「介護は突然始まるのではなく予兆はある」帰省時にチェックしたい親と家のこと10の実例と対策【社会福祉士解説】
「親の介護がそろそろ心配」という人は、年末年始の帰省は「ただの里帰りではなく、家の中や親の様子を確認する機会と捉えてみて」と、長年の介護経験をもつ社会福祉士の渋澤和世さん。実体験をもとにチェックポイントと対策について教えてもらった。
この記事を執筆した専門家/渋澤和世さん
在宅介護エキスパート協会代表。会社員として働きながら親の介護を10年以上経験し、社会福祉士、精神保健福祉士、宅地建物取引士、ファイナンシャルプランナーなどの資格を取得。自治体の介護サービス相談員も務め、多くのメディアで執筆。著書『入院・介護・認知症…親が倒れたら、まず読む本』(プレジデント社)、監修『親と私の老後とお金完全読本』(宝島社)などがある。
離れて暮らす親の変化に気づくには?
離れて暮らしていても、頻繁に会っていても、親の認知機能の低下や身体の変化に気づけないこともあります。頻繁に電話で話していても、子供の前では気丈に振る舞うのが親心。親が大丈夫という言葉を信じたいものですが、時の流れは早いもので老いは確実にやってくるものです。
年末年始に実家に帰ったら、部屋が散らかっている、同じ話を何回もする、歩くのが遅くなった気がするなど多少の変化に気づいたとしても、特に大きな問題もないし「もう年だから」で片付けていませんか? 実はそんな小さな変化が、介護について考え始めるサインかもしれません。
実父は病を煩い要支援2、実母は要介護1で認知症が発覚してから要介護5まで進行し、トータルで13年に渡る介護を経験しました。すでに2人とも他界しましたが、介護中には「もっと早く気づいていれば」と思うこともありました。そんな実体験をもとに、帰省時に確認しておきたいチェックポイントについてお伝えしていきます。
電話では「大丈夫」と言うけれど…
筆者は遠距離介護をしていた頃、1週間に一度の割合で電話をしていました。そうするといつも親は「こっちは大丈夫、心配しなくていいよ」と言われていました。ですが月一のタイミングで実家を訪れると、畳まれていない洗濯物の山、封を開けていない封筒の山、冷蔵庫には干からびて茶色く変色したご飯が放置されていることもありました。
そんな家の中のちょっとした変化から親の体調の変化を知ることもできます。帰省時にチェックしておくことで親の健康状態を知る手がかりにもなります。
実体験に学ぶ「親の変化と帰省時のチェックポイント」10選
高齢の親の様子をチェックするとき「認知症」の不安に目が向きがちですが、老いのサインはそれだけではありません。日常生活の変化、身体の変化などトータル的にみていくことが大切です。
実体験1:「トイレが汚れている」
実家は主に母親が家の掃除や洗濯をしていましたが、段々と洗濯物を溜めていたりトイレも汚れたりするようになりました。怠けているわけではなく判断力や気力の減退が影響したようです。最初に気になってから数か月後、もしやと思って病院に連れていくと、母親はアルツハイマー型認知症と診断されました。
チェックポイント/家の掃除や片付けの状況
部屋が散らかっている、ゴミが溜まっているのであれば、掃除や片づけが負担になっているサインです。不安を感じたら早めに医師に相談しましょう。家事や掃除など身の回りのケアをお願いできるサービスや訪問介護サービスなどについて、まずは地域包括支援センターに相談し、情報収集しておくといいでしょう。
実体験2:「冷蔵庫の中身に違和感」
冷蔵庫の中の食品管理が難しいというのも認知症の初期段階です。実家に帰ったと実母もまさしく冷蔵庫の中身がおかしいことに気がつきました。認知症を発症しなくても、老化で判断力が低下したり、物忘れが進んでいたりする可能性もあります。
チェックポイント/冷蔵庫の中身や食品管理を確認
冷蔵庫の中が食材で一杯、同じものがいくつもある、変色した食材が放置されているのも、注意信号です。食品管理が行き届かず、悪くなったものを食べてしまうと健康リスクも。
実体験3:「服装がおかしい、着替えをしていない?」
実父はだんだん他人と会わない日が続いたことで、何日も同じ洋服を着ていました。父の場合、病気で身体が思うように動かなくなってきたことでやる気が低下し、体臭や汚れに対しても感覚が鈍くなっていたと思います。
チェックポイント/服装や身だしなみ
服や髪の乱れや汚れを全く気にしなくなるなど、今まではそんなことなかったのに最近おかしいという場合は、気力の低下、心身の疲れが影響しています。
実体験4:「お財布が小銭でパンパンに」
実父はお金を下ろしてから一万円札を封筒に入れて使っていました。あるとき家の中に小銭がわんさかあることに気がつきました。支払いのときにいつも万札を出すので、お釣りが小銭で溜まっていたようでした。
チェックポイント/お金の管理や扱いは大丈夫?
