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高木ブー悲嘆「志村へ。そしてドリフターズ時代のこと」

 ザ・ドリフターズでともに戦ったメンバーは、特別な絆で結ばれている。3月29日に新型コロナウイルスによる肺炎で死亡した志村けんさんの訃報には、日本中がショックを受けた。高木ブーさんも、知らせを聞いたときは言葉を失ったという。メンバーみんながギリギリの状態で戦っていた『8時だョ!全員集合』。当時の思い出を聞いた。(聞き手・石原壮一郎)

ザ・ドリフターズはバランスが取れたいいグループだった

 あんまりだよね。早すぎるよ。コロナのバカヤローだよ。志村(けん)が、長さん(いかりや長介)や荒井注さんのところに行っちゃった。ドリフの中でいちばん若くて、俺とは17歳も違うんだよね。まだまだ日本中を笑わせてくれたはずなのに、本人も悔しかったと思う。ご冥福を心からお祈りします。

 今でも思い出すのは、メンバーみんなでギリギリの状態で戦ってた『8時だョ!全員集合』の頃のことだね。毎週木曜日は憂鬱だったなあ。翌週の土曜日に何をやるかの会議があって、それが毎回ピリピリした雰囲気でさあ。そういうの苦手なんだよね。

 集合するのはだいたい午後3時頃かな。その時にはタイトルはもう決まってる。学校コントなら学校コント、母ちゃんなら母ちゃん、探検隊なら探検隊で、作家さんがホン(台本)を作ってくれてるんですよ。それを元に、ギャグをどこにどう当てはめるかを考える。結局、あれこれ言っているうちにホンの内容をほとんど考え直すことも多かったな。

 そういう会議を3時頃から夜の12時までずっとやる。いちおう12時がタイムリミットなんですよ。大道具さんや小道具さんや設計する人たちが、集まって内容が決まるのを待ち構えてる。すぐに始めないと間に合わないから。

 1時間弱の番組で、最初の20分ぐらいがコント、真ん中に聖歌隊やゲストの歌があって、後半はゲストと組んだコントが4本ある。一週間に一回それを考えてたんだから、よくやれたなと思うよ。

 最終的には長さんが「それで行こう」と決めるんだけど、12時に会議が終わることなんてめったになかった。タイムリミットを超えるまで悩んで、最後のほうでバタバタって決まるんだよね。

 最初から最後までみんな緊張した顔してて、長さんが「ダメだな」なんて言うと、そこから2時間も3時間も沈黙が続く。沈黙の口火を切るのは長さんなんだけど、いくら考えてもアイディアが浮かばないときなんか、会議室の窓際の平らなところでいつも寝ていました。

 僕も長さんのことは言えない。沈黙が続いているあいだは、よく寝てた。そうすると加藤(茶)が突っ込むんだよね。「ブーさん、また寝てるよ」って。このあいだの志村の追悼番組のときも、本番中に加藤にそう突っ込まれたけど、あれはドリフのお約束なんだよね。僕もだけど、加藤もきっとあの頃のことを思い出してたんじゃないかな。

 木曜日が会議で、金曜日は翌日分のリハーサル。土曜日が本番、日曜日は営業で地方に行ったりする。月曜日や火曜日に営業が入ることもあったし、ほかの番組の収録があったり映画の撮影があったりで、休みはまったくなかったね。

いつか向こうでまた全員集合したら…

 かろうじて時間があるのは、土曜日に「8時だョ!」の本番が終わったあと。みんなあっという間に、それぞれ遊びに行っちゃう。僕は長さんに「おい、飲みに行こう」って、よく誘われた。年齢が近かったから、長さんも話しやすかったんだと思う。行くのは普通の居酒屋ばっかりだった。ふたりで飲んでいるときは、長さんは意外と無口なんだよね。でも唯一、僕には愚痴を話してくれたのかな。

 ドリフターズは年齢の構成もキャラクターの違いも、バランスが取れたいいグループだったと思う。たいへんだったけど、みんな仲が良かったし、みんな仕事を楽しんでた。あんなに手ごたえがあってやりがいがある仕事は、なかなかやらせてもらえないもんね。

 テレビでも話したけど、志村は死なない。ずっと僕らと、日本中のファンのみなさんと一緒に生きてる。加藤が言ってたみたいに、いつか向こうでみんなが全員集合したら、またたくさんコントをやりたいね。

「ドリフターズはみんな仲が良かった。志村はずっと僕らと一緒に生きてる」

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高木ブー(たかぎ・ぶー)

1933年東京生まれ。中央大学経済学部卒。いくつかのバンドを経て、1964年にザ・ドリフターズに加入。超人気テレビ番組『8時だョ!全員集合』などで、国民的な人気者となる。1990年代後半以降はウクレレ奏者として活躍し、日本にウクレレブーム、ハワイアンブームをもたらした。CD『美女とYABOO!~ハワイアンサウンドによる昭和歌謡名曲集~』など多数。著書に『第5の男 どこにでもいる僕』(朝日新聞社)など。2月末に発売された野村義男さんのソロアルバム「440Hz with〈LIFE OF JOY〉」(エムアイティギャザリング)では、沖縄風のハワイアン「ヤシの木の下で」で伸びやかな歌声を披露している。

石原壮一郎(いしはら・そういちろう)

1963年三重県生まれ。コラムニスト。「大人養成講座」「大人力検定」など著書多数。この連載ではブーさんの言葉を通じて、高齢者が幸せに暮らすためのヒントを探求している。

撮影/菅井淳子

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この記事へのみんなのコメント

  • 里ちゃん

    志村けんさんや長さんまであの世にいるなんて早すぎますまだまだコント志村けんさんの見てみたかったです。

  • りさ

    追悼番組を見て、笑いながらも 本当にけんさんもういないの…?という喪失感で感情がぐちゃぐちゃになりながら 大泣きしてしまいました。今でもまだ信じたくなくて心にポッカリ穴が空いたようです。でも、私たち以上に志村けんさんと関わってきた方々のほうが何十倍も何百倍も辛かったと思います。…だけど、高木ブーさんが最後に「志村は死なないの。」って言った時、なんだかものすごく救われた気持ちになりました。確かにそうだ…肉体的が見えなくなっただけで魂はずっと 私達が忘れないかぎり生き続けるんだ…って思うと前を向いていける気がしました。 コロナが憎くて、早く普通の生活に戻りたいですね。高木さんもお身体には気をつけてくださいね!

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