コロナうつ対策に「ガムをかむ」のがいい理由|自律神経の名医が解説
四六時中マスクをつけて、心も体もこわばらせるコロナパニック。そんな心身の緊張を解きほぐす“魔法”が「ガムをかむ」という何気ない行為に隠されている。1日数回、1回たったの5分で、コロナうつを撃退!
コロナで精神的な苦痛を感じる
ウイルスが、体だけでなく、心も蝕(むしば)んでいる。都内に住む飯塚千恵子さん(58才・仮名)が話す。
「テレビの速報ニュースが毎日、東京の新型コロナウイルス感染者が100人、200人、300人と報じるたびに、胸がギューッと締めつけられます。街でマスクをしていない人がいると“悪魔”に見えるんです。家から出るのが怖くなって、寝つきも悪く、疲れもずっと取れません」
最近は「コロナうつ」という言葉をよく聞くようになった。
アメリカでは「(新型コロナで)精神的苦痛を感じる」と訴える人が45%にも上り、国連は世界各国にコロナうつ対策強化を要請。日本では各都道府県の精神保健福祉センターや「いのちの電話」への相談件数が爆発的に増加しており、7月末、厚労省は史上初となるメンタルヘルス全国調査を1万人規模で実施する方針を打ち出した。
感染症専門家の間では「ウイルスの弱毒化」も話題だ。たしかに重症化率や死亡率は低下した。しかし、毎日トップニュースで流れる感染者数急増の報道は、間違いなく人々の不安を掻き立てている。
精神的な落ち込みで体調を崩す人が増加
順天堂大学医学部教授で医師の小林弘幸さんが話す。
「最近、定期的な診察に来なくなる患者さんが増えています。話を聞くと『怖くて電車に乗れない』『病院が怖い』とか、『楽しいことが考えられなくなった』など、とにかくネガティブな思考に陥っている人が多い。実際、メンタルの沈み込みから、体調を崩す人も増えています。血圧やコレステロール値、尿酸値などの数値は回復しているのに、実際の症状は悪化している患者さんまでいます。コロナパニックで既存の概念では考えられないことが起きているのです」
体力の低下で転倒、命に関わるけがを負う人も
感染を恐れて病院や診察を避ければ、持病を悪化させる懸念が高まる。
「高血圧や糖尿病などを持っている人が診察を受けないことはとても心配です。また、外出自粛を続ければ体力は落ち、足腰は弱る。特に高齢者が転倒によって命にかかわるけがを負うケースが増えると警戒しています」(小林さん・以下同)
現在でも私たちを襲うコロナうつは深刻な状況だが、ピークはまだまだこれからだと小林さんが続ける。
セロトニンの欠乏は2か月先に影響も
「脳の中では情報を伝えるためにさまざまな神経伝達物質が働いています。なかでも“幸せホルモン”と呼ばれる『セロトニン』の欠乏は、うつの発症に密接に関与しているとされます。セロトニンはだいたい2か月分くらい蓄えられているとされるので、日本を感染の第2波が襲った7月から2か月後の9月頃にセロトニンが欠乏する人が増え、一気にコロナうつ患者が急増すると予想しています」
誰でも気分が沈んだりやる気がなくなったりすることはあるが、うつという病気はその程度ではない。つらく沈んだ気分や興味を失った状態が2週間以上続き、仕事や日常生活にも影響する状態を指す。最悪の場合、自殺をも引き起こす。
「たしかに感染の拡大を防ぐことも、感染者を治療することも大切なことです。ただ、かつて経験したことのない社会全体の閉塞感がずっと続けば、精神的に変調をきたす人の数は、感染者数の比にならないでしょう。いまからメンタル面のケアに全力を挙げるべきです」
「コロナうつ」の対策は?
