「化粧のもつ力で高齢化・介護予防という社会課題と向き合う」長年の研究によるエビデンスにもとづく資生堂の取り組み【想いよ届け!~挑戦者たちの声~Vol.4前編】
「スキンケアやメイクで高齢者を元気にしたい」。資生堂は長年の研究で証明されたエビデンスにより、化粧という行為を通じて心身機能やQOLの維持向上を目指すことを「化粧療法」と名付けた。そんな化粧療法にもとづいて企画・開発された美容教室が、今シニア世代に盛況だという。同社が力を注ぐ社会活動の背景に迫る。
「化粧の力を信じて」歩んだ資生堂の取り組み
「少子高齢化が進む社会の中で、高齢者の自立支援の必要性、地域社会との繋がりを増やしていくこと、フレイルや介護予防などさまざまな社会課題があります。
こうした課題に対し、化粧のもつ力で何ができるのか。資生堂が長年培ってきた『化粧療法』のメソッドをもとに、2013年から『資生堂ライフクオリティー ビューティーセミナー』として本格的な活動を開始しました。
さまざまなセミナーを行っていますが、中でも今、力を入れているのが高齢者を対象にした『いきいき美容教室』です」と、資生堂ジャパン美容戦略部 社会活動推進企画グループ・グループマネージャーの深沢久美子さん。
この美容教室を支えるメソッドとなっているのが「化粧療法」だ。人気の美容教室には、同社が長年研究を重ねてきた「化粧療法」がもつ4つのエビデンスが活かされている。
「スキンケアやメイクを続けることで高齢のかたたちは驚くほど元気になられる。表情がいきいきと輝く姿をたくさん目にしてきました」
こう語るのは、資生堂ジャパンの社会活動企画推進グループに所属し、高齢者向けの美容講座の講師も務める成田美由紀さんだ。
「化粧療法」の歴史を振り返る
1872年に東京・銀座で日本初の民間調剤薬局として誕生した資生堂。創業150年の歴史の中で、化粧の力で社会に貢献する取り組みを進め、時代に応じて発展させてきた。
「1949年から新社会人に向けて、身だしなみとしての化粧を知っていただくための教室『整容講座』を開始しました。やがて高齢者や障害をもつかたも対象となり、多くの人たちに体験いただくようになりました」(成田さん)
「1975年には『化粧の力で高齢者を笑顔にしたい』という想いから、特別養護老人ホームで高齢者に化粧をするボランティア活動を行っています。
その後、1993年に徳島県にある療養型の介護施設から、入院患者さんに化粧をしてもらえないか」とご依頼がありました。医師や看護師のかたたちから『化粧が高齢者の心や体に及ぼすプラスの影響を実際に調査して数値化したい』とのことで、その後データを共有いただきました」(成田さん)
こうした積み重ねによって化粧療法の本格的な研究が続いていくことになる。
実際に介護施設などの現場に出向き、高齢者に化粧療法を実践・伝授してきた成田さんは、身をもって化粧の力を体感している。
「介護施設に通って、定期的にスキンケアやメイクをお伝えしてきましたが、お会いするたびに表情が明るくなって元気になられるんですよ。こうした化粧のもつ力をデータとして蓄積し、研究を積み重ねていきました。その結果、化粧がもつ力を4つのエビデンスが得られました」
化粧療法が示す4つのエビデンスとは
「化粧療法がもたらす効果は、心・脳・身体・口腔の4つの要素にポジティブな影響を与え、機能向上をもたらすという結果が出ています」と深沢さん。
【1】心/化粧をすると気持ちが前向きになる
【2】脳/化粧をすると脳が活性化する
【3】身体/化粧をすると身体能力がアップする
【4】口腔/化粧をすると唾液の分泌がアップする
加えて、化粧行為と社会とのつながりの関係についても調査、評価を行い数値化している。化粧がもたらすポジティブな要因を実感ではなく、数値として評価されている「化粧療法」。
化粧がもたらす驚くべき変化や具体的なデータについては次回レポートする。
撮影/柴田和衣子、取材・文/斉藤俊明