高木ブーのアロハな日々「僕と家族とウクレレと」【第1回 ウクレレ】
人はいくつになっても生き生きとした毎日を送れる――。ザ・ドリフターズのメンバーとして、私たちを大笑いさせてくれた高木ブーさん。ここ数十年は、ウクレレ奏者として全国のステージを飛び回り、円熟の演奏と歌声で聴衆を魅了している。86歳の今を謳歌しているブーさんの生き方から、上手に年齢を重ねる秘訣を学ぼう。(聞き手・石原壮一郎)
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ウクレレがあるからこの歳でも楽しい毎日が送れている
いっしょに住んでる中学生の孫に、このあいだ言われちゃった。「ジイジはウクレレやっててよかったね」って。ほんとそうだよ。ウクレレがあるから、この歳になってもあちこちから声をかけてもらえる。必要としてもらえるっているのは、ありがたいよね。
今年の夏も、いろんなところに行ったなあ。9月に群馬県の前橋であった『山人音楽祭』は、フィナーレでは参加していたアーティストたちが雷様のコスプレをしてくれてさ。鬼もいたかな。みんなで「いい湯だな」を歌って、すごい盛り上がりだった。
ある年代から上の人は、僕が出てた「8時だョ!全員集合」や「ドリフ大爆笑」を覚えていてくれて、今でもそうやって僕をネタにして楽しんでくれる。雷様の格好で登場すると、お客さんも喜んでくれる。長いあいだコメディアンをやってきた自分としては、こんな光栄なことはないよ。天国にいるいかりや長さんに感謝しなきゃね。あの人が僕をドリフに誘ってくれたんだから。
今年の2月には、ハワイのワイキキにある名門ライブハウスの「Blue Note Hawaii」に出られた。感動したなあ。日本人アーティストとして最高齢の出演だったらしいけど、若い頃からハワイアンをやってきて、まさかそんな日が来るなんて思わなかった。何が起きるかわからないから、人生は楽しいよね。
ウクレレに出合ったのは、中学校3年生の15歳の誕生日。新しいもの好きだった3番目の兄貴がプレゼントしてくれた。ちなみに僕は兄3人、姉2人の6人兄弟の末っ子。本名は友之助って言うんだけど、考えてみたらこの名前よりも、ハナ肇さんが思い付きでつけた「高木ブー」のほうが何倍も長く使ってるなあ。
それまで僕は、ウクレレを欲しいと思ったこともなかったし、もちろん兄貴にねだったわけでもない。どうしてウクレレを買ってくれたのか本人に聞いても、「オレにもよくわからない」って笑ってたな。ともかく、生涯の相棒と引き合わせてくれた兄貴には感謝してる。
最初の頃は弾き方もよくわからないからしばらくほっぽらかしてあったんだけど、成り行きで地元の夏祭りで演奏することになって、面白さに目覚めたんだよね。高校時代も大学時代もウクレレ三昧で、そのままハワイアンバンドを結成してプロのミュージシャンになっちゃった。就職先を決めてくれてた親父には、悪いことしちゃったけどね。
ウクレレの魅力は、やっぱり音色かな。ポロロンって音を聞くだけで癒されるし、なんか気持ちのいい風が吹いてくるような気がするじゃない。もともとはポルトガルで生まれた楽器がハワイで発展して、ウクレレっていう言葉もハワイ語で「飛び跳ねるノミ」っていう意味らしいよ。弾いてるときの指の動きが、そんなふうに見えるからかな。
家には全部で50本ぐらいのウクレレがあって、ひと部屋がウクレレ部屋になってる。実際に仕事で使うのは、そのうちの5、6本かな。こんなこと自分で言うと笑われるかもしれないけど、演奏者としては86歳の今がいちばん脂がのっていると思ってる。昔はできなかった表現ができるようになったりとか、弾いてても歌っててもすごく楽しいんだよね。
そりゃ、こんなおじいさんが若い人の恋の歌とか歌ってるのはヘンかもしれないけど、歌謡曲だって男が女心を歌ったりするじゃない。ライブなんかでは「目をつぶって聞いてください」なんて言ったりしてる。これからもこんな調子で、指と体が動く限りやっていきますよ。「高木ブーって、ちゃんとウクレレ弾けるの?」って興味本位や冷やかしでいいから、よかったらライブに来てみてください。
「ウクレレの音色って、気持ちのいい風が吹いてるみたい」
高木ブー(たかぎ・ぶー)
1933年東京生まれ。中央大学経済学部卒。いくつかのバンドを経て、1963年にザ・ドリフターズに加入。超人気テレビ番組『8時だョ!全員集合』などで、国民的な人気者となる。1990年代後半以降はウクレレ奏者として活躍し、日本にウクレレブーム、ハワイアンブームをもたらした。CD『美女とYABOO!~ハワイアンサウンドによる昭和歌謡名曲集~』など多数。著書に『第5の男 どこにでもいる僕』(朝日新聞社)など。公開中の映画『任侠学園』では「高木のオジキ」を演じている。
取材・文/石原壮一郎(いしはら・そういちろう)
1963年三重県生まれ。コラムニスト。「大人養成講座」「大人力検定」など著書多数。この連載ではブーさんの言葉を通じて、高齢者が幸せに暮らすためのヒントを探求している。
撮影/菅井淳子