『古畑任三郎』傑作エピソードベスト3は?こんな人も!?という豪華な犯人と倒叙型ミステリーの楽しみ方
話題のドラマを追いかけながら「過去の名作ドラマ」を配信サービスで観るのは楽しい。たとえば『MIU404』のようなバディものを観ていると過去の名作刑事ドラマが思い出されないだろうか。忘れられない名作をドラマ好きライターが紹介していくシリーズ第4回は、大ヒット刑事ドラマ『古畑任三郎』。ゲーム作家でライターの米光一成が、放映当時の楽しみ方を思い出しながら、見逃せないエピソードベスト3をピックアップする。
『あなたの番です』の原型となる考察ドラマ
ドラマが、いよいよクライマックスにさしかかろうとするところで、ぼくらはテレビを消す。
暗転して古畑任三郎にスポットライトが当てられ、視聴者に挑戦状をたたきつけた後だ。
毎週水曜夜9時、ミステリー好きの同僚とテレビの前に集合し、『古畑任三郎』(フジテレビ)を観ながら推理合戦を楽しんでいた。あの銀紙は何だ? あのタイミングで停電があった理由は? あの犬は何をしたのか? ああだこうだと大議論をする。
もちろんテレビ放送は議論を待ってくれないから、解決編は録画している。推理が当たっていたり、見事に外れたり、そのことを楽しみ、ドラマとしてどうだったか、ミステリとしてどうだったか、番組が終わった後もえんえんと話し続けていた。
放送のタイミングにあわせて、ドラマについてあんなに熱心に議論したのは初めてのことだ。どんでん返し連発連続殺人ドラマ『あなたの番です』(2019年)で考察を楽しんだあの感覚の原型は、ぼくにとっては『古畑任三郎』だ。
忘れられないSMAP、豪華な犯人たち
『古畑任三郎』は、1994年4月13日にシーズン1がスタート。その後、スペシャル回をはさみながら、シーズン3まで続く。
倒叙型(※)のミステリーだ。テレビシリーズ『刑事コロンボ』と同じスタイル。はじめに犯行の様子が映し出される。この犯人たちが豪華だ。
編集者を殺す少女コミック作家を演じるのは、中森明菜。
ラジオ生放送中に殺人を犯すDJ役で、桃井かおり。
天才的頭脳を持つ化学研究員を演じる福山雅治(『ガリレオ』(2007年)の原型のような役柄!)
フェアな殺人者役で、メジャーリーガー・イチロー。
ベテラン刑事であり犯人である役を、菅原文太。
しゃべりすぎる腕利き弁護士役で、明石家さんま。
不倫しているイケメン主治医役の草刈正雄。
妻を殺害するミステリ作家を演じる笑福亭鶴瓶。
クイズ王で天狗になりすぎた果てに殺人を犯す役の唐沢寿明。
そして、SMAPが登場した回は、木村拓哉役を木村拓哉が、中居正広役を中居正広が、稲垣吾郎役を稲垣吾郎が、香取慎吾役を香取慎吾が、草なぎ剛役を草なぎ剛が、つまり人気アイドルグループSMAPが、ドラマのなかのアイドルSMAPを演じた。
豪華なうえに、ちゃんとその人物のパブリックイメージを反映した役を当て書きしているのだ。さらに、田村正和演じる古畑任三郎と犯人が対決し、丁々発止の知恵比べを繰り広げる。この部分がメインなので、犯人役の演技とそのキャラクターをたっぷり堪能できる。
いま見返してみると、ミステリーのスリリングさ以上に、スターたちのキャラクターを存分に楽しむ舞台としてめちゃくちゃおもしろいのだ。
→SMAPの全員が主演していた日曜劇場|主演本数歴代2位はキムタク、1位は?
※最初から犯人がわかった状態で話が進むこと
誇り高き殺人者…シーズン1のベスト3エピソードとは?
