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毒蝮三太夫はなぜ毒蝮三太夫という芸名になったのか…その由来は?【連載 第20回】

「マムシさん」「マムちゃん」の愛称で親しまれている毒蝮三太夫さん。もちろん芸名だが、あらためて字面を見ると、かなり刺激的である。『ウルトラマン』や『ウルトラセブン』で人気を集めていた俳優の石井伊吉が、なぜ『笑点』の座布団運びになり、インパクトがあり過ぎる名前に改名したのか。「第二の人生」のルーツを聞いてみた。(聞き手・石原壮一郎)

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立川談志から「スタンダップコメディアンになれ」と言われて

 梅雨に入って、蒸し暑い日が続いてる。今はマスクなしでは外に出られないけど、この時期は熱中症にも気を付けなきゃいけない。まわりに人がいないときには、小まめに外すとかしないと危ないよな。マスクをしてると水分を摂る回数が減る傾向もあるらしいから、気を付けてくれよ。いろんなリスクと付き合いながら、元気にやってこうじゃないか。

 リスクで思い出したけど、日本の田んぼや野山にはたまにマムシが出てくる。噛まれたら命に関わるってんで、昔から怖がられてきた。今回は暑気払いってことで、なぜ俺が「毒蝮三太夫」なんて物騒な名前になったかを話してみようと思う。我ながら強引な流れだな。ハハハ。

 俺は12歳のときに舞台の「鐘の鳴る丘」でデビューして、高校時代から青春映画とかにちょこちょこ出たりしてた。学生時代は仲間と劇団を結成したこともある。卒業してそのまま俳優になって、映画や草創期のテレビドラマでいろんな役をやった。

 今でもたくさんの人が覚えてくれているのは、『ウルトラマン』のアラシ隊員と『ウルトラセブン』のフルハシ隊員だよな。あれが1966(昭和41)年とか67、68年とかの話だ。そのときはまだ、本名の石井伊吉(いしい・いよし)だった。当時は「丈夫で安い」ってことで、けっこう重宝されてたんだぜ。

 ところが、学生時代に知り合った立川談志が、俺の運命を変えやがった。ヤツとはウマが合ってしょっちゅうつるんでたんだけど、『ウルトラマン』に出るずっと前から、「お前はしゃべりが面白いのに、役者をやってたら普通で終わっちゃう。スタンダップコメディアンになれ」って俺を口説き続けてた。今思えば、適性を見抜いてたんだね。

 寄席や余興に俺を連れていって、師匠たちに紹介して、いきなり「10分しゃべれ」って言ったりするんだよ。無茶な話だよね。そのうち、談志自身が立ち上げた『笑点』で座布団を運べって言ってきた。チャンスをくれたわけだ。こいつ、本気なんだなって思ったよ。そのときは『ウルトラマン』の放映中だったけど、しぶしぶ引き受けた。

 最初の頃は石井伊吉でやってたんだけど、「なんで正義の味方がお笑い番組で座布団を運んでるんだ」って、『ウルトラマン』のTBSにも『笑点』の日テレにも苦情がたくさん来たらしい。じゃあ、座布団運びのときだけの芸名を付けようってことになった。

 談志たちが、怪獣にも負けない名前で「蝮がいいだろう」ということになった。そこに、大喜利メンバーだった五代目の三遊亭圓楽さんが「ただの蝮じゃつまんないから毒を付けよう」って言って、毒蝮になったんだよね。下の名前の「三太夫」は、『笑点』の前に談志と出ていた『談志専科』って番組で、殿様役の談志と掛け合いをする家老の「田中三太夫」って役をやってたから、そこから取った。語呂とイメージのマヌケさがピッタリだよな。

 そしたら、1968(昭和43)年12月に番組の中で「改名披露」をやろうって話になって、俺は正式に石井伊吉から毒蝮三太夫になっちゃった。結局は半年もしないうちに談志が「選挙に出る」って番組を降りちゃって、俺もいっしょに辞めたんだけどね。日テレから「ウチの番組で付けた名前だから、ほかの局では使ってもらえないよ」って脅されたのを覚えてる。冗談じゃねえよな。おかげさまでそっから50年以上、毒蝮の名前でやらせてもらってる。

改名を知ったときのカミさんの反応にはまいった

 改名したときにあらためて思い知らされたのが、カミさんのすごさだね。「俺、毒蝮になった」って言いづらくて、しばらく黙ってた。その頃、カミさんは三越に勤めてたから、日曜日の『笑点』は見てなかったんだよ。ある日、近所の人が「ご主人、ヘビになったのね」ってカミさんにバラしちゃった。

「いやあ、毒蝮なんて名前じゃ、君は嫌がるだろうと思って……」ってモゴモゴと言い訳したら、カミさんはちょっと呆れて、キッパリこう言ったね。「私はあなたの女房でしょ。あなたが決めたことで、私が嫌だと言うと思ったの」って。いやあ、まいったよ。

 石井伊吉として役者としてどこまでやれたのかは、今となってはわからない。ただ、この歳までは仕事してなかっただろうね。「第二の人生」を切り開いてくれた談志にも、すんなり受け入れてくれたカミさんにも、どんなに感謝しても感謝しきれない。これからも身体と頭が元気なうちは、毒を吐きながらジジイ、ババアを元気にするぞ!

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毒蝮三太夫(どくまむし・さんだゆう) 

1936年東京生まれ(品川生まれ浅草育ち)。俳優・タレント。聖徳大学客員教授。日大芸術学部映画学科卒。「ウルトラマン」「ウルトラセブン」の隊員役など、本名の「石井伊吉」で俳優としてテレビや映画で活躍。「笑点」で座布団運びをしていた1968年に、司会の立川談志の助言で現在の芸名に改名した。1969年10月からパーソナリティを務めているTBSラジオの「ミュージックプレゼント」は、現在『土曜ワイドラジオTOKYO ナイツのちゃきちゃき大放送』内で毎月最終土曜日の10時台に放送中。84歳の現在も、ラジオ、テレビ、講演、大学での講義など幅広く活躍中。

取材・文/石原壮一郎(いしはら・そういちろう)

1963年三重県生まれ。コラムニスト。「大人養成講座」「大人力検定」など著書多数。最新刊は『恥をかかない コミュマスター養成ドリル』。この連載では蝮さんの言葉を通じて、高齢者に対する大人力とは何かを探求している。

撮影/政川慎治

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