81歳おじいちゃん医師が伝授「幸福な老後を迎える」8つの極意と「健康診断で見逃してはいけない」4つの重要項目
人生最終章を健康で穏やかに過ごしたいーー誰もが望む理想だが、実現できる人ばかりではない。老いや迫る死にどう向き合うか。『81歳おじいちゃん医師が教える本当に幸せな老後』(幻冬舎)を上梓し、年齢にとらわれず精力的に活動する高齢者医療のスペシャリスト・中野義澄医師に聞いた。
教えてくれた人
中野義澄さん/中野内科クリニック院長、医学博士・脳神経内科専門医・認知症サポート医
「老いと病」「死」との向き合い方で変わる老後の過ごし方
人生100年時代、多くの方は定年後に数十年にわたる老後期間を過ごすことになります。
しかし、リタイアによる生活リズムの変化や加齢による体の衰えなどにより、穏やかで充実した余生を過ごすのは意外に難しいのが現実です。
私はこれまで大学病院や国立病院で神経内科の設立に携わり、かかりつけ医として在宅医療や老人ホームの開設・運営にも取り組んできました。厚生省(当時)の在宅医療研究班に身を置いた時期もあります。
半世紀以上にわたって医療に従事するなかで数えきれないほどの患者の老後生活を見てきましたが、現役時代に華々しい成功を収めたとか、巨額の資産を築いたからといって、必ずしも幸福な最期を迎えられるわけではありません。
引退後に気力を失って孤独のなかで息を引き取ったり、家族関係の問題から老人ホームで寂しい最期を迎えたりするケースを、それこそ山のように目の当たりにしてきました。
どうすれば幸せな老後を過ごすことができるのか。そのためには正しい知識を持って「老いと病」、「死」と真摯に向き合うこと。そして想像以上に長い余生のために、十分な準備をしておくことが重要です。
50代、60代では「老後のことはいつか考えればいい」と先延ばしにしてしまうケースも多いでしょう。また、すでにシニアの仲間入りをしている人は「いまさら考えても仕方がない」と思っているかもしれません。
しかし、何歳であろうと、大切なのは今日から具体的な行動を始めることなのです。
「貧血」に潜む病気も。健康診断の結果を生かして大病を予防すべし
年齢とともに体が衰えていくことは、誰しも避けることができません。ひざや腰の痛み、白内障、緑内障、難聴、そしてがんや認知症のリスクも加齢とともに高まります。
なかでも老後を幸福に迎えられるかどうかの分岐点が、「寝たきりに至る病気」を予防できるかどうかです。
とりわけ気をつけたいのが脳出血や脳梗塞などの脳血管障害と心筋梗塞。これらの病気は「がんと違ってコロリと死ねるからいい」と思っている人も多いようですが、現実は異なります。
実際にはそのまま命を落とすケースは少なく、多くの場合、長期入院やリハビリが必要になります。後遺症が残って大変な苦労をすることも珍しくありません。私は行政からの依頼で介護認定審査員を務めてきましたが、脳血管障害がきっかけで要介護になった人がなんと多いことか。
これらの病気を防ぐには、規則正しい生活やバランスのよい食事、運動が大切なのは言うまでもありませんが、私が残念に思うのは健康診断が十分に生かされていないことです。せっかく受けた健康診断の結果をただの「紙切れ」にしてしまい、重要な数値を見落として寝たきりにつながる病気を引き起こす例は少なくありません。
「脂質」、血糖値の指標である「HbA1c」、そして沈黙の臓器と呼ばれる肝臓の状態を示す「肝機能」は注目してほしいのですが、見逃してはいけないのが「貧血」の所見があるかどうかです。これまで貧血気味ではなかったのに、急に赤血球や血色素の値が下がっていたら要注意。「どこかから出血している」「血が壊れている」ことなどが考えられ、裏に大病が隠れている可能性があります。
こうした健診結果をそのまま引き出しに仕舞いこむのではなく、必ず「かかりつけ医」と結果を共有していただきたいと思います。
