毒蝮三太夫、ラジオの中継を自粛中「新型コロナウイルスは戦争より怖い?」【連載 第16回】
「ある意味、新型コロナウイルスは戦争より怖い」と毒蝮さんは言う。数か月前には、誰も現在の状況を予想していなかった。自粛生活が長く続く中で、蝮さんはどう楽しみを見つけ、どう健康を保っているのか。そして、ゴールデンウィークの帰省もできない中で、離れて暮らす親にできることは何か。自宅にこもっている蝮さんに聞いてみた。(聞き手・石原壮一郎)
見えない敵、ウイルスとの戦いはいつ終わるかわからない
コロナの野郎、いい加減にしやがれ!
全国に「緊急事態宣言」が出て、日本中で自粛生活が続いている。俺も4月に入ってからは、ほとんど家を出ていない。ほら、俺の中継の仕事は、人が集まって大声で笑い合うっていう「三密」の最たるもんだから、今はとてもじゃないけどできないよ。電話でラジオに出たり取材を受けたりしてるぐらいだ。
俺たちの世代は戦争を体験しているわけだけど、この新型コロナウイルスってヤツは、戦争以上にタチが悪いね。そりゃあ、戦争もひどいもんだった。空から爆弾が降ってくる中を逃げ回ったし、亡くなった人の上をまたいで歩いたこともある。ただ、戦争っていうのは人間が始めるものだから、人間が終わらせることができる。
ところが、ウイルスっていう敵は目に見えない。戦いがいつ終わるか、どうすればやっつけたことになるのか、まったくわからない。ある意味、恐怖は戦争以上って言えるんじゃないかな。とにかく、今はお互いに人との接触を避けて、ウイルスの感染をできるだけ防ぐしかない。とくに年寄りはリスクが高いんだから、家でじっとしてようじゃないか。
そうは言っても、家でじっとしてるのも楽じゃないよな。いちばん気をつけなきゃいけないのは、運動不足だ。俺にとってけっこうつらいのが、1日おきぐらいに行ってたスポーツジムに行けないことだね。
身体を動かせないこともだけど、そこで顔なじみとバカなことを言い合うのが、何よりのストレス解消だった。しばらくは辛抱だけど、また久しぶりに会ったときには、「よう、生きてたか!」なんて言い合って、さぞかし盛り上がるだろうね。
スポーツジムに行く代わりに、今は家で決まった運動を毎日やるようにしている。俺は夜遅くまで古い映画のDVDを観たりしてるから昼前まで寝てるんだけど、起きたらまずはストレッチ。そのあとスクワットを60回やって、斜め腕立て100回。30分か40分かけてやってるから、けっこうな運動になるよ。
年寄は家で楽しめることを見つけるのが、今の仕事
こんなときでも外に出て働いてくれている人がいる。スーパーに行けば何でも売ってて宅配便も届いて、社会はちゃんと動いている。だから、外に出られなくてつまんないなんて文句言ってても仕方ない。
年寄りは家で楽しめることを見つけるのが、今は仕事みたいなもんだ。離れて住んでる親が「毎日退屈だ」って文句言ってたら、古い映画を観るなり部屋の片づけやアルバムの整理をするなり、「今しかできないから、やってみたら」って好みに合いそうな楽しみを提案してあげるのもいいんじゃないかな。
俺は最近、般若心教の写経なんてのも始めた。なかなか奥が深くて面白いんだけど、「般若波羅蜜」って言葉が何度も出てくる。「おいおい、ミツだらけで大丈夫かよ」と思ったんだけど、よく見たら「三密」の「密」じゃなくて、もうちょっと画数の多い「蜜」だった。それに左から書き始めたりして、失敗したよ。
なかなか会えない親にかける言葉
ゴールデンウィークが始まるわけだけど、実家に帰ろうと思っていた人も、今年はなかなかそうはいかない。安倍首相が「ビデオ通話を使ったオンライン帰省を」なんて提案してたけど、そんな気の利いたことができる親は少ないよな。まずは電話だよ。お互いの声を聞いてやさしい言葉をかけ合えば、親も自分も力が湧いてくる。
電話したときは「ちゃんと自粛できてるなんて、さすが父さんと母さんだよ」「ふたりで楽しみを見つけて過ごしてくれているから、こっちも安心だよ」なんて、親を持ち上げてやってほしい。
「家から出るんじゃないよ」「ケンカするんじゃないよ」なんて頭ごなしに言っても、向こうは聞き流すだけだから。まず持ち上げることで「じゃあ、ちゃんとするか」と思わせるわけだ。ほら、男子トイレの小便器の前に「いつもきれいに使っていただいてありがとうございます」って札が貼ってあるだろ。あれと同じだな。
連休で時間があるんだったら、久しぶりに親に手紙を書くのもいいんじゃないか。小さい子どもがいるなら、最近の写真を入れてやったり子どもにもカードを書かせたりしてさ。いつもと違うゴールデンウィークになるんだから、そんな“チャンス”を生かして、いつもと違うやり方で親子の絆を深めようじゃないか。それもまた「コロナに負けない」ってことだ。
■今回の極意
毒蝮三太夫(どくまむし・さんだゆう)
1936年東京生まれ(品川生まれ浅草育ち)。俳優・タレント。聖徳大学客員教授。日大芸術学部映画学科卒。「ウルトラマン」「ウルトラセブン」の隊員役など、本名の「石井伊吉」で俳優としてテレビや映画で活躍。「笑点」で座布団運びをしていた1968年に、司会の立川談志の助言で現在の芸名に改名した。1969年10月からパーソナリティを務めているTBSラジオの「ミュージックプレゼント」は、4月から『土曜ワイドラジオTOKYO ナイツのちゃきちゃき大放送』にお引越し(毎月最終土曜日に出演)。84歳の現在も、ラジオ、テレビ、講演、大学での講義など幅広く活躍中。
取材・文/石原壮一郎(いしはら・そういちろう)
1963年三重県生まれ。コラムニスト。「大人養成講座」「大人力検定」など著書多数。この連載では蝮さんの言葉を通じて、高齢者に対する大人力とは何かを探求している。
撮影/政川慎治