注目の「古武術介護」でベッドから車いすへの移動をラクに 新介助術にオバ記者が挑戦!
『女性セブン』の名物ライター“オバ記者”こと野原広子さん(65才)は、母親を在宅介護した経験を持つ。ベッドや車いすから「移動させる」など、体を動かす介助をする機会が多く、体力的負担が大きかったという。そこで、力のない女性でも楽にできる「古武術介護」の考案者で介護福祉士の岡田慎一郎さんに、「ベッドから車いすへ移動させる方法」と「ベッド上で下から上へ移動させる方法」を教えてもらった。わずかな力でラクに体を動かせて、オバ記者もビックリ!
ベッドから車いすへ移動させる方法
ベッドから車いすへ移すのもひと苦労だったとオバ記者。以下の方法なら、介助者に筋力がなくても、体に負荷をかけずに移動させられる。ポイントは、両者の間に空間ができないよう密着し、“一体化”すること。
【1】介助者が被介助者の正面に立って抱えようとしがちだが、被介助者をベッド(写真はいすで代用)に座らせたら、介助者も隣に座る。
【2】被介助者の両脚を、介助者の片脚(被介助者に近い方の脚)の上にのせ、脚の間に軽く挟む。
【3】被介助者の両わきの下から腕を回して密着する。
【4】介助者は片手で背中を、片手でお尻(骨盤)を抱える。
後ろから見ると…
【5】被介助者に前傾してもらうと、お尻が浮いたタイミングで、介助者の片脚の上に被介助者が自然と乗ってくる。
【6】介助者はつま先を小刻みに振りながら向きを変え、被介助者を車いす(写真はいすで代用)に座らせる。被介助者に前傾してもらい、頭の重さでお尻を上げるのがポイント。
【7】被介助者の両脚を下ろしたら無事移動完了。
ベッド上で下から上へ移動させる方法
「苦労してベッドに寝かせられても、頭を枕のあるベッドの上方に移動させるのが大変で…」とオバ記者。両わきに手を入れて引っ張り、上に持ち上げようとしていたというが、もっといい方法があった!
【1】被介助者に両腕を組んで、片ひざを立ててもらう。立てた脚側に介助者はしゃがむ(写真は布団を想定。ベッドならしゃがむ必要はない)。
【2】被介助者の体を仰向けから横向きに変える。介助者がいる側と反対側に被介助者の顔を向けさせる。
【3】被介助者の腰の後ろに手を差し込む。このとき、一度手の甲を正面に向けてから手首を返し、手のひらを正面にして差し込む。
【4】【3】の“手のひら返し”のひと手間で、肩甲骨と腕が連動し、大きな力が楽に出せるようになる。腕を腰の下に差し込んだら、反対の手で被介助者の脚を抱える。
【5】被介助者を仰向けに戻したら、両ひざの裏に自分の片ひざを差し入れ、互いの骨盤を近づけて2人の体を一体化させる。
【6】脚を抱えていた腕を被介助者の体の横に置き、自分が被介助者の頭側に倒れていく力を使って、被介助者の体を上に滑らせる。
【オバ記者後記】介護する側・される側の経験をしてみてわかった!
「これを知っていたら母ちゃんを怒鳴らずにすんだかも」
「ええ~っ、人の体ってこんなに簡単に動くの!」古武術介護を考案した岡田さんに身を預けた私は狐につままれたよう。
今年の春、93才で亡くなった母ちゃんの介護をしていた私は、さまざまなシーンが思い浮かんできて、ああ、あのときこの術を身につけていたら、母ちゃんを怒鳴らずにすんだのになと、しょうもない後悔が止まらないんだわ。
母ちゃんは身長150cm足らずで体重40kgと小柄。なのに思う通りに動かない。おむつを替えただけでヘトヘトよ。
ベッドの足元にずり下がった母ちゃんの体を、背中からわきの下に両手を差し込んで、枕のある位置まで持ち上げる介助なんて、いつギックリ腰になるか恐怖だった。それを岡田さんに言うと、
「ちょっと寝てみてください」
と私に添い寝してクンと体を伸ばしたら、簡単に体がずり上がった!
このほかいくつかのパターンを教えてもらって気づいたのは、介助者が力を入れると、動かされる方も体がこわばるということ。介護される母ちゃんも、必死だったんだね。
そんな私も1つだけうまくいったことがある。
デイサービスから帰ってくると母ちゃんはひとまず縁側に座るんだけど、そこから立ち上がらせてベッドまでどう運ぶか―。あるとき、やけになって座布団ごと後ろから引っ張ったの。畳の上を滑らせると母ちゃんはアハハと笑う。
岡田さん直伝の介護術を知っていたら、あの笑顔をもっと見られたのに…。
教えてくれた人
介護福祉士・理学療法士 岡田慎一郎さん
重度身体障害者などの施設に勤務しながら、古武術の体の動かし方を参考にした「古武術介護」を生み出す。近著に『図解でわかる! 古武術式 疲れない体の使い方』(三笠書房)。
取材・文/野原広子、桜田容子 撮影/楠聖子
※女性セブン2022年9月15日号
https://josei7.com/