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毒蝮三太夫の親孝行「好きな人ができたオヤジに俺がしたこと」【連載 第24回】

「親孝行」は、なかなかの難問である。決まったノウハウもなければ正解もない。親自身の希望と子どもの側の気持ち、さまざまな状況との折り合い。「母親が死んで新しい彼女ができた70代の父親が、その人と暮らしたいと言い出した」という経験を持つマムシさんは、どんな道を選択したのか。「親孝行」への想いを語ってもらった。(聞き手・石原壮一郎)

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知らないあいだにオヤジが土地を売っちゃってた

 今年の旧盆は、コロナウイルスの感染防止ってことで、帰省を控える人も多かったみたいだね。高齢の親が心配で、十分に対策を取って帰省した人もいただろう。そこはそれぞれの判断だから、いいも悪いもない。どちらも、今の自分にできる「親孝行」なんだよな。

 親孝行っていうのは、なかなか難しい。こっちがしてあげたいと思っても、親にとってはありがた迷惑ってこともある。だからといって「どうしてほしい?」と親に聞いても、「いやあ、とくにしてほしいことはないよ」って言われそうだしな。

 自分の話だけど、俺もオヤジの晩年には「息子としてどうすればいいのか」って悩んだことがある。もうかれこれ40年ぐらい前の話だ。大工をやってたんだけど、ぶっとんだというかトボケたというか、かなりマイペースなオヤジでね。

 お袋が死んで5~6年経って70代半ばのときに、一人息子の俺に何にも言わずに、そのときに住んでた中延(品川区)の家と土地を売っちゃった。好きなババアができて、その人と暮らす資金にしたいからって言うんだよ。で、田園都市線の鷺沼ってところに部屋を借りて、ふたりで住み始めちゃった。

 俺たち夫婦は、そのちょっと前に家を建てたんだけど、オヤジを引き取るつもりで和室を作ってたんだよ。だけど結局、オヤジはその部屋には入らずに死んじゃった。

「家を売って女性と暮らす」って話を聞いたときは、そりゃビックリしたよ。だけどまあ、オヤジらしいなと嬉しい気持ちもあった。

 べつにその土地をアテにしてたわけじゃないし、老い先短いんだからオヤジの好きにさせればいいかと思ったんだけど、周りがあれこれ言ってくるんだよね。売った金はどうしたんだとか、オヤジを引き取らないなんて親不孝だとか。気の毒だったのは、そのたびに矢面に立って責められてたカミさんだよ。

 だけど、カミさんは偉かった。「お義父さんがそうしたいっておっしゃったんだから、あれこれ言われる筋合いはない」って言い切って、堂々としてたね。そこで俺やカミさんが「世間体」ってヤツを気にして、「やっぱり一緒に暮らしてもらおう」って思ったら、オヤジがせっかくつかんだ幸せを取り上げることになる。そんなのかわいそうじゃない。

 カミさんのおかげもあって、俺はいい親孝行ができたと自分では思ってる。だけど、世間のプレッシャーに負けちゃうことも往々にしてあるよな。世間の目を気にして、無理やり「一緒に暮らしたほうが本人も喜ぶ」って自分に言い聞かせて、親が望んでない同居をしたりね。そんなふうに子どもの都合を押し付けたって、うまくいくわけないよ。

世間体なんて、気にしちゃいけない

 ちょっとべつの話だけど、寝たきりや認知症になった親の介護にしても、世間体を気にして受けられる支援も利用しないで、家族みんなが無理をして、悲劇的な状況になっていることも多いって言うよね。世間なんて、あんな勝手で無責任なものに振り回される必要はない。こっちがいくら気をつかったところで、世間は何にもしてくれやしないんだから。

 オヤジは最後のほうは認知症が進んで身体もかなり不自由だったんだけど、カミさんは病院に布団を敷いて何日も泊まり込んで看病してくれた。あんまり身内のことをホメるのはみっともないけど、たいしたもんだよ。俺は死ぬまで、いや、あの世に行っても頭が上がらないね。

 一緒に暮らしていた女性とは籍は入れなかったんだけど、オヤジが死んだあと、残った財産はみんなその人に渡した。オヤジの面倒をよく見てくれたし、オヤジが人生の最後に何年か幸せな日々を送れたのは、その人のおかげだからね。同居しなかったことも死んだあとのことも、俺はオヤジに対しては思い残すことはない。せっかく和室を作ったのに使わなかったのは、ちょっともったいなかったけどな。

 100組の親子がいたら、親孝行の形も100通りある。大事なのは、世間体や常識に縛られるんじゃなくて、親の話をしっかり聞くことだ。できる範囲で、親のしたいようにさせてあげればいいんだよ。満点なんて目指さなくていい。子どもが「自分にできることをしよう」と思ってくれた時点で、親にとっては満点の親孝行なんだから。

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毒蝮三太夫(どくまむし・さんだゆう)

1936年東京生まれ(品川生まれ浅草育ち)。俳優・タレント。聖徳大学客員教授。日大芸術学部映画学科卒。「ウルトラマン」「ウルトラセブン」の隊員役など、本名の「石井伊吉」で俳優としてテレビや映画で活躍。「笑点」で座布団運びをしていた1968年に、司会の立川談志の助言で現在の芸名に改名した。1969年10月からパーソナリティを務めているTBSラジオの「ミュージックプレゼント」は、現在『土曜ワイドラジオTOKYO ナイツのちゃきちゃき大放送』内で毎月最終土曜日の10時台に放送中。84歳の現在も、ラジオ、テレビ、講演、大学での講義など幅広く活躍中。

取材・文/石原壮一郎(いしはら・そういちろう)

1963年三重県生まれ。コラムニスト。「大人養成講座」「大人力検定」など著書多数。この連載では蝮さんの言葉を通じて、高齢者に対する大人力とは何かを探求している。

●高木ブー他界した妻への想い「今も家に来てるんですよ」【連載 第23回】

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