1日1つ予定を作り、手帳に書いて脳を活性化
70代、80代になると、突然の体調不良に見舞われることも起こり得ます。その時に様子を見るか、至急病院に行くべきか、判断に迷うことも多いようです。「救急車を呼ぶ基準」があまり知られていないのです。
緊急を要するケースは、手足の力が抜ける、痺れが生じる、ろれつが回らないなどの症状です。これは脳梗塞や脳出血の初期症状の可能性がある。
また突然の激しい頭痛はくも膜下出血、胸の真ん中に重苦しい痛みが走る場合は狭心症や心筋梗塞、吐き気を伴う強烈な腹痛は腸閉塞の可能性があります。こうした危険なサインが出たら迷わず救急車を呼んでください。
もちろん緊急の症状ではなく、年齢とともに徐々に機能が低下していく病もあります。その代表が、脳機能の衰えによる認知症です。我を忘れてしまうのは誰にとっても恐ろしいことで、多くの年配層が「認知症になったらどうしよう」という不安を抱えています。
私の長年の経験から言えば、認知症を遠ざけるために大事なのは、「何もすることがない」状態を避けることです。
1日にひとつ予定を作る
おすすめは無理にでも1日にひとつ、小さな予定でもいいので手帳に書き込むこと。スーパーに行くとか、妻と映画を見るとか、家で本を読むとか、何でもかまいません。予定を入れることで生活にメリハリがつき、脳の活性化に役立ちます。
また、楽しむことだけでなく、学ぶことも生きがいにつながります。私の知り合いには、80代になって一般受講生向けのオープンカレッジに入った人や、料理教室に通い始めた人もいて、とても生き生きとしています。
地域の自治会の活動やボランティアに参加するのもいいでしょう。人との出会いや交流は、何よりの認知症予防になります。もちろん仕事が好きで働くことこそが生きがいだという人は可能な限り仕事を続けるのが一番。私が見てきた高齢者のなかでも、仕事を続けている人たちは皆さんお達者揃いです。
外見から老け込んでしまわないよう、「見た目」に気を配ることも意識しましょう。ヒゲを剃り、服装を整えると、心も自然と若々しくなっていくものです。
認知症だって悪いことばかりじゃない
一方で、矛盾するようですが認知症を過度に恐れない姿勢も大切です。厚労省によれば80代で4割、90代以上では男性の約半数以上、女性の8割以上が認知症とされています。
実は認知症は悪い面ばかりではありません。認知症は「死の恐怖から救うために与えられた神様からの贈り物」という考え方がありますが、たしかに辛いことを忘れられるのは、大きなメリットかもしれません。
認知症になっても「楽しい」「嬉しい」「安心する」といった原初的な感情は残ります。私の老人ホームにいる認知症の人たちは、多くが穏やかでニコニコしていますね。夫を先に亡くした認知症の女性がいましたが、その事実を覚えておらず、悲しみに暮れることなくいつも通りの日常を送っておられた。
認知症の進行とともに暴力的になってしまう人も一部にはいますが、その根っこには何らかの不安や不満があると考えられます。認知症になる前からの備えが重要です。できれば周囲の人に話をよく聞いてもらえる環境を整えておくこと。要介護になるのを見据えて、施設入居の心づもりをしておくなど、早めに不安を取り除く準備をしておくのもいいでしょう。
かく言う私も、すでに老いや病に直面している身。心臓のステント手術やひざの人工関節手術を経験し、糖尿病のための食事や運動管理、最近では突発性難聴の治療にも取り組んでいます。
しかし、幸いなことにいまなお現役で、クリニックの院長としてほぼフルタイムで診療に当たり、老人ホームの運営にも携わることができています。
終わりよければすべてよし。人生の最後に満足感を抱くことができれば、それまでのすべてが報われるーー。
皆さんも年齢を言い訳にせず、「生きがい」を持って、老後を楽しく幸せに過ごしてくださることを願っています。
