毒蝮三太夫提唱!介護を円満にするために避けたい3つの“いじ”「連載 第21回」
介護する側もされる側も、厄介なのが「気持ち」の問題だ。やさしく接したい、お世話してもらってありがたいという思いは山々でも、日々いろんな場面で不満や怒りを抱いてしまいがちである。高齢者の気持ちの機微を誰よりも知る毒蝮三太夫さんが、心穏やかに介護したりされたりする上で避けたい「3つの“いじ”」を提唱してくれた。(聞き手・石原壮一郎)
コロナ渦でなかなか会えない織姫と彦星みたいな親子
おっ、この回が出るのは七夕の日か。春から新型コロナのせいで、遠くへの移動を自粛しなきゃいけなかったり、介護施設の面会や病院の見舞いができなかったりした。言ってみりゃ、みんなが彦星や織姫になったみたいなもんだな。
離れて住んでいる親がいたら、電話でもしてやってくれよ。「今日は七夕ね。私たちもなかなか会えなくて、織姫と彦星みたいね」なんて言ったりしてさ。高齢の親といっしょに住んでいる人も、「今日は雨だから彦星と織姫も会えないね」「晴れだから会えるね」って話を振ったら喜ぶと思うよ。
親子って、意外と話すことがないんだよな。七夕だの土用の丑(2020年は7月21日と8月2日)だのっていう昔からの行事は貴重な共通の話題だから、どんどん活用しよう。「子どもの頃、お父さんが切ってきてくれた笹に短冊をつるしたよね」なんて、そっから話が広がって、きっとお互いにあったかい気持ちになれるんじゃないかな。
ただ、うっかり土用の丑の話題を振ったりすると、「久しぶりに蒲焼が食べたいね」なんて言われて、やぶヘビならぬやぶウナギになっちゃうかもしれない。そんなときは俺の写真を見せて、「マムシで我慢して」って言ってやってくれよ。「こんなもん煮ても焼いても食えねえじゃねえか!」って怒り出しそうだけどな。ハハハ。
くだらないこと言っちゃったけど、親子にせよ何にせよ、コミュニケーションで大事なのはやっぱり「笑い」だ。ところが、笑える気分じゃない状況もある。親を介護しているっていうのは、まさにそうだよな。介護を受けている側だって、家にいるにせよ施設にいるにせよ、ちょっとしたことでイライラしたり落ち込んだりしがちだ。
避けたい「3つのいじ」とは?
お互いにとって介護は、ただでさえたいへんな状況なんだから、せめて少しでも気持ちを楽に持ってほしい。俺ね、考えたんだよ。心穏やかに介護をしたりされたりするためには、避けたほうがいい「3つの“いじ”」があるんじゃないかって。それを心がければ、楽しくなるとまでは言わないけど、コミュニケーションがスムーズに取れるようになって、余分なつらさを味わわなくていいかもしれない。
それは「いじけない」「意地をはらない」「いじめない」の3つ。どれも「いじ」がつくけど、それぞれ字は違う。「いじける」は「畏縮る」「萎縮る」なんて当て字があるだけで、正式な漢字はないみたいだ。「意地」の意は心って意味だから、地の心でその人の根っこの部分、つまり本性だな。「いじめる」は漢字だと「虐める」や「苛める」と書く。
まずは「いじけない」。介護される側は、どうせ自分なんてっていじけて、ひねくれた気持ちになりがちだ。引っ込み思案になったりもする。介護する側も、なんで自分ばっかりっていじけて、見るもの聞くもの悪いほうに取って暗い気持ちになりがちだ。そんなふうに思わず、自分がやれる範囲の中で、少しでも楽しいことを見つけてほしい。
「意地を張らない」ってのも、年寄りはなかなか難しいんだよな。年寄り扱いされるとプライドが傷ついて、余計に意地を張りたくなる。介護している側も、相手がわがまま言ったりすると「こんなにやってあげてるのに」って思って、強引に言うことを聞かせたくなる。どっちにしたって、そこで意地を張っても仕方ない。自分を押し通すんじゃなくて、一歩引いて相手を尊重するようにすれば、お互いに楽になれるはずだよね。
3つ目は「いじめない」。当たり前なんだけど、イライラしてると相手につらく当たったりすることもあるかもしれない。介護してくれている人にイチャモンつけたり、介護している年寄りに無理なこと言ったりさ。そんなことしたって後味が悪いだけだ。それと大事なのは、人もいじめないけど自分もいじめないってこと。自分を愛する、自分を大切にするっていう気持ちがないと、人にやさしく接することはできないよ。
日常生活では「3つの密」を避けつつ、介護の場面では「3つのいじ」を避けてほしい。要は、深刻にならずに明るく前向きに過ごしましょうってことだ。真剣に考えるのは大事だけど、深刻に考えたっていいことは何もない。「お気楽なこと言いやがって」って言われそうだけど、介護する側や介護される側のたいへんさは、もちろん十分にわかってるつもりだ。俺なりの応援ってことで、よかったら頭の片隅にでも置いといてくれよ。
毒蝮三太夫(どくまむし・さんだゆう)
1936年東京生まれ(品川生まれ浅草育ち)。俳優・タレント。聖徳大学客員教授。日大芸術学部映画学科卒。「ウルトラマン」「ウルトラセブン」の隊員役など、本名の「石井伊吉」で俳優としてテレビや映画で活躍。「笑点」で座布団運びをしていた1968年に、司会の立川談志の助言で現在の芸名に改名した。1969年10月からパーソナリティを務めているTBSラジオの「ミュージックプレゼント」は、現在『土曜ワイドラジオTOKYO ナイツのちゃきちゃき大放送』内で毎月最終土曜日の10時台に放送中。84歳の現在も、ラジオ、テレビ、講演、大学での講義など幅広く活躍中。
取材・文/石原壮一郎(いしはら・そういちろう)
1963年三重県生まれ。コラムニスト。「大人養成講座」「大人力検定」など著書多数。最新刊は『恥をかかない コミュマスター養成ドリル』。この連載では蝮さんの言葉を通じて、高齢者に対する大人力とは何かを探求している。
撮影/政川慎治
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