●写真を撮る
「コロナうつ」を遠ざけるにはどうしたらいいのだろうか。対策の1つは、不安から目をそらし、ほかに向けること。たとえば、小林さんは「写真を撮ること」をすすめる。
「1日1枚でいいので、写真を撮ってみましょう。街並みの風景でもいいし、道端に咲く花でもなんでもいい。『何を撮ろうかな』と考えて周囲を見ることで、不安なことだけで狭まっていた視野を、別の方に向けることができる。1日1枚を実践したら『世界が違って見えた』と、実際に精神的に楽になった人がいるほど効果的です」
広い世界を見渡すことで、自分の抱える不安の小ささを実感したことは、誰しも経験があるはずだ。
●自律神経を整えるカギは一定のリズム
さらに、もう1つ有効な策として小林さんが挙げるのが、自律神経を整えて不安から抜け出す方法。その前に、自律神経について知ろう。
「自律神経は内臓や血管などの働きをコントロールし、体内の環境を整える神経のことです。自律神経は大きく2つに分かれ、1つが緊張時に優位になる『交感神経』、そしてリラックスしているときに優位となる『副交感神経』があります」
人間はストレスを感じると交感神経が優位となり興奮状態になる。同時に副交感神経が抑えられるのでリラックス状態に入りにくくなる。小林さんが提案するのは、その悪循環を抜け出す方法だ。
「人間は一定のリズムを刻むことで、副交感神経が優位になり、リラックス状態に入りやすくなります。それは胎児の頃に母親の胎内で心臓の鼓動を聞いていたからです。赤ちゃんもトントンと一定のリズムで優しく叩いてあげると安心して寝てしまいますよね。人間が生まれながらに備えているリラックスするためのルーチンの1つが、リズムを刻むことなのです。うつの治療にメトロノームを用いる方法もあるくらいです」
アメリカでは自分の2本の指で心地よいリズムでツボを叩くことで不安を取り除く「タッピング(TFT)」という療法も注目されている。
不安を感じたときに1回5分かんでみる
●ガムをかむ
さらに簡単にコロナうつを撃退する方法がある。ガムをかむことだ。かむことは、口腔内で一定のリズムを刻むことでもある。
「アメリカのプロ野球メジャーリーグの選手がガムをかんでいるのを見て、行儀が悪いと思う人もいるかもしれませんが、あれには意味があります。かむことでリズムを刻み、極度の緊張感の中でも、自分をリラックス状態にしようとしているのです。つまり、アスリートとして最高のパフォーマンスを発揮するためのルーチンなのです」
スポーツ選手だけではない。「難易度の高い手術に臨むときガムをかむことを習慣とする外科医もいる」という。ストレスを抑え、実力を発揮するための理にかなったメソッドなのだ。
ガムをかむメリットとは?
ガムをかむことには、自律神経が整う以外のメリットもあるそうだ。キーワードは「咀嚼(そしゃく)」。現代は軟らかい食べ物が増えた結果、咀嚼回数が戦前の半分以下になったという調査もある。
咀嚼回数が増えるといい影響がたくさんある
「かむことで血流がよくなって脳が活性化し、脳波も安定するという研究結果があります。まだはっきりと証明されてはいませんが、かむことで認知症を遠ざけられる可能性もある。さらにいえば、表情筋が鍛えられフェイスラインが引き締まって小顔効果や老け顔防止の効果が得られ、美容の面でもいい影響があります」
ガムをかむと唾液がふんだんに出ることも有用だという。「緊張すると喉が渇く」とはよく言うが、うつ状態になると唾液の分泌が減る。唾液は口腔内の細菌の増殖を抑える作用があり、口臭や虫歯、歯周病などを予防してくれる。さらに咀嚼により免疫が活性化するという報告もあり、感染症にかからないためにも役立ちそうだ。
「不安を感じたときなど、1回5分でいいのでかんでみてはいかがでしょうか。たとえば食後などと習慣づけて1日に3~4回ほどかむのもいい。寝る前にかむことで、自律神経が整って寝つきがよくなる効果が期待できます」
ガムをかむメリットまとめ
●口腔内に一定のリズムを刻むとストレスを抑える効果がある。
●血流がよくなって脳が活性化、脳波も安定する
●認知症を遠ざける可能性も。
●表情筋が鍛えられ、小顔効果がある。
●唾液の分泌で虫歯、歯周病の予防。免疫の活性化も。
●不安を感じたら、1回5分かむ。
●寝る前にかむと寝つきがよくなる。
いまだ終息が見えないコロナ禍。人心はすさみ、噂やデマも多い。冷静な判断をすることの必要性はこれまでにないほど高まっている。新たな生活様式のルーチンに「ガム」は必須かもしれない――。
教えてくれた人
小林弘幸さん/医師・順天堂大学医学部教授
※女性セブン2020年9月3日号
https://josei7.com/
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