「無駄に思えることが人生を豊かにしてくれる」毒蝮三太夫、生きる極意【連載 第25回】
「こういうときだからこそ、生きることを全力で楽しまないと」とマムシさんは言う。長引くコロナ禍で、老いも若きも誰もが疲れている。とくに高齢の親は、自粛生活で引きこもって、いろんな意欲や元気をなくしているかもしれない。毎日を生き生きと過ごす上で、オシャレやちょっとした贅沢、そして「無駄」がいかに大事かを聞いた。(聞き手・石原壮一郎)
オシャレも会話も「無駄」だから楽しいんだ
「新しい生活様式」って言うんだっけ。外食する時は会話を控え目にしろとか、用もないのに出歩くなとか、冠婚葬祭は少人数でやれとか。もちろん感染予防は大事だし俺も気を付けてるけど、何となく寂しさは感じる。要は「人と距離を取って生きろ」ってことだもんな。
今、飲食業界もピンチだけど、アパレル業界もピンチらしいね。そりゃそうだ。仕事では在宅勤務が増えて、日常生活でも外に出たり人に会ったりする機会が減ったら、新しい服なんて買う気にならない。身だしなみへの興味がどんどん薄れていっちゃうよな。
こういう気持ちが沈みがちなときだからこそ、オシャレすることがますます大事なんじゃないかな。オシャレっていうのは、モテたいとか見栄を張りたいとか、けっしてそういう気持ちでやるわけじゃない。まあ、そういう気持ちがあったっていいんだけどね。
もちろん、お金をかける必要もない。Tシャツと靴下の色の組み合わせを考えてみたり、今の時代ならではの話で言えば、渋い色のマスクやかわいらしい模様のマスクをしてみたり、マスクに合う服を選んでみたり、そういったことだよ。オシャレに気をつかっているジジイやババアは、たとえしわくちゃでもハツラツとしてて若々しく見える。
親が元気がなくてしょんぼりしてるようだったら、マスクを選んでプレゼントするといいかもな。近ごろ洋服屋や雑貨屋に行くと、いろんなマスクが並んでるじゃない。「似合うと思って買ってみた。買い物に行くときにでも使ってよ」とか言ってさ。遠くに住んでる親なら、手紙を添えて送ってやるのもいいね。きっと、外に出かけるきっかけになるよ。
オシャレといえば、昔すごい女の子がいた。その子は、今日はどの路線の電車に乗るか、山手線なのか中央線なのか西武線なのかを考えて、車両の色に合う服装を選ぶんだって。新幹線に乗る日も、自分がドアのところに立った場面をイメージして、同じ白だと吸収されちゃうからもっと映える色を着ようとかね。
まさにオシャレの極致、究極のオシャレだよ。何色を着てても電車には乗れるわけだから、無駄といえば無駄なこだわりなんだけど、彼女にとっては最高に楽しいこだわりなんだよな。人生を思いっ切り楽しんでる。今の若者は、そんなこと考えつかないだろうね。「なんの意味があるんですか?」って言われそうだ。
近ごろは「コスパ」だか何だか知らないけど、安上がりに済ますことや効率の良さばっかり考えてる人が多いんだってな。本人はそれが「賢い生き方」と思ってるかもしれないけど、人生には無駄も大事だよ。無駄がない人生なんて、味気なくてしょうがない。
食べるもんだってそうだ。スタッフの知り合いで地方から出てきた学生がいて、「蕎麦が好きなんです」って言ってたんだけど、駅の立ち食い蕎麦しか食ったことがないらしいんだ。たしかに駅蕎麦は安くて旨いし、腹だってふくらむ。そっちはそっちでいいんだよ。だけど、せっかく東京に来たんだから“本物の蕎麦”の味も知ってほしいじゃない。
ある老舗の店に連れていってやったら、「蕎麦ってこんなに旨いんですね!」って驚いてた。学生だからそういう店に気軽には行けないだろうけど、食べてみて味を知ったことで彼にとっての蕎麦の世界が広がったし、嬉しいことがあった日には贅沢してみようと思うかもしれない。「コスパ」は悪いかもしれないけど、たまの無駄遣いもいいもんだ。
無駄が大事なのは、会話でもそうだね。川柳に「言うことに無駄のない嫌なヤツ」っていうのがある。無駄なことを言わないヤツは、話してても面白くも何ともない。最初の話に戻るけど、人との接点が少なくなっているからこそ、無駄話やバカバカしい話が必要なんだよ。とくに年寄りは、それがないとどんどん元気がなくなっちゃう。
ある学者の先生が、よもやま話をするときは「結論を出さない」ことを心がけなさいって言ってた。討論じゃなくて気軽な無駄話なんだから、結論なんていらないんだ。若い人が年寄りと話すと、すぐに「で、どうしたいの」って結論を出そうとして、お互いにイライラする。最初から「結論を出さない」と決めれば、もっと気軽に話せるんじゃないかな。
無駄っていうのは、じつは不必要なものじゃない。「無用の用」って言うのかな。人生を豊かにしてくれるし、人間関係の潤滑油にもなってくれる。無駄に対してもっと敬意を払って、無駄と楽しく付き合っていこうじゃないか。
毒蝮三太夫(どくまむし・さんだゆう)
1936年東京生まれ(品川生まれ浅草育ち)。俳優・タレント。聖徳大学客員教授。日大芸術学部映画学科卒。「ウルトラマン」「ウルトラセブン」の隊員役など、本名の「石井伊吉」で俳優としてテレビや映画で活躍。「笑点」で座布団運びをしていた1968年に、司会の立川談志の助言で現在の芸名に改名した。1969年10月からパーソナリティを務めているTBSラジオの「ミュージックプレゼント」は、現在『土曜ワイドラジオTOKYO ナイツのちゃきちゃき大放送』内で毎月最終土曜日の10時台に放送中。84歳の現在も、ラジオ、テレビ、講演、大学での講義など幅広く活躍中。
取材・文/石原壮一郎(いしはら・そういちろう)
1963年三重県生まれ。コラムニスト。「大人養成講座」「大人力検定」など著書多数。この連載では蝮さんの言葉を通じて、高齢者に対する大人力とは何かを探求している。
撮影/政川慎治
●追悼:内海佳子さん|自分らしさ貫いた生き様「眉を描いて、紅をひくのは礼儀」