実績
7月、厚労省が2018年のデータをもとに算出した都道府県別の健康寿命ランキングを発表した。栄えある1位を獲得したのは男女ともに長野県。また、国民健康保険中央会が要介護度をもとに算出する「日常生活動作が自立している期間」(2018年)でも、女性84.9才、男性81.0才で全国1位。そればかりか同調査では2010年以降の過去5回連続で最長となっていることから、長野県の健康寿命が「たまたま」ではないことがわかる。
諏訪中央病院名誉院長で、46年にわたり長野県の健康長寿化に尽力し、いまも長野に住む医師の鎌田實さんはこう分析する。
「長野は過ごしやすい気候や環境、そばをはじめとする独特の食文化など、健康になれる条件が整っていると考えられます。気候のうえでも、お盆前後の1週間は暑さが厳しかったものの、それを過ぎたいま、とても過ごしやすい日々が続いています。朝や夕方は、長袖がないと寒いくらいです」
生まれ育った土地の気候も採れる作物も、われわれの努力でどうにかなる問題ではない。こう聞くと「恵まれた土地に住んでいるから健康なのではないか」と肩を落とす人もいるかもしれない。だが、心配ご無用。というのも、いまでこそ長生きで知られるようになった長野も、古くからの長寿県というわけではないからだ。たとえば1965(昭和40)年の調査では、男性の平均寿命が68.45才で全国9位、女性は72.81才で26位だった。
特筆すべきは、脳卒中による死亡が全国ワースト1位になった年もあること。当時は長寿どころか、全国的に見ても中~下位に甘んじていたことになる。そんな長野が現在のような「健康県」へ生まれ変わったのは、鎌田さんら医療関係者の活動や自治体の健康への取り組み、そして県民の努力が実った結果なのだ。
つまり、彼らがこの半世紀にどんな行動をしてきたのかを知り、同様のことを取り入れれば、私たちも夢の健康長寿を手に入れられる可能性にぐっと近づけるということになる。