小室哲哉も悩む「介護疲れ」気持ちを明るく切り替える4つのコツ
くも膜下出血を発症した妻KEIKOを介護する小室哲哉の「介護疲れ」が近ごろ話題になったが、介護というと「介護疲れ」や「介護うつ」などネガティブなイメージがつきもの。
そんな介護のイメージを一新する、新しいとらえ方で介護を発信しているのが介護作家・ブロガーの工藤広伸さん。自身のリアルな遠距離介護を、穏やかに、ときには楽しく面白がりながら、明るく発信して反響を呼んでいる。
当サイトで執筆していただいている、連載「息子の遠距離介護サバイバル術」(隔週金曜日掲載)でも、認知症の母を遠距離で介護を続ける日々のエピソードや経験談が、介護の専門家からとは違った、リアルなアドバイスだと人気だ。
どうしたら、つらく気持ちが暗くなりがちな介護を明るく穏やかにすることができるのか。新刊『がんばりすぎずにしれっと認知症介護』(新日本出版社)を上梓した工藤さんに、気持ちを明るく介護するコツや工夫について聞いた。
1:悩みとストレスを減らす
まず、ひとつは、介護以外の大きな悩みやストレスを減らすことだという。
「みなさん、心の中のポケットに、たくさんの“悩みのビスケット”を入れていると思うんです。悩みって介護だけではなく、健康や経済的な問題、人間関係だったり、30~40代の方は、仕事の大きな悩みを解決しないまま介護に突入してしまうケースは多いと思います。もちろん介護の悩みが一番でしょうけれど、介護以外の悩みを減らす努力も大切ではないでしょうか。私の場合、介護離職したことで、それまで抱えていた仕事のストレスという大きなビスケットを割ることができました。今はフリーランスでしている文章を書く仕事がとても楽しいので、マイナスが帳消しになっています。まずマイナス(今抱えているストレス)を小さくしていくことをオススメします」(工藤さん、以下「」同)
2:人・モノに頼る
看護師、ケアマネジャー、ヘルパー、理学療法士、医師、民生委員…頼れる人には全て頼ることも大事だと、工藤さんは語る。
「ぼくの場合は、人に頼るという方法をとったのでよかったと思っています。たとえば、認知症の母は自分で薬をきちんと飲めないので、薬をもってきて『お薬カレンダー』にセットしてもらうのは看護師さんに、手足が不自由で買い物に行けないので、買い物やゴミ捨てをヘルパーさんにお願いしています。理学療法士さんが筋力アップのリハビリを週1回してくださることによってかろうじて筋力を保てていますし、訪問診療をしてくださるお医者さんとは、何かあったときには24時間駆けつけてくれるという契約をしています。とにかく人に頼りまくっています。
デジタルにも頼りました。『スマカメ』という見守りカメラは、スマートフォンで、東京にいながら盛岡の母を動画で見ることができるんです。それを見ると、起きてるな、ご飯を食べているな、デイサービスに行ったな、と状況がわかるのでオススメです」
3:介護経験を伝えていく社会貢献が張り合いに
介護でネガティブになりがちな気持ちは、どう転換したら楽しくなるのか。工藤さんは、全てを“ネタ”として発信することを心がけたという。
「介護を始めたばかりのときは、自分のことで目一杯ですが、1~2年経つと、その経験を誰かに話して困っている人を助けてあげたい気持ちになってくるんですね。ぼくは介護を始めて半年とかなり早い段階でブログを始めたので、今思えばそれはかなりモチベーションになっていました。社会貢献になれば…と発信したことに、日本中の方が“それ、いいね”と反応してくださることが、やりがいにつながっています。
それに、ブログや本に書くぞと思って聞くと、全てが面白く聞こえるんです。そうは言っても10回に1回は“また同じ事言ってる”とイラッとしますけど、その全ての体験がネタになると思っているので、普通よりは我慢して聞いていられるのだと思います。ブログという手段をとらなくても、たとえば認知症カフェなど介護の集いに行って、自分の経験をなんでも吐き出してみると、意外と自分のやっていることが他の人にとって“それ、いいね”と宝になることがあって、そういう体験が重なると介護に張り合いが出てくるので、それもひとつの手かなと思います」
4:視点を変える、気持ちを変える
「介護者が認知症に対して悲観し、過剰に落ち込んでしまうのは、必要以上にハードルを高くしているからだと思うんです。それこそテレビや週刊誌では介護殺人や無理心中といった介護問題をドロドロしたトーンで伝えていてネガティブなイメージが強いから、いざ自分が介護者になると絶望してしまうのです。もちろんそういう介護は実在しますが、ぼくはそういうニュースを見ることにメリットを感じず、もうそっちはいいや、と思うので一切見ていません。認知症はそこまで悪い病気ではなく、要は“気持ちの持ちよう”なんです。ごく少ないですが、楽しく介護をやって発信している人もいるので、そちらに注目しています。