買い物で小銭を使わずお札ばかり使っているのは、指先の細かい作業ができなくなっている、計算ができなくなってきている、認知機能が低下しているかもしれません。
また、支払い通知書がそのままになっていないか、家計簿や通帳の記帳など今までできていた金銭管理ができているか、確認しておくとよいでしょう。
実体験5:「地域の活動から遠ざかり、引きこもりがちに」
父母が暮らす実家の町内会では、高齢になってきたからとゴミ当番や町内会の役員を好意で免除してくれました。しかし、両親ともに町内会の人とのコミュニケーションが徐々になくなり、地域の活動に参加しなくなると、だんだん引きこもりがちになってしまいました。
チェックポイント/外出頻度を確認
町内会の活動や買い物の頻度が極端に少なくなってきたら孤立のサインです。徐々に心の負担と身体の老化につながります。地域の活動についても、年齢だけで判断せず、まだできる元気があるならばその意思を伝えておくといいと思います。
実体験6:「薬の飲み残しが大量に…」
実母は認知症で薬の管理ができなかったので、実父が管理をしていましたが、ある日、薬のシートで手を切ってしまったことがトラウマになったのか、薬を飲むのが怖くなってしまったようで、大量に薬がたまっているのを見つけました。
チェックポイント/通院や服薬管理はできているか
通院先があれば定期的に受診しているか、処方されている薬をきちんと飲めているかも大切なポイントです。これを怠ると持病も悪化してしまい、体調不良にもつながります。
我が家の場合は、薬剤師さんに相談して「薬の一包化」(複数の薬を1袋にまとめる)をお願いしました。
実体験7:「ちょっとした段差でつまずくことが増えた」
実母は足の裏を地面に引きずって歩くすり足のような歩き方をしていて、家の中でもつまずくことが多くなりました。ある日、はだしで急に外に出て転倒し、口の中を切る大けがをしました。
実体験8:「なんだか寝てばかりいる…」
実父は寝てテレビばかりを見ている日が長く続いていたため、外を歩く機会がめっきり減りました。そのうち、杖が必要になり、あっという間に車いす生活に進行していきました。
チェックポイント(7・8)/歩き方など行動に変化はある?
足が上がらずすり足になっている、立ち上がりに時間がかかる、痛みがある、歩くとすぐに疲れてしまうなど、歩き方に変化には要注意。
また、以前より歩く速度が遅くなった、足元がふらついているなどの場合も、筋力や体力の低下が考えられます。
介護の窓口となる「地域包括支援センター」に相談して要介護認定を受けることを検討してみましょう。
実体験9:「いつもと食べ方が違う」
実母は「みそ汁の味が薄い」と言い始め、自分で醤油を足すようになりました。また食欲も年々減少し、低栄養状態となり風邪をひきやすくなりました。
チェックポイント/食欲や味の好みを確認
食べる量が極端に減った、味付けがいつもと違うと感じたら、嗅覚や味覚の低下、さらには意欲の減少かもしれません。食事時に「よくむせるようになった」なども口内の唾液が減っている、老いのサインです。入れ歯があっていないなどの理由もあるかもしれません。歯科医や栄養士などに相談し、口腔ケアを検討してみるといいでしょう。
実体験10:「トイレの回数がいつも以上に増えた」
実父が「最近、夜中に何回もトイレに行く」と話していましたが老化現象だとあまり気にしていなかったのですが、その後、前立腺肥大症であることがわかりました。
チェックポイント/睡眠は大丈夫?
眠りが浅く何度も起きてしまう、夜中のトイレの回数が多いなどの変化は要注意。日中もだるそうにして、寝てばかりいるなど、日中の活動量が減って心身に影響も。かかりつけの医師に相談してみてください。デイサービスなどに通う、日中は陽射しを浴びて歩くなど、生活のリズムを整えたいものです。
帰省時には「相談先」を調べておこう【まとめ】
チェックポイントで気になることがあったら、「なぜそうなの?」「なんでできないの?」と頭ごなしに責めるのではなく、「そうなんだ、困っていたんだね」とまず受け止めから、困った状況を子供が受け止めてあげるだけでも親は安心するのではないでしょうか。
まずは帰省時に小さな変化に気づけただけでも大成功。大切なのは、帰省はただの里帰りではなく、「親の健康状態や生活環境をチェックする機会」として捉え直すこと。
帰省時には、「もしもの時にどこに相談すればいいのか」を把握することから始めてみてください。最寄りの地域包括支援センターの連絡先、近くに暮らす親族やご近所さんへの挨拶など、地元で頼れる相談先をいくつか把握しておくといいでしょう。
