コロナ自粛で3か月ぶりに息子と対面した認知症の母 沈黙の2秒後…その反応は?
新型コロナの影響で岩手・盛岡への帰省を自粛していた作家でブロガーの工藤広伸さん。最後に帰省したのが3月31日。3か月ぶりに会う認知症の母の症状はどうなっているだろうか。不安な気持ちを抱え、デイサービスから帰宅する母を玄関で待ち構えていたら――。
【目次】
コロナ感染者0の岩手へ帰省する重圧
新型コロナウイルス感染者ゼロを継続している岩手県への帰省は、介護が目的であっても、とても勇気がいります。
達増拓也岩手県知事は、
「第1号になっても、県はその人を責めません」と呼び掛けてくれていますが、それでも感染者数が最も多い東京から岩手への帰省は、大きな重圧です。
今回は、どんなコロナ対策をして帰省を実現したのか、また3か月ぶりに認知症の母と再会したときの反応はどうだったのかというお話です。
→新型コロナに認知症の母「日本沈没か?」デイサービス閉鎖の不安
遠距離介護の帰省に伴う3つの行動
1.ケアマネを通じて帰省の許可をもらった
わたしの帰省について、母の担当ケアマネジャー経由で介護保険サービスの各事業所に確認をとってもらったところ、わたしの体調に問題がなければ、帰省してよいというお墨付きをすべてからもらいました。
2.盛岡のビジネスホテルで5日間滞在
まっすぐ実家へ帰ってもよかったのですが、自分自身が新型コロナの無症状感染者で、母や母が利用している介護保険サービスの関係者、他の利用者に感染させてしまう可能性もゼロではありません。
そこで、盛岡のビジネスホテルで5日間、誰とも会わない生活をしてから、実家へ帰ることにしました。5日間の根拠は、WHOのQ&Aにある『現時点の潜伏期間は1-12.5日(多くは5-6日)とされており』という文言から判断しました。
3.誰とも接触せず、検温・健康観察
6月19日の県をまたぐ移動自粛解除により、多くのビジネスマンが全国を行き来しています。わたしもその流れに乗りつつ、部屋の清掃がない宿泊プランを選択し、チェックインでフロントを利用した以外は、共有施設を利用せず、食事もすべて自分で調達しました。
5日間の健康観察で体温を測り、問題がないことを確認してから、実家へ帰りました。実家までの移動も公共交通機関を使わず、1時間ほど歩いて帰宅しました。
実家の部屋にはもう夏なのに…
母がデイサービスに行った直後を狙って帰宅したので、実家には誰もいません。手洗い・うがいをしっかりしたあと、入口のドアノブ、手すりなど、ひたすらアルコール消毒を行いました。
3か月ぶりの実家は、前回の帰省からめくられていない4月のカレンダーがあったり、夏だというのに、灯油ファンヒーターが残っていたりしました。
時が止まったままだった実家を夏仕様にして、母がデイサービスから帰宅するのを待ちました。
認知症は崖から落ちるように悪化することも
わたしが帰省する直前に、岩手に居る妹からこんな連絡がありました。
妹:「息子とお母さんだけ、車の中に残して買い物に行ったら、お母さんが『どちらのお子さんですか?』って言ったらしくて、息子が驚いてたよ」
孫の顔を忘れてしまった母の話に驚き、ひょっとしたら息子のわたしの顔まで忘れてしまったのでは?という不安に襲われました。
わずか3か月会わなかっただけと思われるかもしれませんが、認知症の症状は時として、崖から落ちるように悪化することもあります。
3か月ぶりに会った母の2秒の沈黙
――15時30分、母がデイサービスから帰ってきました。
いつもなら送迎車のそばまで行って、手足の不自由な母の歩行介助を行うのですが、わたしは盛岡に来て、まだ5日しか経っていません。職員の方に会わないほうがいいと思い、挨拶もせず、静かに母を待ちました。
送迎車がいなくなったところで、2階の自分の部屋からそっと1階に降り、母が玄関の鍵を掛けようとしたところで、何も言わずに母の前に立ってみました。
母はわたしを見るなり、2秒ほど沈黙。
この2秒の沈黙が、わたしにはとても長く感じられ、『うそでしょ、孫に次いで息子のことも忘れてしまったの?』と心の中で思いました。
次の瞬間、母はこう言いました。