たとえば、介護している40代の女性の話ですが、お母さんにおしっこをかけられたときに、普通なら引くんだけど、そんなときも“うわ、これは雨みたいだね、わははは”って笑ったら、申し訳ない感じだったお母さんも笑って、ふたりで笑った、というエピソードを聞いて“なるほど”と。そんな切り返し方があることの方が気づきですよね。“物が飛んできた、殴られた、もう人生終わった…”という話より、前向きな話や解決策をもっと知りたいですよね。
介護する人自身が笑顔でいることもオススメします。認知症が進行すると、表情を読み取る力が低下していくと言われていて、驚いた顔や泣き顔、怒った顔は認識されなくなりますが、『笑顔』だけは大部分の人が認識できたという研究結果があります。ついイライラして怒鳴ったり泣きわめいてしまっても、その時間は“認知症の人が読み取れない時間”になってしまいます。ならば、最後まで自分の笑顔を覚えていてもらいたいものですよね」
共感疲労に注意
「東日本大震災の時に、日本中の方が、津波の映像を見ただけで自分が震災に遭ったかのようになって疲れてしまったという『共感疲労』の話を聞いたときに、よく行く介護の集いでも、いつもみんなが“私もつらさがわかるわ”と共感して泣いている光景が同じに見えたんです。共感もいいですが、自分にも介護をしている人はいて、共感して疲れている場合ではないと思うんです。特に介護を始めて1年ほどの方は、慣れていないし情報も無い、不安だし混乱してしまいがちなので注意が必要です。介護歴5年以上の方ばかりの集まりに行くと、もう“あるよね、わかるわかる”と悟りの境地というか。ぼくのモットーの“しれっと”にも繋がりますが、共感したいかもしれないけれど、自分も介護中であると意識して客観視することは大切だと思います。
うちでは20年ほど母のことを名前で呼んでいるんですが、これも客観視するひとつの例としてオススメです。最近、東京新聞の記事でも、自分の親を『お父さん、お母さん』と呼ばないで、『○○さん』と名前で呼ぶと距離が離れるので、客観視できるという記事が話題になっていました」
介護離職が増える中、工藤さんが考える新しい働き方
「今、フリーランスで介護している人も増えつつあります。厚生労働省が発表した『働き方の未来2035』によると、2035年には会社が正社員を囲い込む働き方は終わっていて、ひとりの人間があらゆる企業とプロジェクトごとに仕事をするようになるそうです。
9時~17時の時間の拘束もなく、時間による報酬ではなく成果への報酬になるといいますが、それは今まさにわたしがしていること。毎年仕事相手が違いますし、文章はどこにいても書けます。物書きじゃなくても、こういう働き方は普通になってくるんじゃないかと思います。すぐに会社を辞められる人はいないと思いますが、わたしのこの働き方は、全て自分でスケジューリングできるので、介護がしやすくなりました」
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「しんぶん赤旗」日曜版での連載をしていた工藤さん。読者からの「新聞を切り抜いて友人に贈ったら、友人の心が和らいで喜ばれました」(60代女性)、「認知症介護の家族の苦労話はよく聞いていたけれど、楽にする方法は聞いたことなかった」(80代男性)など、ハガキ300通の反響を受けて『がんばりすぎずにしれっと認知症介護』(新日本出版社)が発刊された。
同書には、エンディングノートを作って親の資産を知る大切さ、ストレスから救ってくれるグッズ、認知症への理解、気持ちの切り替え方、「認知症の人と家族の会」など、医師や介護のプロではなく“家族目線”の役立つ情報が満載。
今介護に悩む人も、これから迎えるであろう介護の準備をしたい人にもオススメの一冊。ぜひ一読を。
◆工藤広伸(くどう・ひろのぶ)
1972年生まれ。介護作家・ブロガー。ブログ『40歳からの遠距離介護』で自身のリアルな介護を発信。認知症ライフパートナー2級、認知症介助士。35才のとき、父の脳梗塞を機に介護離職を経験、40才のときに認知症の祖母と母のダブル遠距離介護を機に2度目の介護離職。現在も東京と母の住む岩手を月2回往復し、遠距離介護を続けている。
撮影/疋田千里
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