健康寿命1位へ「長野県」の秘密|そば店が多い、魚代わりにおやき、野沢菜漬けの力ほか
野沢菜漬けはスーパーフード
ここからは長野県民の声と、食や健康に詳しい医師の分析をもとに健康長寿の秘訣をひもときたい。鎌田さんはまず、食についてこんな指摘をする。
「46年前、長野の病院に赴任して以来、患者さんをはじめとして県民の皆さんに“野菜を食べましょう”と啓蒙してきた結果、いまでは、長野県の野菜摂取量は日本一になりました。それに伴い、脳卒中の死亡率も大きく下がったのではないかと思います。なぜ野菜がいいかといえば、野菜に含まれるカリウムが、血圧上昇の原因となる体内の塩分、つまりナトリウムを尿として排出してくれるからです。おかげで血圧が安定し、脳卒中を減らしてくれる。また、全身で悪さをする慢性炎症を抑えてくれる働きもあります」
野菜の中でも特に注目すべきは、長野の特産品、野沢菜。抗加齢医学を研究する医師で千葉大学医学部予防医学センター客員教授の白澤卓二さんが話す。
「長野県は野沢菜の消費量がダントツに多い。雪に閉ざされ、食べるものがなくなってしまう長い冬を乗り越えるための保存食として伝統的に愛されてきた野沢菜漬けは植物性乳酸菌を含む発酵食品。皮膚や粘膜の細胞を正常に保つ働きがあるβ-カロテンが豊富なうえ、乳酸菌が生きたまま腸に届き、さまざまな効果が期待できます」
乳酸菌をはじめとする多様な腸内細菌は、腸内だけでなく全身の健康にかかわってくる。信州では野沢菜漬けがお茶請けとして出されることが多い。お茶と一緒に野沢菜を摂ると抗酸化作用の相乗効果でがんへの抵抗力をつけるという説もある。それを裏付ける研究はまだないが、厚労省が2019年に発表した県別のがん罹患率で長野県は少ない方から数えて3位だった。長野県の名物として野沢菜漬けに続いて思い浮かぶのは、信州名物のそばだろう。これも健康長寿に貢献するスーパーフードだった。
「都会と比べてファストフード店が少なく、外食の選択肢にそばが入りやすいことも1つの理由。うどん文化圏の人が比較的短命なのに対し、そばを中心とした食文化を持つ地域は長寿であることが多い」(白澤さん)
現地在住の鎌田さんも、頻繁にそばを食べている。
「私自身、少なくとも週に3回は食べています。そばは雑穀で、精製された小麦粉などに比べて血糖値を上げにくく、抗酸化力も高い。長野県ではラーメンやうどんよりもそばを選べる環境にあるのは大きいですね」(鎌田さん・以下同)
野沢菜漬けやそば以外にも、土地特有の伝統食がいまも根づいていると鎌田さんが続ける。
「寒天や高野豆腐など、昔から食べられてきた伝統食を大事にする風習が根づいています。寒天は血糖値を下げてくれるほか、食前に食べることで低カロリーながら満足感が得られて食べすぎを防ぐことができる。高野豆腐は不足しがちなたんぱく質が補えるだけでなく、レジスタントたんぱくという、中性脂肪の合成を抑えたり血中のコレステロールを減らす作用があるとされる、特殊なたんぱく質も摂れるのです」
湿度が低く、涼しい長野の気候が、寒天と高野豆腐の生産に適しており、2つとも出荷量は日本一だ。