新型コロナに認知症の母「日本沈没か?」デイサービス閉鎖の不安
新型コロナウイルスの拡大によって、介護をしている人やデイサービスに通う人たちへの影響は甚大だ。盛岡で暮らす認知症の母の遠距離介護をしている工藤広伸さんが直面している在宅介護における新型コロナウイルスの影響対策とは。母が非常時につぶやいた言葉とは…。
新型コロナ遠距離介護への影響-東北新幹線
新型コロナウイルスの感染拡大により、わが家の在宅介護や遠距離介護にも影響が出始めています。通常時の介護とどのように違うかについて、お話しします。
わたしは東北新幹線を利用して、東京岩手間を往復しています。新幹線は、他の乗客と距離が近いうえに、密室空間の中、3時間以上乗車しなければなりません。
JR東日本のホームページには、新幹線について次のような記載がありました。
≪高速走行を行うため車内の気密性を高めていますが、換気装置により常時換気を行っています≫
また、乗客には手洗いや咳エチケットの協力を、多言語で繰り返し車内アナウンスしています。以前なら新幹線の車内で飲食を楽しんでいましたが、飛沫感染対策のため、今はマスクを外さないようにしています。
ただ、乗客自体が減っているため、他の乗客と距離が近くなるケースは少なくなりました。
岩手の実家に到着したあとは、すぐ自分の部屋へ直行します。わたしの手で触った玄関の扉やドアノブなどをアルコール消毒し、手洗いやうがいを行ったあとで、母にただいまと言うようにしています。
新型コロナウイルスに関して、高齢者は重症化のリスクが高いと厚生労働省が公表しています。76歳の母は高齢者に属するため、わたしがウイルスに感染すると、命の危険にさらされます。そういうこともあって、わたしは念入りな手洗いやうがいをしています。
直近では、もの忘れ外来への通院が中止となりました。特例として、前回の診察と同じお薬の処方が、電話のみで認められました。そのお薬は、訪問看護師さんに自宅まで持ってきてもらうため、お薬がなくなる心配もありません。
新型コロナのニュースを見た母の反応は…
これだけ新型コロナのニュースが連日報道されていても、母は世界中で感染者が増えている現実を、すぐに忘れてしまいます。そのため、母は何度もこのようなことを言います。
「このウイルスは、どこからやって来たの?」
「わたしが小学校の頃は、ウイルスなんかなかったのよ」
76歳の母が、直近の話ではなく、60年以上も前の小学生の頃の話をするあたりが、認知症の症状らしいなと思います。また、
「日本沈没するんじゃない」
と、繰り返し言います。これは新型コロナウイルスをはじめ、自然災害が起きるたびに言う母の口癖で、1973年に発表された小松左京氏の小説『日本沈没』を思い出しているのだと思います。
新型コロナ遠距離介護への影響-在庫切れ
岩手県は今のところ感染者ゼロではありますが、実家近くのドラッグストアにはティッシュペーパーも、トイレットペーパーもありません。もちろん、マスクや消毒液もない状況です。
母は日用品の在庫状況を覚えていられないため、わたしが滞在する1週間の間に、これらの在庫を確保しておかなければいけません。訪問時間が限られているヘルパーさんに、欠品中の日用品の在庫を探してもらうわけにはいかないので、在庫確保はわたしの仕事になります。
岩手に居る妹の家、東京の我が家の在庫状況は把握しているので、在庫切れの場合はそこから調達する手はずになっています。
デイサービスの一時閉鎖による2つの懸念点
全国的には、デイサービスを一時閉鎖している地域もありますが、母が利用しているデイサービスは通常通り営業しています。
しかし、感染者が拡大した場合は、デイサービス自体を一時閉鎖して、介護職員が利用者の自宅を訪問して介護をするという通達がありました。
現在、すでに訪問介護が行われている地域もあるようですが、わたしがデイサービスの一時閉鎖で懸念している点は2つです。
1つは、介護を受けられる時間です。母のデイサービスは、朝9時~午後4時までの利用で、送迎車を使って施設へ通っています。
もし訪問介護に切り替わった場合、自宅に7時間来て頂くことは不可能です。他の利用者宅を訪問しなければなりませんし、スタッフの人数や移動時間を考えれば、せいぜい数十分の滞在になってしまうと思います。
2つ目にデイサービスと在宅介護では、介護の内容に違いがあり、デイサービススタッフが、在宅介護に対応できるかどうかは不明です。例えば、デイサービスで提供されている食事は、利用者が集まるから提供できるのであって、個別の家で料理する時間はないと思われます。
そうなると、家族の介護負担は増えます。デイサービスに親を預けている間に、会社で仕事をしている介護家族などは、自分の仕事にも影響することになります。
わたしはデイサービスの一時閉鎖が決まった場合は、実家へ帰省して母の日常生活を支えるつもりでいます。
介護家族も心配ですが、デイサービスのスタッフの皆さんのストレスも心配です。スタッフの皆さんにもご家族があるわけですし、たくさんの利用者の家を訪問するとなると、感染のリスクも高まります。
介護家族もデイサービススタッフもできることは限られますが、その中でなんとか在宅介護を乗り切っていかなければいけない、そんな状況です。
今日もしれっと、しれっと。
工藤広伸(くどうひろのぶ)
祖母(認知症+子宮頸がん・要介護3)と母のW遠距離介護。2013年3月に介護退職。同年11月、祖母死去。現在も東京と岩手を年間約20往復、書くことを生業にしれっと介護を続ける介護作家・ブロガー。認知症ライフパートナー2級、認知症介助士、なないろのとびら診療所(岩手県盛岡市)地域医療推進室非常勤。ブログ「40歳からの遠距離介護」運営(https://40kaigo.net/)
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