健康

本当は怖い低栄養<1>なぜ元気な高齢者にも起こるのか?~プロが教える在宅介護のヒント

低栄養はなぜ、どんなタイミングで起こるのか

 一見、元気そうに見える高齢者も「若い頃のように活動しないから食事は少なくていい」「太るのは病気の原因になるから肉類や油物は控え、粗食にする」など、誤った考えから徐々に栄養不足になることが少なくありません。食事を1日3回とっていて、お腹がふくれていても、栄養は足りていない場合があるのです。

 多くの栄養素で、望ましい摂取量を示した「栄養摂取基準」の必要量や推奨量は、高齢者も若者も差はありません。

 例えば、18歳以上のすべての人の「たんぱく質」の推奨量は1日男性60g、女性50g。総エネルギーに占める「脂質」の割合の目標値は男女共20~30%。つまり18歳も75歳も同じ量の「たんぱく質」が必要で、脂質を極端に控える必要もありません。

 また、意識して控えているわけでなくても、食事の準備やバリエーションをつけることが億劫になり、偏ってしまう場合も多くみられます。

 私が昼食のケアで関わっているデイサービスの利用者さんで、年始に体重が5kgも減っていた方がいました。聞けば、単身でお住いのその方は、年末年始は配食サービスもデイサービスもお休み。食事はお腹いっぱい食べていたけれど、食べていたのはお餅ばかりだったとのことでした。

 筋肉が落ちて、痩せてしまっていましたが、「お餅をちゃんと食べていた」と、ご本人は問題のある体重減少とは思っていなかったようでした。

 ご家族が、食事をしている姿を見ていても、食事内容が偏っていることや、量が減っていることには、案外気づきにくいものです。少し痩せてしまっても、元気そうなら“太るより健康的”と考えがちですが、中高年と高齢者を同じように考えてしまうと、リスクを見逃す危険があります。

 ましてや単身の方や、高齢者世帯の場合はより問題が表面化しにくく、大幅な体重減少や、低栄養によって健康被害が出るまで問題視されず、気づかれないことが少なくありませんのでより注意が必要です。

 また高齢になると栄養素を消化吸収する機能も低下します。持病などがあるとさらに機能低下が起こる場合もあるため、栄養になるものを食べていても、栄養が十分にとれない場合もあります。

 そして、次のような場合も食事の質や量が偏り、低栄養などにつながる場合が多く見られます。

・ 歯や義歯、口の中のトラブル
・ 食べ物を飲み込む機能低下
・ 味覚や嗅覚の衰え
・ 心配事やストレス
・ 生活能力の低下
・ 何らかの理由で外出が困難になる
・ いつも独りで食事をとる、食事が楽しくない
・ 排せつのトラブル
・ 多種類の薬の服薬
・ 睡眠のトラブル
・ 経済的な問題

 必要な栄養が不足した食事を何日か続けたとしても、急に体の具合が悪くなるようなことはほとんどありませんが、徐々に栄養障害が進むと、生活の変化を来す出来事(病気やけがでの治療や入退院、親しい人の死亡など)をきっかけに、低栄養と健康被害の悪循環が起こる可能性があります。

 低栄養が健康被害を招き、その治療や療養によってさらに低栄養が進み、健康や生活の質の低下、要介護度の悪化などを起こすのです。

 なぜ病気の治療や入退院、療養が低栄養を加速させることがあるかというと、病気の治療中は「禁食」の指示が出る場合も多く、食欲が低下、食事量が減り、食事をとるための摂食嚥下機能低下が起こる場合があるためです。

