人気インスタグラマーで現役カメラマンの山本美千子さん(69才)「遺影の撮影会で垣間見る“生き方”から人生を学んでいます」
55才からプロのカメラマンとして活動し、インスタグラマーとしても5万人を超えるフォロワーを持つ山本美千子さん(69才)。カメラマンの仕事やインスタグラムの投稿を通じ、新たな出会いや発見があるという。常にアクティブに過ごす山本さんが考える働き方とは。【Vol.3/全3回】
山本美千子さん/プロフィール
1956年兵庫県生まれ。24才で会社の同僚と結婚、一男を授かる。長らく専業主婦として子育てに勤しみ、40代からブライダル業界へ飛び込み、グルメブロガーとしても活躍。50代からはカメラマンに転身し、福岡・東京を拠点に活動中。インスタグラムwebmadamfitのフォロワー数は5万人を超える。
終活写真撮影で起きた奇跡の数々に感動
――現在、カメラマンとしての仕事はどんなことをされているのですか?
以前は自分で企画したイベントの様子や商品、人物写真などを撮っていましたが、今は年齢的に私自身が撮影するよりも、若いカメラマンに撮影してもらったほうがいいと思って。私はプロデューサーとして同行することが多いですね。
葬儀社からの依頼で長年、撮影会のお仕事をさせていただいています。一回の撮影会で50〜60人撮るのですが、数名カメラマンをアサインして、私は現場を調整しています。
撮った写真の中から遺影として使いたい1枚を選んでもらうんですよ。このお仕事は私自身、色々なことを学ばせてもらっています。50〜60人の撮影というと流れ作業のように思われるかもしれませんが、そうではないんです。お一人おひとりの人生が見えてくるんです。
撮影会に参加されるかたは、50代から100才まで幅広い。これまで1500人ぐらい撮影してきましたが、本当に学びが多い現場です。撮影の場まで歩いて椅子に座るまでの間、その数歩の歩みでその人がこれまでどんな風に生きてきたかが垣間見えるんです。ほんの数秒ですが人生が見える瞬間がある。
『笑ってください』といっても笑えない人もいますし、どんな風に声をかけるのがその被写体のいい表情を引き出せるのか、ほんの一瞬の駆け引きが必要なんです。
笑顔だけがその人にとって最高の1枚になるとも限らない。わずか数秒で、その人にとって一番いい表情を見極めるということが、私にとって挑戦であり学びとなっていますね。
――撮影で苦労されることはありますか。
撮影会には認知症のかたもいらっしゃいます。そうそう、こんなことがありました。
ご夫婦で撮影会に参加され、滞りなく撮影が進んだんですね。奥様にもカメラを向けるととてもいい表情をなさっていました。それを見た旦那さんがすごく喜んで、涙を流されていたんです。
その理由を後日、式場のスタッフさんから聞いたんです。旦那さんの話によると、奥さまは認知症で、会場に来るのをこばんでいたすなんです。撮影中はおだやかでしたが、撮影の後日には認知症の症状がずいぶん落ち着いたと。撮影会の緊張感や経験がとても功を奏したと。そういうこともあるんだと感動すると共に、私も大きな気づきをもらいました。
また、撮影には立派なスーツ姿でいらっしゃった男性が認知症だというんですね。奥さまいわく、普段は話しかけてもボーッとしているから、撮影なんてできるかなと不安だったと。カメラをしっかり見て笑顔を見せてくれて。撮影の様子を見て奥さまは涙を流されていました。おふたりの姿がとても素敵だったので、思わずシャッターを切りました。
いろんな人がいて、いろんな人生があって、老いの形もそれぞれ。たくさんのことを考えさせられるいい現場なんです。
介護施設のイベントの撮影にも伺うことがあります。入居者のかたは最初、カメラを向けるとすごく嫌がる人もいるんです。望遠レンズを持って行って遠くから撮ってみたり、入居者さんの負担にならないように撮影することもありますね。カメラマンとして年齢を重ねてきて、自分の年齢に相応しいと思える素敵な現場を経験させてもらっています。
60代女性でも頑張っているところを示したい
――カメラマンの仕事は今後も続けていく予定ですか。
65才になったら仕事は辞めようと思っていたんです。世間では定年退職する年齢でしょ。重い機材を現場に持って行って撮影するのも体力的に結構きついだろうなとも考えていて。だから若いカメラマンに機材を譲ったりもしていたんです。
もうカメラマンの仕事はいいかなと思っていたところで、インスタのフォロワーさんがグンと増えたんですね。
撮って欲しいという声も多くいただいて。まだ求められているならば、カメラマンの仕事を続けようかなと思いました。それに、自分より若い世代のためにも頑張らないといけないなとも考えています。インスタグラムのフォロワーさんには、55〜64才の女性が多いんです。彼女たちのためにも、私はまだまだ仕事をしたいと思っているんです。
――55〜64才の女性フォロワーさんたちにどんな思いがあるのですか。
「その世代って、子育てはひと段落し、更年期は終わりに差し掛かるけれども、親の介護が始まったりと新たな悩みが出てくるんです。
そんな人たちから、『インスタを見て元気になった』、『勇気をもらえた』というメッセージを頂くことが多いんです。インスタの投稿に、いいねやコメントをいただいくことが私の力になります。そうした声が励みになって、よし、もう一辺頑張ってみようと!年齢をあきらめずに挑戦したい。自分の元気な部分を全面に出して、楽しいことを投稿していけたらいいなと思っています。
もちろん少し上の世代のかたたちのインスタには私自身、励まされています。グレイヘアでカッコいい女性が気になるんです。
ファッションインスタグラマーの島崎真代さんとも知り合ったのも彼女のグレイヘアがすごく素敵で、インスタをフォローしたのがきっかけ。そこからDMでやり取りするようになって、島崎さんから『私のYouTubeに出てくれない』と声をかけてもらい、出演したことから交流が始まりました。
今では彼女と一緒に東京と福岡でイベントをするような間柄になりました。そうやってSNSでいろんな人とつながれるのもすごいことですよね。
今、新たな目標に向かって走っています。それは「写真展」を開くこと。それまで写真展なんて考えたこともなかったんですが、友人から「写真展やらないの?」と聞かれて。確かに何か目標があったほうがいいなと思って、やってみることにしました。
今はその準備をしています。テーマは「おみほん」。80代、90代、100才で頑張っている女性たちを人生の「おみほん」として撮影しています。私の場合は自分を表現したいというより、何かを伝えるために写真を撮る。それはこの先もずっと同じだと思います。
写真提供/山本美千子さん 取材・文/廉屋友美乃