親の病院に付きそうとき、医師の話の賢い聞き方は?|700人以上看取った看護師がアドバイス
親を病院に連れていくとなると、自分が患者として行くときとは違った必要がいろいろと出てくる。親の話す力や聞いて理解する力が、思ったより落ちていることも少なくない。看護師として700人以上を看取り、自身の両親の介護も経験した宮子あずささんに、アドバイスを聞いた。
いつ、どこが、どんなふうに、を伝える
医師に伝えるときに、最もわかりやすいのは、5W1Hのように意識しておくことです。例えば痛みがいつ(When)始まって、どこが(Where)どんなふうに(How)痛いか。鎮痛剤を飲んだ場合は、いつどのぐらい飲んだらどの程度よくなったか、といったことですね。
●今までに同じ症状があったかどうかも伝えられるように
それから医師が必ず聞くのは、今までにこういう症状があったかどうかです。これまでになかったことが起こっているのかを知っておきたいのです。
同じ頭が痛いと言っても、以前から頭痛持ちだから病院に来たのか、今までにも痛いことはあったけれど今回は違う痛みだと感じているのか、こんなことは今までになかったのかによって違います。
なぜ大事かというと医師が診断するのに、消去法で考えていくからです。突然であれば脳の急な出血も考えられる。突然でなければ、急性くも膜下出血とかではないな、というように考えていくわけです。
これまでにない症状が起こっていると急性であるかもしれません。急性のほうが、症状が急に変化する可能性があるので、怖いということが多いですね。
親の代わりに医師に話せるようにしておく
高齢者の場合は、医師とのやり取りでQに対して対応するAがそのまま帰って来ないこともあります。
●高齢者が医師と正確にやり取りするのは難しいことも多い
「いつから痛いんですか?」と聞かれても、高齢者は「ええ、私もこんな年なんだから仕方ないとは思ってるんですが、ご近所のかたが病院に行ったら良くなったというもんですから…」などなど、延々と答えたりしがちなわけです。
親御さんに「どう痛いの?」と聞いても「普通の痛さと違うから胃がんだと思うわ。長野のおばさんのときとそっくりなのよ」というような答えが返ってきたりするのは、高齢の親にはよくあることですね。
高齢者だけでなく、だれでも、病気について正確に答えることには慣れていないものです。私が看護学生や研修で看護師に講義をするときにも「どこまでが事実でどこからが想像・感想・推測か、わかるように報告をしましょう」ということを教えています。「ここに倒れているけど頭は打っていない」ではなくて「ここに倒れている。見たところは、頭は打っていないようだ」と言うということですね。
●あらかじめ、書いて持って行くといい
家族がある程度本人から聞いておいて、医師に話したほうがいい場合は少なくありません。
ただし、医師の診療スタイルによっては、患者本人から聞きたいという場合もあります。認知症かどうかは話してみなくてはわかりません。それ以外でも、直接話すことで、患者がどの程度しっかりしていて、医師が「こうしてください」と言ったことができそうかといったことも推測できるからです。
そのためにいい方法は、いつ、どこに、どんな症状が出ているかをあらかじめペーパーにして、それを窓口で渡しておくことです。そうすると医師としても、基本的な欲しい情報は知った上で、患者本人ともやり取りできます。
また、親本人とすると、自分の頭越しに医師と子どもだけが話しているのは気分がいいものではありません。自分で先生に話して聞いてもらいたいという気持ちもあるでしょう。
自分のことではないせいもあって、その場で考えて話そうとすると、言い忘れたことが出てしまったりするので、あらかじめ書いて持って行くのはおすすめです。
私は、母が何才のときにどんな病気にかかって、どこの病院にかかった、いつからいつまで入院したという既往歴の表を作って更新し続けておいて、医師に渡していました。
医師の話をするときに、録音やメモはしてもいいか
医師の話を聞くときに録音やメモをしたいということもあると思います。
●医師からの説明はメモを取りながら聞くといい
話を聞きながらメモを取るのはもちろんいいことです。
医師からの「お水はこのぐらい飲むようにしてください」「こういう食べ物は避けてください」といった言葉を、親が全部覚えるのは難しいこともあるでしょう。あとで説明してあげるためにもメモしておくといいのです。
●なぜ録音を嫌がる病院があるか
録音していいかどうかは、聞いてみるといいのです。
録音や撮影はしないでくださいと掲示してある病院もあります。「今日はこの病院に来ましたー」と院内の写真を撮ってフェイスブックなどに上げてしまうような人も結構いるためです。他の患者さんのプライバシーという点からももちろん困るわけです。
録音も、SNSにアップされてしまったりすることが心配だから嫌がるという病院は少なくありません。当事者だけのクローズされた中だという前提として話したことが、ある部分だけ切り取ってアップされたりするのはやはり困るということですね。その可能性がないとはいえないからです。
「あとで大事なことを忘れてしまったり、わからなくなってしまうと不安なので録音してもいいですか」と聞いてみるといいと思います。
●わからなかったら、次に聞くようにする
病気についての説明などを、医師の話を聞いているその場ではわかった気になっても、あとで人に説明しようとするとわかっていなかったということもあります。これは私のような医療者でもあることです。わからなかったら、次のときに聞くということでいいと思います。
よくあるのは、医師はおすすめの治療を話すので、それを聞いて終わってくる。人に話したときに「その手術は絶対しないといけないの?」とか「急がないといけないの?」とか聞かれると、わからないというようなことです。その場ではわかったような気になっていても、あとから疑問点は出てくるものです。
・それをしなかったらどういう方法がありますか
・手術はしなくてはいけませんか
・早く手術しなくてはなりませんか
といったことは、聞いてみるといいかもしれません。
手術をするかどうかといった大きいことを決めなくてはならないときは、「親族もいて相談して決めることになります。今日私が聞いただけではわからないことが出てきたら、どうしたらいいでしょうか」というふうに聞くことです。
わからなかったらもう一度説明するとか、親族のかたを連れてきていいですよと言われるかもしれませんし、入院しているなら「明後日の夕方だったら時間が取れますよ」といったようにアポが取れるかもしれません。
今回の宮子あずさのひとこと
●面倒なようだが、準備しておくにこしたことはない
私は看護師として症状を聞いたり、医師に伝えたりすることもあります。今回は、そういう立場からも医療側がどう話してくれることを求めているかをお話しました。
診察を受けるのにこんなにいろいろ準備しなくてはならないのかと面倒に思ったかもしれませんね。しかし、短い時間をうまく使って、十分なやり取りをしようと思ったら、備えておくのにこしたことはありません。最近では医師が電子カルテに入力しなくてはならないので、医師が入力しやすいように伝えることを考えておくといいでしょう。
教えてくれた人
宮子あずさ(みやこあずさ)さん/
1963年東京生まれ。東京育ち。看護師/随筆家。明治大学文学部中退。東京厚生年金看護専門学校卒業。東京女子医科大学大学院博士後期課程修了。1987年から2009年まで東京厚生年金病院に勤務。内科、精神科、緩和ケアなどを担当し、700人以上を看取る。看護師長を7年間つとめた。現在は、精神科病院で訪問看護に従事しながら、大学非常勤講師、執筆活動をおこなっている。『老親の看かた、私の老い方』(集英社文庫)など、著書多数。母は評論家・作家の吉武輝子。高校の同級生だった夫と、猫と暮らしている。
構成・文/新田由紀子
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