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感染者を差別する日本を憂う毒蝮三太夫が説く「意識して守るべき“三密”」って?「連載 第23回」

 ウイルスの感染を防ぐためには、日常生活において「三密」を避けることが大事だと言われている。いっぽうで「守りたい三密もある」と毒蝮さんは言う。もともと仏教の世界には、「三密を研ぎ澄ます修行を重ねることが大事」という考え方があるとか。意味がまったく違うふたつの「三密」について、マムシさんの想いを聞いた。(聞き手・石原壮一郎)

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真言宗のお坊さんに「三密」の別の意味を教わった

 またここに来て新型コロナの感染者数が増えてきて、日本中が緊張した雰囲気になってる。ヤツらは、目に見えないから厄介だよな。マスクや手洗いやうがいは絶対に欠かせないし、密閉・密集・密接の「三密」も避けなきゃいけない。

「三密」といえば、このあいだ「ミュージックプレゼント」(毎月最終土曜日10時~、TBSラジオ「土曜ワイドラジオTOKYO ナイツのちゃきちゃき大放送」内)に出たときに、リモート中継で出てくれた川口市の真言宗「歓喜院」の副住職からいい話を教えてもらった。

 仏教の中で真言宗をはじめとする密教の宗派では、「三密を守るべし」っていう教えがあるんだってね。そっちの「三密」は「身密(しんみつ)・口密(くみつ)・意密(いみつ)」の3つだって言うんだ。副住職は「ニュースで『三密』って聞いたときには、ビックリしました」って笑ってたけど、そりゃ驚くよ。ぜんぜん違う意味で使われてるわけだしな。

 俺なりの勝手な解釈だけど、「身密」は自分のからだや行動、「口密」は言葉や発言、「意密」は心や考え方っていう意味で、それぞれを整えて、いい状態に保つことが修行だと思う。シンプルだけど、これはなかなか深くて難しいよ。人間はどうしても、自分勝手な行動をしたり、悪口や愚痴を言ったり、怒りや恨みを抱いたりしがちだからね。

理不尽な差別には情けなくなる

 そういう人間の弱さや醜さが、このコロナ禍でますます目立つようになってきたよな。運悪くコロナに感染した人やその家族が、理不尽な差別を受けるケースが多いっていうじゃない。家に貼り紙されたり夜中に石をぶつけられたりさ。腹立たしいを通り越して、俺は情けないよ。日本人はいつからそんな恥知らずになっちゃたのかね。

 俺も子どもの頃に、発疹チフスっていう伝染病にかかったことがあった。終戦直後だから9歳のときかな。あとで知ったんだけど、当時は年に3万人以上が発疹チフスにかかって、10人に1人は死んでたらしい。今のコロナも怖いけど、栄養状態も衛生状態も悪かったし薬もロクになかったから、その怖さはかなりのもんだよね。

 だけど、誰も俺や家族を差別したり後ろ指をさしたりはしなかった。運よく持ちこたえて、また家に戻って来られたときは、近所の人が表に出て拍手で迎えてくれたよ。久しぶりに学校に行ったときもそうだった。みんな「よかったな」「がんばったな」って心から喜んでくれてね。あのとき感じた人の心のあたたかさは、今でも忘れられない。

 だけど最近じゃ、医療従事者の子どもがクラスにいると、クラスメイトの親が「あの子と遊んじゃいけません」って言って仲間外れにされちゃうんだろ。おかしいよ。自分の子どもに何を教えたいんだろうね。感染者を差別する人もそういうことを子どもに言う親も、つまりは仏教のほうの「三密」が守られてないってことだよな。身体も言葉も心も、ぜんぜん整ってない。そうなっちゃいけないっていう悪い例が全部集まってる。

 これはちょっとこじつけかもしれないけど、密閉・密集・密接の「三密」をこのまま避け続けてると、仏教のほうの「三密」を守れなくなっていくんじゃないかな。もちろん、感染の拡大を防ぐために、今は避けなきゃいけない。50年以上続いてきた「ミュージックプレゼント」の現場からの中継も、狭いところにたくさん集まって、それこそつばきを飛ばし合って笑い合う「三密の極致」だから、まだしばらくはやっちゃいけないと思ってる。

 ただ、人間っていうのは、お互いに顔を合わせて、目を見ながら言葉を交わして、肩に手を置いたりしていく中で、相手に対する配慮とかやさしさとか、人様に恥ずかしくない態度を取らなきゃいけないっていう自覚なんかが生まれてくるんじゃないかな。我々凡人にとっては、密閉・密集・密接の「三密」が、仏教の「三密」の修行につながる気がする。

 だからって、文句言ってるわけじゃないよ。コロナ野郎のせいで、そういう悪影響も出てるんじゃないかって話だ。親子の関係にせよ、友だちや同僚との関係にせよ、実際に顔を合わせたコミュニケーションが減りがちな分、いろんな方法で連絡を取って、意識して「密」を作っていきたいね。「身密・口密・意密」も、コロナ野郎の黒い影に惑わされずに、いつも以上にがんばって磨きをかけようじゃないか。

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毒蝮三太夫(どくまむし・さんだゆう)

1936年東京生まれ(品川生まれ浅草育ち)。俳優・タレント。聖徳大学客員教授。日大芸術学部映画学科卒。「ウルトラマン」「ウルトラセブン」の隊員役など、本名の「石井伊吉」で俳優としてテレビや映画で活躍。「笑点」で座布団運びをしていた1968年に、司会の立川談志の助言で現在の芸名に改名した。1969年10月からパーソナリティを務めているTBSラジオの「ミュージックプレゼント」は、現在『土曜ワイドラジオTOKYO ナイツのちゃきちゃき大放送』内で毎月最終土曜日の10時台に放送中。84歳の現在も、ラジオ、テレビ、講演、大学での講義など幅広く活躍中。

取材・文/石原壮一郎(いしはら・そういちろう)

1963年三重県生まれ。コラムニスト。「大人養成講座」「大人力検定」など著書多数。この連載では蝮さんの言葉を通じて、高齢者に対する大人力とは何かを探求している。

 

撮影/政川慎治

●親の病院に付きそうとき、医師の話の賢い聞き方は?

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