【脳の老化予防法】脳内科医が教える8つの“脳番地”と鍛え方「意図的に面倒なことをする」「ラジオを聴く」「古いアルバムを見る」のも効果的
健康長寿は体だけではなく「脳」にも大きく左右される。いまや65才以上の8人に1人が罹患する認知症が悪化すれば、日常生活の不自由は避けがたい。最後までボケずに矍鑠(かくしゃく)と生きる――そんな人生を実現する「100年脳」のつくり方を脳内科医の権威が最新研究を元に解説する。
教えてくれた人
加藤俊徳さん/脳内科医・加藤プラチナクリニック院長
「脳番地」を刺激すれば、75歳でも脳機能の向上が期待できる。
脳の老化は避けられないーーそんな“定説”に対し、これまで1万人以上のMRI脳画像診断を行なってきた脳内科医の加藤俊徳さんはこう言う。
「近年の研究では、60代からでも脳の機能を維持し向上させることが可能である、という常識に変わりつつあります」
その裏付けとなるのが年を重ねても脳を成長させ続ける人々の存在だ。
「80才を超えても50代と同等の脳機能を維持する“スーパーエイジャー”の脳は、加齢による萎縮が非常に少ないことが研究によりわかっています。私がMRIで診断した100才を超える方々のなかにも、そうしたケースがありました」(加藤医師、以下「」内同)
スーパーエイジャーの存在により、「これまで65才を過ぎたら脳機能の現状維持が目標だったが、さらなる向上を目指せる時代になった」という。
「脳年齢は45〜65才くらいまでが“中年期”、75才前後までが“老年期への移行期”にあたります。認知症対策において、60才はまだやれることがたくさんある中年期。75才でも脳が老年期に移行しないよう努力する価値は大いにあります」
脳機能の向上を目指すうえで基礎となるのが、加藤医師が提唱する「脳番地」の考え方だ。
「1000億個を超える神経細胞がある脳の機能を系統別にみると、『思考系』『感情系』『伝達系』『運動系』『聴覚系』『視覚系』『理解系』『記憶系』の8エリアに分けることができ、私はこれを“脳番地”と呼んでいます。
8つの脳番地は役割こそ違うものの、互いに神経ネットワークで繋がっています。そのため、日常の何気ない行動でもできるだけ多くの脳番地を刺激することが重要。多くの脳番地を刺激し、より強固なネットワークを構築することが認知症リスクを避ける秘訣です」
8つの「脳番地」<役割と「鍛え方」のポイント>
8つの「脳番地」の役割と鍛え方を加藤医師が代表を務める「(株)脳の学校」HP等を基に作成した。
<1>【思考系脳番地】
思考や判断に関係する脳の「司令塔」。新たな知識や知恵を獲得するエリアでもあり、「新しいことへのチャレンジ」が有効。流行りの洋服を着る、最新の歌謡曲を聴く・歌うなどで、思考機能がブラッシュアップされる
<2>【感情系脳番地】
感性や社会性に関係し、喜怒哀楽などの感情を生み出す部位。日々のストレスや対人関係で疲弊しがちだが、「愚痴を言わない」「自分を褒める」を習慣化するだけで冷静な思考を維持できる
※脳の深いところにある「扁桃体」にも感情系番地が存在
<3>【伝達系脳番地】
会話で「相手に伝える」コミュニケーション機能に関係。鍛錬方法の一つは、家族や親友へのメール送信。自身の思いを文字化することで頭を整理整頓、「伝える力」を維持し、思考や感情系脳番地への刺激にもつながる
<4>【運動系脳番地】
手足や口などに指令を送り、自在に体を動かすことを司る機能。散歩や部屋の掃除など、日々の軽度な運動は他の「脳番地」にも相乗効果がある。「面倒だから」と逃げるのはやめ、楽しみや目標を見つけ継続するのがコツ
<5>【聴覚系脳番地】
言葉や音など「耳から入る情報」を処理する機能。他の「脳番地」と密接に関係。日常生活ではテレビだけでなく、音声情報のみのラジオを聴き続けることで「言葉を想像力で補完」する能力が強化される
<6>【視覚系脳番地】
目で見た、読んだ情報を集約する機能。外出先の風景などをメモ書きで文字として残し「可視化」する癖をつけることで、目から入ってきた情報をスムーズに「理解系脳番地」へ引き継ぐトレーニングになる
<7>【理解系脳番地】
目や耳から入る情報を集約し、理解、整理整頓する機能。「あえて面倒な手段を選ぶ」ことで機能が活性化。調べ物はネットに頼らず図書館に出向く、通販や宅配を利用せず実店舗で買い物をするなど
<8>【記憶系脳番地】
覚える、思い出す機能に関係。アルツハイマー型認知症の特徴の一つ「時系列の混乱」防止のため、古いアルバムを見る。時間軸の認識のほか、郷愁による喜怒哀楽が生じ「感情系脳番地」の刺激にも