86才&75才金沢発ご当地アイドルおばあちゃん元気の秘訣
公演回数はこれまでに約4500回。年間に約200回ものステージをこなす幸子さんのエネルギッシュな姿には驚かされる。しかし…。
「今は元気になりましたが、実は一昨年、心筋梗塞の一歩手前で、危うくあの世行きでした(笑い)」(幸子さん)
体に異変が起きたのは2018年2月頃から。舞台で踊り終わった後、息が上がった状態が続き、階段の上り下りもしんどくなった。
「病院での診断結果は狭心症。心臓の血管が狭くなって血管が詰まる寸前でした」
幸い、発見が早かったこともあり、カテーテル手術を受けることで大事には至らなかったが、その年の12月に4回目の手術を行った。
「手術をした直後は埋まっている公演のことで頭がいっぱい。“なんで私が”と思ったこともありました。けれど、これが劇団員でなくてよかったと思えばいいじゃないかと考えを切り替えてみたんです。私が休んでいる間、みんなが力を合わせて公演を乗り切ってくれましたからね」(幸子さん)
自らの手術さえ、劇団員らが育つ貴重な時間になったと語る。もちろん、この心臓手術も、その後のコントネタとして生かされている。
健康麻雀&健康体操で友達をつくる
幸子さんと千秋さんの出会いは34年前。41才と51才の時だ。2人が足繁く通っていたカラオケ喫茶で知り合った。
「お店で幸子さんの姿を見つけると、『あ~、またあの人、(賞を)戴(いただ)きやろ』って思ってね(笑い)。とにかく歌がうまいんです」と千秋さん。
常連同士、次第に仲がよくなり、こまどり姉妹の歌を2人でよく歌った。そのうち、「私も舞台で踊ってみたい」と千秋さんが乗り気になった。
「千秋さんは民謡をやっていたし、踊りも艶(つや)やか。私とは全く逆のタイプだから、自分が男役、彼女に女形をやらせれば、きっと劇団の目玉になると思って誘ったんです」(幸子さん)
こうして劇団のメンバー入りを果たした千秋さんとは、年間のうち約300日を共に過ごしている。ところが…。
「私が昨年5月に脳梗塞で倒れてしまって。今はまだリハビリ中なんですが、衣装を直したり舞台の裏方としてお手伝いをさせてもらっています」(千秋さん)
倒れた当初は、医師から言語の回復は難しいと言われ、絶望的な気持ちを抱いていた、と千秋さんは言う。
「1か月近く、言葉がしゃべれませんでした。座長をはじめ、お見舞いに来てくれた人の名前も、頭ではわかっているのに、『さ、さ…』という感じで言葉に出てこない。毎日ノートにあ・い・う・え・おと書きながら言葉を思い出す練習を続けました」(千秋さん)
一時は劇団脱退も考えた。幸子さんが振り返る。
「『座長、これを機に退こうと思うんです』と言ってきました。でもそれは本心じゃないことは顔を見れば明らかにわかる。だから私、こう言ったんです。『人間、頭で考えることと心で思うこと、そして口に出す言葉が1つでないと、誠の自分自身の人生を謳歌できないと思わないか?』と」(幸子さん)
実は幸子さん、千秋さんの担当医から「劇団との繋がりは保ったままにしておいてほしい」と頼まれていた。それが千秋さんにとって何よりの処方箋になると医師もわかっていたのだ。
「今でも帯を結ぶ時や針を持つ指先の感覚に違和感があります。これまでできたことができなくなってもどかしい気持ちもありますけど、劇団に携わらせてもらっていることで本当に救われました」
と笑みを見せる千秋さん。最近では公演のない日にこんな活動にも勤(いそ)しんでいる。
「最近の趣味は、近所の人たちと集う『健康麻雀』と『健康体操』。週に2回、参加しています。若い頃と違って年をとるとお友達をつくるのに時間がかかりますが、また新たなコミュニティーの場が広がって楽しいものですよ」(千秋さん)
相棒の回復ぶりを横でうれしそうに聞いていた幸子さんがすかさず突っ込む。
「ほいでまた老いらくの恋に走ったりする!?」
すると千秋さん、とぼけた口調でこう返した。
「いやいやぁ、それは私、気をつけてるんです(笑い)。86才になっても女は女ですから!」
現在、千秋婆ちゃんは舞台はお休み中。でも、千秋節は相変わらず健在。絶好調だ。