基本的に1話完結型なので、どのエピソードから見てもOKなのもうれしい。正味45分、好きなスターが出ている作品から観ていけばいいだろう。
ここでは、ガイドとして、シーズン1の見逃せないエピソードベスト3をピックアップしてみる。
まず第1話「死者からの伝言」。
少女コミック作家の小石川ちなみ(中森明菜)が、編集者に遊ばれたことに気づいて殺してしまうというエピソード
犯行→探偵役の古畑の登場→古畑vs.犯人→視聴者への挑戦状→解決編という基本フォーマットも綺麗に進行していて、「古畑任三郎」がどういうドラマかをはっきり示した作品だ
「誰一人逮捕の瞬間、悪あがきをしなかったと言うこと。彼らは犯行を認めた後、進んで自供してくれました。誇り高き殺人者。そして、それが私の自慢でもあるのです」(シーズン3最終回の古畑のセリフ)という犯人像もしっかりと描かれていて、ダイイングメッセージと、誰が殴ったのかという2つの謎の解明も鮮やかでミステリー的にも面白い傑作だ。
またシリーズ全体を通して、小石川ちなみは何度も話題にあがり、彼女の人生がシリーズを通して描かれる。『古畑任三郎』の裏の主役ともいえる存在である。
そして多くの古畑ファンが最高傑作にあげる第2話「動く死体」。
古畑vs.犯人のやりとりの手数が多く、さらにクライマックスともいえる懐中電灯をめぐる展開もスリリングだ。
Mr.かくし芸の堺正章ならではの絶妙な演技によって、歌舞伎役者中村右近の人物造形の魅力が、謎解きだけの面白さではなくドラマに深みを持たせた。ラスト、なぜ犯行現場からさっさと立ち去らなかったのかという理由が語られるときの感動は忘れがたい。
第11話「さよなら、DJ」は、桃井かおりが演じるディスクジョッキーが魅力的でうむを言わせぬ傑作回。
ラジオのディスクジョッキー中浦たか子(桃井かおり)が、ラジオ番組の生放送中『サントワマミー』の曲が流れている3分間で、スタジオを飛び出し全力疾走し、殺人を犯して戻ってくるというすさまじいアリバイ作りを行い、それを暴く古畑任三郎との対決を描く。
ふだんはけだるい中浦たか子が、放送になるとはっちゃけた勢いでしゃべりまくって、「この深夜放送を聞きたい!」と思わせる迫力がある。さらに恐ろしいころに、殺人を犯すときですら魅力的に見えるのだ(「エリちゃん、痛い?」と言いながら殴るシーンの凄み!)。アリバイ検証で何度も走らされる今泉慎太郎(西村雅彦、現在はまさ彦)のコメディアンっぷりも楽しく、今回、観返して、一番気に入った回だ。
田村正和以外に古畑任三郎はありえない?
フォーマット的な制約の厳しさのなかでソリッドな楽しさを見せてくれたシーズン1にくらべ、シーズン2、シーズン3とシーズンを重ねるごとに、描かれるドラマの幅がひろがっていく。フォーマット自体を逆手に取った回もでてくるし、古畑任三郎と今泉慎太郎の関係性の楽しみも膨らんでくる。
三谷幸喜の連載で、古畑任三郎の登場する新作小説「一瞬の過ち」が発表され、『東京スポーツ』が古畑任三郎の復活プロジェクトの噂を報じた。新・古畑任三郎を演じる最終候補として阿部寛とオダギリジョーが残っているというのだ。
正直、今回見返してみて、田村正和以外に古畑任三郎はありえないと思ってしまった。田村正和演じる古畑のイメージが脳内にしっかりと定着しているので、他の人が演じても違和感が出てしまうだろう。もし、やるとしても、まったく違うキャラクターを造形するのではないか。
勝手な妄想だが、三谷幸喜脚本、大泉洋主演で、連続ミステリードラマが観たい。
残念ながら、スペシャル回や一部のエピソードは配信されていない。SMAP、木村拓哉、風間杜夫、山口智子、イチローなどの回を配信では観ることができないのだ。観たい
→小説で復活が話題『古畑任三郎』は田村正和と日曜劇場にも意外な影響!?
→『古畑任三郎』リメイクの噂で木村拓哉新キャストの期待も。田村正和につながるものは?
文/米光一成(よねみつ・かずなり)
ゲーム作家。代表作「ぷよぷよ」「BAROQUE」「はぁって言うゲーム」「記憶交換ノ儀式」等。デジタルハリウッド大学教授。池袋コミュニティ・カレッジ「表現道場」の道場主。
●はぁって言うゲーム』をデザインしたゲーム作家が解説!今、話題のカードゲーム5選とその楽しみ方
●『とんぼ』で長渕剛が格闘する「クソったれな世の中」はマシになった?