介護離職して気づいた企業人としての経験を介護に生かすコツ
岩手県盛岡市に住む認知症の母を、東京から遠距離で介護を続けている工藤広伸さん。介護をする中で、感じたこと、得たこと、学んだことを、ブログや本で公開し介護中の人に向けてアドバイスを発信している。
当サイトで執筆中のシリーズ「息子の遠距離介護サバイバル術」でも、リアルタイムで介護続ける工藤さんならではの視点が、すぐ役に立つと話題だ。
介護離職するまでは長く企業に勤務していた工藤さん。会社員としての経験は介護に生かされているという。今後介護に関わることになるかもしれないと思っている人は、今のお仕事経験、「その時」に役立つかもしれない。
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わたしは、40歳まで普通の会社員でした。2度の介護離職を経験し、現在はフリーランスとして文章を書くお仕事で生計を立てながら、遠距離介護生活を続けています。
わたしの介護に対する姿勢や考え方の支えになっているもの、それは会社員時代の経験がほとんどだと思います。
仕事も介護も「ヒト・モノ・カネ・情報」
学校を卒業して社会人経験を重ねると、チームをまとめたり人を育てたりする仕事が増えてきます。自分ひとりで完結する仕事から、次第に他部署や取引先を巻きこんだ大きな仕事を任されるようになります。
その仕事の目標を達成するためには、「ヒト・モノ・カネ・情報」を有効に活用しなくてはいけません。適切な人材を配置し、設備やサービスといったモノを活用しながら、仕事を回していくための資金を確保し、仕事に必要な情報を得る、これらを「4大経営資源」と言うこともあります。
この考え方は、介護にもそのまま活用できると思います。
ヒト : 親族や介護職の力を借りる
モノ :介護保険サービス・介護用品を有効に活用する
カネ : 介護費用がどのくらい必要かをシミュレーションする
情報 : 介護施設探し、在宅で介護するためのノウハウを集める
祖母と母の介護が始まったとき、わたしは人生の一大プロジェクトが始まったように思いましたし、そのプロジェクトマネージャーになったのだと思いました。
これら4つの資源からプロジェクト(介護)を考えてみようと自然と思えたのも、会社員としての経験からだと思っています。
仕事も介護も自分ひとりで抱え過ぎない
同じ職場に、ひとりで仕事を抱えて、誰の手も借りようとしない人はいませんか?
わたしも人に頼るくらいなら、自分で仕事を終わらせたほうが楽だと考えるタイプでした。しかし、昇進して任される仕事の範囲が大きくなるにつれて、ひとりではとても仕事が回らない状態になりました。
人の手を借りて仕事を進めることは、介護にも生かされました。
わたしは主介護者ですが、介護のプロであるケアマネージャーの手を借りて、利用できる介護サービスについて教えてもらいました。
母がひとりではできない買い物やごみ捨ては、ヘルパーにお願いしました。手足の不自由な母のリハビリは、理学療法士にお願いをしました。
特定の仕事を外部に委託することをアウトソーシングと言いますが、介護もまさにアウトソーシングと同じことだと思います。
人の手を借りずに、自分ひとりで介護を抱え、疲弊してしまう介護者も多いです。しかし、わたしは介護のプロの力を素直に借りて、自分が出来ないことはアウトソーシングしました。この発想も、会社員としての経験が生かされているのだと思います。
仕事にも介護にも必要なリーダーシップ
チームで仕事をする場合、必ずまとめ役が必要になります。まとめ役がどのようなリーダーシップを発揮するかで、仕事の成果は大きく変わります。
介護に関しても、介護家族と介護職の皆さんとのチームのようなものだと思います。そのチームのまとめ役は誰かといえば、主介護者である家族です。介護される人の意志をくみながら、家族が介護に関する決断をしなくてはなりません。
中にはケアマネージャーや介護施設に介護を丸投げするご家族もいるようですが、これはリーダー不在の介護であり、チームメンバーである介護職の方々のモチベーションは大きく下がります。
「家族が主体的に介護に取り組むと、介護職であるわたしたちもやる気になる」という話を聞いたことがあります。
認知症の母をわたしが「ほめる」ことで、母の活動量が増え、認知症の症状が落ち着いた話を本に書きました。これも会社員時代、リーダーとしてチームメンバーの士気を高めるために「ほめる」ということをよくやっていたので、自然とできました。
仕事上のリーダーシップが、介護にもしっかり生かされているのだと思います。
介護と仕事の大きな違い
会社員としてのお仕事すべてが介護に直結するのですが、仕事と介護に大きな違いがひとつだけあります。それは仕事には納期がありますが、介護にはないことです。
仕事には、上期・下期・四半期といった区切りがあり、その時間内で成果を出すことを求められます。
しかし介護に関しては、ゴールが分かりません。認知症の母の介護をして6年になりますが、あと何年続くのかわたしにも分かりません。だから、仕事のような気持ちで頑張りすぎずに、ペース配分を間違えてはいけないのだと思います。
会社員の多くは、たくさんの仕事を同時に抱え、複雑な人間関係に折り合いをつけ、仕事のプレッシャーと向き合いながら、日々頑張っています。仕事で鍛えられたストレスへの耐性は、介護にも生かされると思います。仕事のストレスに打ち勝つ力は、介護のストレスに打ち勝つ力の源にもなると思います。
会社員としての仕事や経験すべてが、ご自身の介護に直結しています。
今日もしれっと、しれっと。
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「『認知症介護は過酷なもの』と思っている方は多いと思います。しかし『認知症って、そんなに悪くないよね』と思える瞬間もあります。わたしの介護体験を通じて、今介護している皆さまの気持ちを少しだけ軽くできたら…そんな思いで書いた作品です」(工藤さん)。
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工藤広伸(くどうひろのぶ)
祖母(認知症+子宮頸がん・要介護3)と母(認知症+CMT病・要介護1)のW遠距離介護。2013年3月に介護退職。同年11月、祖母死去。現在も東京と岩手を年間約20往復、書くことを生業にしれっと介護を続ける介護作家・ブロガー。認知症ライフパートナー2級、認知症介助士、なないろのとびら診療所(岩手県盛岡市)地域医療推進室非常勤。ブログ「40歳からの遠距離介護」運営(http://40kaigo.net/)
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