オバ記者が体験する「古武術介護」とは?体を痛めずラクにできる新介助術をプロに学ぶ
「これ、母ちゃんが生きているときにやってやりたかった~」とは、女性セブンの名物ライターで「介護のリアル」などの連載を持つ“オバ記者”こと野原広子さん(65才)だ。昨年8月から母親を在宅介護し、今年3月に見送った野原さんの肉体はボロボロになり、それはいまだに尾を引いている。しかし、そんな過酷な肉体労働“介護”が、力のない女性でも楽にできる方法があるという。コロナ禍の運動不足で筋力が落ちたと嘆くあなたにこそ知ってほしい、介護に役立つ体の効率的な使い方をご紹介します。
体を連動させることが古武術介護の極意
「古武術介護」とは、介護福祉士の岡田慎一郎さんが考案した、格闘技や古武術の動きを取り入れた介護法だ。
「私は20代のときから、重度身体障害者の施設や高齢者施設で介護職員として働いてきました。
そこで思ったのが、教科書にあるような身体介助術は、介助される側(被介助者)がある程度動けることを前提にしているということです。そのため、体が麻痺するなどして動けない被介助者を同じ方法で介助しようとしても通用しません。だから、プロの介護職員でも、肩こりや腰痛、ひざ痛に悩まされる人が続出してしまうのです。
そこで私は、現場で試行錯誤しながら、自分たちも動きやすくて介助者の体に負担がかからない介助方法を研究していったのです」(岡田さん・以下同)
もともと、ボクシングや空手などの格闘技をしていた岡田さんは、クリンチという相手の体に抱きつくなどして動きを止める技術が、介助にも役立つことに気づく。
「クリンチは体力がない状態でも相手をコントロールできる動きです。大柄で動けない重度の被介助者でも、この技術を応用すると簡単に移動させられるようになり、お互いの負担も軽減しました」
さらにその後、古武術にも出合う。
「古武術を学んでわかったのは、各部位の筋力に頼るのではなく、体を連動させることの大切さです。
腕や腰など、体の一部だけを使って被介助者を立たせたり抱えたりすると、その部位に過度の負担がかかり、痛みを引き起こします。
そうではなく、たとえば腕を使うなら肩甲骨から使い、腕と背中を連動させて介助すると、負担なく力も動きも引き出せるんです」
向きを変える動作にしても、足を踏ん張ったまま腰だけをひねると腰痛の原因になる。しかし、踏ん張らずに足も一緒に向きを変えて動かし、下半身全体を連動させれば、体は効率よく動かせる。
古武術で、体の大きな相手が簡単に投げられてしまうことがあるが、それと同じだ。筋力に頼らず、合理的な動きで技を繰り出す。そのコツをつかめれば、介助はグンと楽になるのだ。
まずはチェック!股関節の動き次第で、介助がもっとスムーズになる
介助の動きの要となる股関節がどれだけ動かせるか、チェックしてみよう!
まずは、股関節を120~130度曲げた状態でしゃがもう。つま先はひざと同じ方向を向くように広げ、足幅を肩幅より広くとると姿勢が安定しやすい。これができたら、しゃがんだ姿勢を維持しつつ、上半身を前傾させながら、片ひざを交互に倒し、前に進んでみよう。床を雑巾がけするイメージだ。
これらができれば股関節の動きが引き出せているが、できなくてもかまわない。自分の体がどの程度動くかを知ることが大切なのだ。
「日常的にしゃがんで床拭きをしたり、草取りをしたり、和式トイレを活用すれば徐々に股関節は動かせるようになっていきます」
●両足を肩幅より開いてしゃがむ
●しゃがんだまま歩いてみる
覚えておきたい「立つ」「持つ」仕組み
●“立つ”仕組み
立ち上がるとき、脚力だけを頼りにしていないだろうか。
「立ち上がるときに頭を下げれば、その重さに引かれて自然と立ち上がれます」
ただし、足を前に投げ出してはダメ。ひざとつま先を結んだ線が床と垂直になる位置まで足を引き、上半身を股関節から曲げて倒し、頭を下げると、立ち上がりやすい。介助に役立つので覚えておきたい。
●“ものを持つ”仕組み
「ものを持ち上げるとき、腰の位置が高い状態だと、ものと体の距離が離れてしまいます。そうなると、腰や腕だけで持ち上げることになり、腰痛などの原因に。体を連動して使えていない証拠です。両足のつま先を外に広げながらお尻を落とし、ものと体を一体化させるように密着させてから持ち上げると体に負担をかけずにすみます」
基本の立ち上がらせ方
「立つ」「持つ」の仕組みを応用すると、いすから簡単に立ち上がらせられる。ポイントは被介助者の頭の位置と介助者の腰の高さ。
【1】被介助者の足先とひざを結んだ線が床と垂直になるようにする。介助者は、腰を低く落とし、前傾して被介助者の腰を抱える。
【2】被介助者に頭を下げてもらい、そのタイミングで"斜め後方に引く"と立ち上がれる。上に引っ張り上げないこと。
【NG!】
いすから立ち上がらせようとするとき、たいていの人は上に引っ張り上げようとする。これは介助者の腰の位置が高いせい。“立つ仕組み”にあるように、被介助者が頭を前に倒せば自然と立ち上がれるのに、その動きを邪魔してしまう。
教えてくれた人
介護福祉士・理学療法士 岡田慎一郎さん
重度身体障害者などの施設に勤務しながら、古武術の体の動かし方を参考にした「古武術介護」を生み出す。近著に『図解でわかる! 古武術式 疲れない体の使い方』(三笠書房)。
取材・文/野原広子、桜田容子 撮影/楠聖子
※女性セブン2022年9月15日号
https://josei7.com/