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「親の介護は嫁が」はあり?なし?夫婦の介護分担を考える

 認知症の母を、東京ー岩手の遠距離で介護を続けている工藤広伸さんは、ブログや書籍で、その介護経験を発信している。父、祖母の介護経験もあり、リアルな介護話は、多くの共感を呼んでいる。

 当サイトで執筆中のシリーズ「息子の遠距離介護サバイバル術」でも、工藤さんならではの視点で、介護をする人たちへのアドバイスが満載。これからの「介護スタイル」の一つとして人気のコンテンツになっている。

 今回は、工藤さんが考える「夫婦の介護分担」について。工藤家では、どのように介護を捉えているのか教えてもらった。

* * *

 かつては、妻が夫の両親も介護するのが当たり前という時代がありました。しかし今では、「熟年離婚」の原因が義父・義母の介護だったというニュースがあるほど、時代の価値観は大きく変化しています。

 わたしの祖母や母、父の介護で、妻はどのような役割を果たしたのかをご紹介したいと思います。

 うちは1歳年上の妻とわたしのみの2人家族で、子どもはいません。共働き世帯で、妻は会社員、わたしはフリーランスです。夫婦共に東京都在住ですが、わたしは岩手県出身、妻は北陸地方の出身なので、それぞれ地方に両親がいるという家族構成です。

 結論から言うと、わたしの祖母、母、父の介護を、妻がやったことは一度もありませんし、お願いしようとも思いませんでした。なぜ、そう考えたのかをお伝えします。

「介護を嫁に」という発想がなかった3つの理由

 まず、距離の問題があります。

 夫婦ともに、東京が生活・仕事の拠点となっています。それなのに、妻だけが岩手に帰って介護をするということが、想像できませんでした。

 2つ目に、わが家の複雑な環境です。亡くなった父は実家を出て別居中でしたし、祖母は入院、母は在宅で認知症という身内のごたごたを、妻に背負わせたくないと、思ったからです。

 3つ目は、妻にも両親が居るということです。わたしと妻、それぞれが自分の実家に帰って介護をしていた時期も、実は数年ありました。

 以上3つの理由で、わたしの家族の介護を妻に頼むことはありませんでした。

 仮に妻とわたしの両親が近くに住んでいたとしても、妻に介護を依頼することはなかったと思いますし、「妻だから介護をしなければいけない」という発想自体、わたしにはありません。

 とにかく面倒なことに妻を巻き込みたくないというのが、わたしの正直な思いです。

夫が会社を辞めることに、妻が反対しなかった理由

 わたしが介護離職をして、自分で介護に専念する道を選んだのですが、「夫が会社を辞めることに妻は反対しなかったのか」とか、「夫婦のお金は大丈夫なのか」という質問をよく受けます。

 わが家は、夫と妻の年収をお互いが知りません。家賃や公共料金などは、共通の銀行口座にそれぞれが決まった金額を入れ、そこから引き落とすようにしています。それ以外の残ったお金は、それぞれ自由に使うというシステムになっています。

 わたしが介護離職した時に妻に言ったのは、

「自分が介護離職したとしても、(妻が)家に入れるお金が増えることはない」

「自分の収入が減ったとしても、貯金があるから数年は何とかなる」

「介護にかかる費用は、両親や祖母のお金を使うようにする」

 なので、会社を辞めても妻の生活が貧しくなったり、家賃が払えなくなったりということはないと理解してもらいました。実際、わたしの遠距離介護が始まったあとも、東京の家をしょっちゅう空けるということ以外、妻の生活に変化はありません。

「介護は嫁」という時代は終わりつつある

 厚生労働省が発表している「国民生活基礎調査」の中に、「要介護者等との続柄別主な介護者の構成割合」というデータがあります。この調査で分かることは、配偶者、子、子の配偶者、介護施設など、誰がメインで介護を担っているかということです。

 この中で明らかに割合が減っているのが、子の配偶者(嫁)です。平成22年、平成25年、平成28年の数値は、15.2%→11.2%→9.7%と激減しています。嫁を頼らない介護が、このデータからも分かります。

 この調査には介護者の男女比も示されているのですが、平成22年、平成25年、平成28年の数値30.6%→31.3%→34%と、男性介護者の割合は増え続けていて、そろそろ4割に迫る勢いです。

 社会背景として、うちのような「共働き世帯」が急増し、専業主婦のいる世帯は減っていることもあると思います。また、亭主関白だった昔とは違って、今は夫婦共同で家事や育児を行う時代であり、介護に関しても同じことが言えるのだと思います。 

世代間で違う「嫁介護」への意識

 しかし、70代、80代の中には、「介護は嫁」という意識のままの方も一定数いるようです。

「70代・80代の親世代からのプレッシャーのほうが気になる。奥さんなんだから、夫の介護を手伝うべきと思っている親族はいる」

 と妻も言っていました。

 夫婦で介護の役割分担がきちんとできていたとしても、親族が古い価値観のままということもあるという一例ですが、若い世代にも「介護は嫁がするもの」と考えている人もいます。

”Yahoo!知恵袋”で話題になった「妻が両親の介護をしません」

 37歳の夫が「同じ年の妻が親の介護を手伝ってくれない」とネットで嘆き、話題となりました。

 70歳で要介護3の認知症の母の介護を妻主体で行い、夫は妻のサポートに回ろうとしたところ、

「あなたの両親なんだから基本的に介護するのはあなた。私が手伝う方」

 と妻に言われた夫。慣れない家事と介護に苦悩する夫に対して、同情の声が集まるかと思って書き込んだと思うのですが、実際はこの夫に対して冷たい意見が多く、妻の意見に賛同する声が多かったのです。

 介護は誰がメインで担当するのか、介護が始まる前に夫婦で話し合っておいたほうがいいと思います。夫婦の収入に加え、介護される両親の資産状況を把握しておくことも大切です。昔と違って、介護の世界もジェンダーレスになっているのだと思います。

「くどひろさんの遠距離介護も大変だと思いますが、それを許容している奥さんもまたすごいですよね」

 という声を、ブログ読者の方から頂くのですが、全くその通りです。妻は直接的な介護をしなくとも、わたしの精神的な支えになっているのだと思います。

 今日もしれっと、しれっと。

【新刊絶賛発売中】
 工藤広伸さんの新著『がんばりすぎずにしれっと認知症介護』(新日本出版社)、大好評発売中です!

