「親の介護は嫁が」はあり?なし?夫婦の介護分担を考える
認知症の母を、東京ー岩手の遠距離で介護を続けている工藤広伸さんは、ブログや書籍で、その介護経験を発信している。父、祖母の介護経験もあり、リアルな介護話は、多くの共感を呼んでいる。
当サイトで執筆中のシリーズ「息子の遠距離介護サバイバル術」でも、工藤さんならではの視点で、介護をする人たちへのアドバイスが満載。これからの「介護スタイル」の一つとして人気のコンテンツになっている。
今回は、工藤さんが考える「夫婦の介護分担」について。工藤家では、どのように介護を捉えているのか教えてもらった。
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かつては、妻が夫の両親も介護するのが当たり前という時代がありました。しかし今では、「熟年離婚」の原因が義父・義母の介護だったというニュースがあるほど、時代の価値観は大きく変化しています。
わたしの祖母や母、父の介護で、妻はどのような役割を果たしたのかをご紹介したいと思います。
うちは1歳年上の妻とわたしのみの2人家族で、子どもはいません。共働き世帯で、妻は会社員、わたしはフリーランスです。夫婦共に東京都在住ですが、わたしは岩手県出身、妻は北陸地方の出身なので、それぞれ地方に両親がいるという家族構成です。
結論から言うと、わたしの祖母、母、父の介護を、妻がやったことは一度もありませんし、お願いしようとも思いませんでした。なぜ、そう考えたのかをお伝えします。
「介護を嫁に」という発想がなかった3つの理由
まず、距離の問題があります。
夫婦ともに、東京が生活・仕事の拠点となっています。それなのに、妻だけが岩手に帰って介護をするということが、想像できませんでした。
2つ目に、わが家の複雑な環境です。亡くなった父は実家を出て別居中でしたし、祖母は入院、母は在宅で認知症という身内のごたごたを、妻に背負わせたくないと、思ったからです。
3つ目は、妻にも両親が居るということです。わたしと妻、それぞれが自分の実家に帰って介護をしていた時期も、実は数年ありました。
以上3つの理由で、わたしの家族の介護を妻に頼むことはありませんでした。
仮に妻とわたしの両親が近くに住んでいたとしても、妻に介護を依頼することはなかったと思いますし、「妻だから介護をしなければいけない」という発想自体、わたしにはありません。
とにかく面倒なことに妻を巻き込みたくないというのが、わたしの正直な思いです。
夫が会社を辞めることに、妻が反対しなかった理由
わたしが介護離職をして、自分で介護に専念する道を選んだのですが、「夫が会社を辞めることに妻は反対しなかったのか」とか、「夫婦のお金は大丈夫なのか」という質問をよく受けます。
わが家は、夫と妻の年収をお互いが知りません。家賃や公共料金などは、共通の銀行口座にそれぞれが決まった金額を入れ、そこから引き落とすようにしています。それ以外の残ったお金は、それぞれ自由に使うというシステムになっています。
わたしが介護離職した時に妻に言ったのは、
「自分が介護離職したとしても、(妻が)家に入れるお金が増えることはない」
「自分の収入が減ったとしても、貯金があるから数年は何とかなる」
「介護にかかる費用は、両親や祖母のお金を使うようにする」
なので、会社を辞めても妻の生活が貧しくなったり、家賃が払えなくなったりということはないと理解してもらいました。実際、わたしの遠距離介護が始まったあとも、東京の家をしょっちゅう空けるということ以外、妻の生活に変化はありません。
「介護は嫁」という時代は終わりつつある
厚生労働省が発表している「国民生活基礎調査」の中に、「要介護者等との続柄別主な介護者の構成割合」というデータがあります。この調査で分かることは、配偶者、子、子の配偶者、介護施設など、誰がメインで介護を担っているかということです。
この中で明らかに割合が減っているのが、子の配偶者(嫁)です。平成22年、平成25年、平成28年の数値は、15.2%→11.2%→9.7%と激減しています。嫁を頼らない介護が、このデータからも分かります。
この調査には介護者の男女比も示されているのですが、平成22年、平成25年、平成28年の数値30.6%→31.3%→34%と、男性介護者の割合は増え続けていて、そろそろ4割に迫る勢いです。
社会背景として、うちのような「共働き世帯」が急増し、専業主婦のいる世帯は減っていることもあると思います。また、亭主関白だった昔とは違って、今は夫婦共同で家事や育児を行う時代であり、介護に関しても同じことが言えるのだと思います。
世代間で違う「嫁介護」への意識
しかし、70代、80代の中には、「介護は嫁」という意識のままの方も一定数いるようです。
「70代・80代の親世代からのプレッシャーのほうが気になる。奥さんなんだから、夫の介護を手伝うべきと思っている親族はいる」
と妻も言っていました。
夫婦で介護の役割分担がきちんとできていたとしても、親族が古い価値観のままということもあるという一例ですが、若い世代にも「介護は嫁がするもの」と考えている人もいます。
”Yahoo!知恵袋”で話題になった「妻が両親の介護をしません」
37歳の夫が「同じ年の妻が親の介護を手伝ってくれない」とネットで嘆き、話題となりました。
70歳で要介護3の認知症の母の介護を妻主体で行い、夫は妻のサポートに回ろうとしたところ、
「あなたの両親なんだから基本的に介護するのはあなた。私が手伝う方」
と妻に言われた夫。慣れない家事と介護に苦悩する夫に対して、同情の声が集まるかと思って書き込んだと思うのですが、実際はこの夫に対して冷たい意見が多く、妻の意見に賛同する声が多かったのです。
介護は誰がメインで担当するのか、介護が始まる前に夫婦で話し合っておいたほうがいいと思います。夫婦の収入に加え、介護される両親の資産状況を把握しておくことも大切です。昔と違って、介護の世界もジェンダーレスになっているのだと思います。
「くどひろさんの遠距離介護も大変だと思いますが、それを許容している奥さんもまたすごいですよね」
という声を、ブログ読者の方から頂くのですが、全くその通りです。妻は直接的な介護をしなくとも、わたしの精神的な支えになっているのだと思います。
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工藤広伸(くどうひろのぶ)
祖母(認知症+子宮頸がん・要介護3)と母(認知症+CMT病・要介護1)のW遠距離介護。2013年3月に介護退職。同年11月、祖母死去。現在も東京と岩手を年間約20往復、書くことを生業にしれっと介護を続ける介護作家・ブロガー。認知症ライフパートナー2級、認知症介助士、なないろのとびら診療所(岩手県盛岡市)地域医療推進室非常勤。ブログ「40歳からの遠距離介護」運営(http://40kaigo.net/)
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