 とくに、高齢者の場合、全身の健康を保ち、穏やかな生活を送るためにも、低栄養を防ぐ、バランスのよい食生活を続けることが大切です。

 次回は、低栄養を早めに見つけるコツと悪化させないケアをお伝えします。

安田淑子さん:管理栄養士。地域食支援グループ・ハッピーリーブス(東京都新宿区)副代表。1993年より高齢者の栄養管理・食支援に携わる。ハッピーリーブスは、歯科衛生士・管理栄養士・理学療法士が協働で、在宅で療養する高齢者の食支援を行う任意団体。安田さんは主治医の指示書にもとづいて介護保険で行う「居宅療養管理指導」の訪問栄養ケアを担当。ほかに新宿ヒロクリニック外来での栄養相談などのほか、デイサービスでの昼食の栄養ケア、専門職向け食支援教育の講演、執筆など。著書に「介護スタッフのための 安心『食』のケア 口腔・嚥下・栄養」(共著、秀和システム刊)。

取材・文/下平貴子

→本当は怖い低栄養<2>を読む

専門家による在宅介護に役立つアドバイス!シリーズ「プロが教える在宅介護のヒント」を読む

【関連記事】

●がんより怖い!? 太っていても心配な”隠れ低栄養”、大丈夫?

●「孤食」が招く認知症高齢者の低栄養!すぐできる対策3つ

●高齢者が手軽に栄養補給できる「おやつ」3選 【介護食】

ニックネーム可
入力されたメールアドレスは公開されません
編集部で不適切と判断されたコメントは削除いたします。
寄せられたコメントは、当サイト内の記事中で掲載する可能性がございます。予めご了承ください。

最近のコメント

シリーズ

介護付有料老人ホーム「ウイーザス九段」のすべて
介護付有料老人ホーム「ウイーザス九段」のすべて
神田神保町に誕生した話題の介護付有料老人ホームをレポート!24時間看護、安心の防災設備、熟練の料理長による絶品料理ほか満載の魅力をお伝えします。
「老人ホーム・介護施設」の基本と選び方
「老人ホーム・介護施設」の基本と選び方
老人ホーム(高齢者施設)の種類や特徴、それぞれの施設の違いや選び方を解説。親や家族、自分にぴったりな施設探しをするヒント集。
「老人ホーム・介護施設」ウォッチング
「老人ホーム・介護施設」ウォッチング
話題の高齢者施設や評判の高い老人ホームなど、高齢者向けの住宅全般を幅広くピックアップ。実際に訪問して詳細にレポートします。
「介護食」の最新情報、市販の介護食や手作りレシピ、わかりやすい動画も
「介護食」の最新情報、市販の介護食や手作りレシピ、わかりやすい動画も
介護食の基本や見た目も味もおいしいレシピ、市販の介護食を食べ比べ、味や見た目を紹介。新商品や便利グッズ情報、介護食の作り方を解説する動画も。
介護の悩み ニオイについて 対処法・解決法
介護の悩み ニオイについて 対処法・解決法
介護の困りごとの一つに“ニオイ”があります。デリケートなことだからこそ、ちゃんと向き合い、軽減したいものです。ニオイに関するアンケート調査や、専門家による解決法、対処法をご紹介します。
「芸能人・著名人」にまつわる介護の話
「芸能人・著名人」にまつわる介護の話
話題のタレントなどの芸能人や著名人にまつわる介護や親の看取りなどの話題。介護の仕事をするタレントインタビューなど、旬の話題をピックアップ。
介護の「困った」を解決!介護の基本情報
介護の「困った」を解決!介護の基本情報
介護保険制度の基本からサービスの利用方法を詳細解説。介護が始まったとき、知っておきたい基本的な情報をお届けします。
切実な悩み「排泄」 ケア法、最新の役立ちグッズ、サービスをご紹介
切実な悩み「排泄」 ケア法、最新の役立ちグッズ、サービスをご紹介
数々ある介護のお悩み。中でも「排泄」にまつわることは、デリケートなことなだけに、ケアする人も、ケアを受ける人も、その悩みが深いでしょう。 ケアのヒントを専門家に取材しました。また、排泄ケアに役立つ最新グッズをご紹介します!