暮らし

うつっぽくなった親に「頑張って」と言っては絶対にだめなのか…|700人以上看取った看護師がアドバイス

 うつ状態になっている人には頑張ってと言ってはいけないとはよく言われる。では親にどう接したらいいのか、不安になってしまうことも多い。看護師として700人以上を看取り、今は訪問看護の仕事をしている宮子あずささんは、「言ってはいけない」とがんじがらめにならなくていいと言う。

→親がうつっぽくなって「死んでしまいたい」と言ったら…

うつ状態はいろんな形であらわれるとわかっておく

 まずうつ状態は、ごく簡単に言ってしまうとエネルギーが枯渇しているもので、人によって以下のようにいろんな形であらわれるとわかっておくといいでしょう。

・元気がなくなってしまう。
・迷惑をかけていると悲観的になって時には、執拗にそれを訴える。
・身体の症状を強く主張する。不定愁訴と言われることもある。身体のことにしか関心が持てなくなったり、病院をいろいろ受診することもある。
・思考力・集中力の枯渇。読んで理解することが難しくなる
・自分を責め続ける。他人を責めるようになる人もいる。

 自分にせよ他人にせよ、責め続けるというのは、だれかが悪いと思いたいからです。医師だったり、介護している子どもだったり、介護してくれない別のきょうだいだったりします。

 物事を複雑なまま受け止める余裕がなく、悪者を作って単純化するほうがらくなために、「○○が悪い」としてしまうのです。

なぜ頑張ってと言ってはいけないのか

 「うつ状態になった人に頑張れと言ってはいけない」というのはあまりによく言われることです。

 その理由は、頑張りたいのに頑張れない人に頑張れと言うと、追い詰めてしまうからです。すでに頑張ってこれ以上頑張れないのに、「頑張って」と言われると、まだ余力があると思われているのかと、どうしたらいいかわからなくなってしまうのですね。
  
●言ってはだめだと思って、声を掛けにくくなるのは良くない

 残念なのは、うつ状態の人には頑張ってとかやたらなことを言ってはだめだと思い、そういうことが呪縛になって、声を掛けにくくなってしまうことです。

 専門家が「頑張ってというのはだめです」と言ったからといって、それを参考にするのはいいけれど、絶対いけないと気にすることで親と関わるのを躊躇するのは、よくないことです。専門家の言葉からははずれていても、それまで築いてきた家族の関係や習慣のなかでできあがってきた言葉は、恐れずに直感に従って掛けていくのがいいと思います。

どんな接し方がいいのか

 一番無難なのは、大変なことをお察しします、というスタンスでしょう。

 最近では、メールやLINEなど文字のやり取りも多いですが、そういう時には、もちろん文字にしてわざわざ頑張ってと書かないほうがいいわけです。「くれぐれも無理しないように」というような書き方でいいと思います。
 
 私はよく個人的に、うつっぽくなっている人には「休むほうで頑張って」という言い方をします。きっとあなたは頑張ってしまうから、頑張るなと言っても無理でしょう。今は休む方向で頑張ってということです。これがどの親子にも当てはまるわけではありませんが。

 何を言っても怒るという心境の人はいます。そういう時は放っておいても怒ります。そういう精神状態だから当たり散らしているのだとわかってあげましょう。

 うつっぽい状態の人は、受け取り方がネガティブです。頑張ってと言おうと言うまいと、突っかかられてしまうことはあるのです。ちょっと変だなと思ったら退却するほうがいいのです。わかってもらおうと思ってもうまくいきません。

 残念ながら、人の言葉を受け入れていない状態なことが多いので、頑張ってと言ってもそれほど、聞いてもらえていなかったりもします。ガチガチに「してはいけない」と思いこんでしまわずに、その時その時でいいと思った言葉を掛けてあげるのがいいのです。

<頑張ってと言ってはだめなのか」困った時のためのまとめ>

●うつ状態はいろんな形であらわれる

●頑張ってと言ってはいけないのは、追い詰めてしまうから

●頑張ってと言ったら絶対にだめだと思って、声を掛けにくくなるのは良くない

●無難なのは、大変なことをお察ししますというスタンス

●何を言っても怒るという心境の人はいる

●その時その時でいいと思った言葉を掛けてあげるのがいい

●突っかかられてしまったら、退却するほうがいい

今回の宮子あずさのひとこと

●ネガティブな親を封じるのはやめたほうがいい

 今回は、頑張ってと言ってはいけないわけではないとお話しました。私は、基本的に、親の介護にあたって「言ってはいけない」というのはないと思っています。相当ひどいことを言い合ってもリカバリーしていくことはできるから、神経質になりすぎないほうがいいのです。

 しかし、ちょっと聞くと矛盾するようですが、ネガティブになっている親を「そんなことを言わないで」と封じるのはやめたほうがいいと思っています。封じるのは優しくないからとか寄り添っていないからとかではありません。これは、私が、介護にあたって、いつも頭におこうとしていることなのですが、無駄なことはしないほうがいいのです。

「やめなさい」と何度も何度もいっているうちに、やめないことに腹が立ってくるものです。何か働きかければ、その結果を求めるのが人間関係というものなので。やめなさいと言っても、繰り言を言う人はやめることはできません。だから疲れてしまうので、介護をうまく続けていくためには、無駄なことはしないほうがいいのです。

 コロナの感染者は減らない上に、暑さや台風などの災害の危険も取りざたされて、まだまだ気の休まらない日が続きます。介護で疲れてしまわないように、それこそ頑張らないでお過ごしください。

→宮子あずささんの他の記事を読む

教えてくれた人

宮子あずさ

宮子あずさ(みやこあずさ)さん/
1963年東京生まれ。東京育ち。看護師/随筆家。明治大学文学部中退。東京厚生年金看護専門学校卒業。東京女子医科大学大学院博士後期課程修了。1987年から2009年まで東京厚生年金病院に勤務。内科、精神科、緩和ケアなどを担当し、700人以上を看取る。看護師長を7年間つとめた。現在は、精神科病院で訪問看護に従事しながら、大学非常勤講師、執筆活動をおこなっている。『老親の看かた、私の老い方』(集英社文庫)など、著書多数。母は評論家・作家の吉武輝子。高校の同級生だった夫と、猫と暮らしている。

構成・文/新田由紀子

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