「『認知症介護は過酷なもの』と思っている方は多いと思います。しかし『認知症って、そんなに悪くないよね』と思える瞬間もあります。わたしの介護体験を通じて、今介護している皆さまの気持ちを少しだけ軽くできたら…そんな思いで書いた作品です」(工藤さん)。

 当サイトでも人気の工藤さんの”しれっと介護”の極意がつまった、介護がラクになるヒント満載。エピソードの数々に心が温かくなる一冊です。

 お求めはお近くの書店で。以下リンクからも注文できます。

工藤広伸(くどうひろのぶ)

祖母(認知症+子宮頸がん・要介護3)と母(認知症+CMT病・要介護1)のW遠距離介護。2013年3月に介護退職。同年11月、祖母死去。現在も東京と岩手を年間約20往復、書くことを生業にしれっと介護を続ける介護作家・ブロガー。認知症ライフパートナー2級、認知症介助士、なないろのとびら診療所(岩手県盛岡市)地域医療推進室非常勤。ブログ「40歳からの遠距離介護」運営(http://40kaigo.net/

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コメント

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この記事へのみんなのコメント

  • さゆり

    私の母親は介護付きマンションに入っています。認知症、寝たきりになっても入居でいられるところです。 親の介護はプロに任せるべき。まして姑、舅が嫁に介護を求めるのは今の時代考えられず、まことに図々しいことと思います。

  • ふじもと

     嫁が介護するという考えが、既に時代遅れであることは同感ですが、著者のようにはうまくいかないケースもあると思います。実は、親が独居(遠距離でなくても)で、通い介護が基本の場合は、かなり柔軟な介護体制が取れます。介護保険制度でも、独居の老人がもっとも多くのサービスが受けやすくできています。  介護は、高齢者と1対1では厳しいです。少なくとも介護者は2人以上確保したい(これに公的なヘルパーや看護婦が必要になります)しかし、介護者の片方が同居している場合、その介護者は、気の休まるときがなくなってしまいます。介護を他の人に任せられる時間でも、介護される高齢者が隣の部屋にいる、階下にいると言う状態では、ちょっとした物音でも気になり、手伝ってしまったり、気が休まらなかったりで、睡眠すら十分に取れない事もあります。  介護疲れを解消するには、最低でも頭の切り替えが必要で、そのためには、介護する場所を離れて、環境を変える事がもっとも有効です。  さらに、この複数の介護者の連携が、介護ではもっとも重要な要素になります。連携や意思の疎通がうまくいけば、精神的も支え合っていけますが、往々にして、介護される高齢者に対する考えの違いや、立場の違いから、利害や感情の対立が起こりがちです。これはごく些細なことの積み重ねが多いので、こういうときに、独居の老人の家に互いが通いで介助すると言う方法は解決策になります。つまり介護者同士が顔を合わせる時間を減らせると言う事です。全く顔を合わせないわけにはいかないですが、メールでも電話でも、きちんと申し送りをして、たまには顔を合わせてと言う程度なら、感情的な部分を見せすぎない、良い距離感を保ちやすくなります。この微妙な距離感が、意外と重要です。  著者が妻を介護に参加させなかったというのは、ある意味賢明なのです。妻と介護上の問題で対立し、それを自宅に持ち込んだら精神的につらいでしょう。それに著者の場合、妻も自分の親の介護をするわけですから、介護の上での共感や、辛さを慰め合うことはできます。良い距離感の取り方かもしれません。  嫁が介護をすると言う概念が時代遅れであっても、もし1人の子供が親と同居し、その妻がいた場合は、この問題は現実味を帯びます。ともかく同居している介護者は頭の切り替えが難しいですし、他の兄弟などに助けを求めるにしても、家族以外の人間がしょっちゅう自分の家に出入りすると言う状況になります。赤の他人であるヘルパーが入ってくるよりも、身内に出入りされる方が結構負担になるものです。さらにここに嫁がいたら、出入りする身内に気を遣わざるを得ませんし、この環境で「私は介護に参加しない」というわけにはいかなくなるのが現実でしょう。嫁と、嫁ぎ先家族の微妙な関係がそのまま介護に反映されますので、嫁は大変です。  こういう関係性の時ほど、通い介護はもっともふさわしいと思います。もし介護者同士の関係がぎくしゃくしても、顔を合わせずに淡々と介護を協力し合うと言う事が可能です(皆が大人の関係に徹する)  嫁が介護に参加することの難しさは、他人である義両親の介護をすることが、感情的に難しいと言う事ではないのです。実際には介護に血のつながりは関係なく、実親だろうと、難しい事は難しい。それよりも、介護者同士の連携という点で、親との関係性が違うために生じる齟齬が一番難しいのです。  私も正直、義両親の介護をすることは特に抵抗はないのですが、連携する夫側の家族との関係の方が難しいですね。

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