50才で役職を手放したベストセラー作家・楠木新さんが語る“定年後の生き方”。雑談を楽しめる仲間を持つことが大切
定年退職や子どもの独立を機に新たな挑戦に踏み出したいと考える人も多いだろう。とはいえ、まずはどんな準備が必要なのだろうか。安定した生活を捨てて、人生を“リセット”した先人に老後を豊かに生きるヒントを聞いた。
教えてくれた人
楠木新(くすのきあらた)さん
1954年生まれ。会社勤務と並行し、50才から「働く意味」「個人と組織」をテーマに取材・執筆を始める。2017年『定年後』(中公新書)が25万部を超えるベストセラーになる。最新刊『定年後、その後』(プレジデント社)が発刊予定。
「やりたいことができなくなる」40代後半から会社員と自営業の二刀流を実践
著述家の楠木新さんは、生命保険会社で部長職や支社長を歴任。順風満帆な会社員生活を送っていた。
「40代後半から、会社中心の生活に疑問を持ち始めました。このまま定年を迎えると、その後の人生でやりたいことができなくなるという恐れから、葛藤状態に陥り、休職したのです」(楠木さん・以下同)
休職によって平社員に「降格」となった楠木さん。50才のときに決断をする。
「会社に勤めながら、自営業をやろうと決めました。私のように悩める会社員が『いい顔』になれる情報や機会を提供することで身を立てようと考えたのです。そのために、会社員からほかの仕事へ転身した人たちへのインタビューを始めたのです」
そして、「楠木新」という芸名を持ち、会社の近くに個人事務所を借りて、約10年にわたり会社員と取材・執筆業の“二刀流”を実践。
「芸名で活動を始めてからは毎日楽しく、職場でも嫌なことがなくなった。それまで、人生の主役は会社や上司だと思っていたのが、実は、主役は自分自身であり、彼らは『通行人A』に過ぎないことに気づいたのです。
しかし、収入や役職を手放すのは相当迷いました。それを整理できたのが、人生のターニングポイントでした」
老いとは“つながり”が減っていくこと。新たな仲間作りや夫婦関係の見直しが大切
定年後は著述業に専心し、ベストセラーも生み出した。現在、71才の楠木さんは「老後をどう生きるか」をテーマに、いまもシニアの男女を数多く取材し、発信を続けている。それをもとに、伝えたいことがあるという。
「65才まで雇用延長している現在、60才はまだまだ現役だと思います。本当の整理は70代前後から始まります。周囲の会話でも仕事の話は減り、『今日、大谷は打った?』『あのタレントさんは好感度が高いね』といった身近な話に変化していきます。
一方で、現役時代の人間関係は薄れてきて、身近に亡くなる人も増えてきます。ある82才の男性は『もう同期の3分の1は亡くなりました。人とのつながりが減少するのが、老いることです』と語っていました。だからこそ、現役時代とは違う人との関係を紡いで『人間関係寿命を延ばす』ことが求められるのです」
いままでの気が進まない人間関係を続けるのではなく、趣味のサークルや地域の集まりなどに参加し、雑談を楽しめる仲間を持つことが大切だという。
「地方自治体が運営する『シニア大学』に参加するのもいいと思います。私は最近、生まれ育った神戸にある落語の定席『喜楽館』で落語家さんへのインタビューを始めました。子供の頃から好きだった芸人さんの話を伺うのは楽しく、新たな人間関係も生まれています」
無理に何かを整理しようと考えなくても、本当にやりたいことに取り組めば、自然と生活も整ってくるもの、と楠木さんは加える。
そして、人間関係寿命の問題は、友人だけでなく夫婦間も同様だ。
「70代になると、私に小声で『妻が大事』と言ってくる男性が少なくありません。人とのつながりが、会社から家族や地域に移ってくるからなのだと思います。夫婦の形はさまざまですが、取材をした中で感じるのは、お互いに忌憚(きたん)なく話ができる関係が大切なように思います」
<楠木新さん>私が整理したモノ・コト
●本当にやりたいことを続けるため、会社の役職を手放した
取材・文/佐藤有栄 写真提供/楠木新さん
※女性セブン2025年10月30日号
https://josei7.com
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