「筋トレ、怒らない、よく噛む」94才、大村崑さんが語る“長生きの秘訣”
“崑ちゃん”の愛称で幅広い世代に親しまれる喜劇役者・大村崑さん(94)。90才を過ぎたいまも現役として舞台に立ち続けるそのエネルギーはどこから来るのか。元気の秘訣を伺った。
教えてくれた人
大村崑(おおむら・こん)さん/1931年、兵庫県生まれ、94才。喜劇役者。元日本喜劇人協会会長。キャバレーのボーイ、司会業を経て1957年にコメディアンとしてデビュー。幅広い世代に「崑ちゃん」の愛称で親しまれる。2023年、自立型有料老人ホームに夫婦で引っ越した。
健康の秘訣は筋トレ。ネガティブ思考もなくなりました
僕がいまも現役で仕事をやれているのは、86才から始めた筋トレのおかげ。時計の針が逆戻りして、どんどん若返っている感じです。妻の瑤子さんに勧められ、重い腰を上げて夫婦でトレーニングジムに通い始めたのが7年前。3年半で体脂肪率が26%から17%に落ちて腹回りがすっきりし、背筋がまっすぐになりました。
19才で肺結核を患って右肺切除の大手術を受け、退院するときは「あと20年しか生きられない」と宣告され、大腸がんも経験しましたが、筋トレのおかげで、ずっとつき合っていた“息切れ”ともお別れできました
もたれかかって数回やるのがやっとだったスクワットは、15回3セットできるようになり、いまではバーベルを担いで3セット。腕立て伏せもできるし、横断歩道は速足でスタスタ歩いています。
今日もこれからジムに行って、2時間筋トレをやる予定です。「94でこれだけやっている人はいないだろう」と思うと自信がつきますね。でも妻の瑤子さんは88才で、もっと猛烈にやっている。専属トレーナーも驚いていますよ(笑い)。
筋肉がついたことで精神的にも変わったと思います。以前は将来のことを考えるとネガティブになりがちでしたが、自分に自信がついて、希望が持てるようになりました。
シニアレジデンスの暮らしは「生活に張りができた」
2年前にシニアレジデンス(自立型有料老人ホーム)に引っ越したのもよかったと思います。居住者の大半が“崑ちゃん”世代の人なので、一歩廊下に出ると芸能人をしないといけませんが、おかげで背筋がピンと伸びる。
居住スペースは狭くなりましたが、クリニックや薬局、美容室、レストラン、大浴場、カラオケ、ビリヤード、シアター、図書館などの共用施設が充実していて、セキュリティ面も万全です。人生を最期まで楽しむための安心と安全を手に入れたことで、気持ちが前向きになり、生活に張りができました。
食事や大浴場の入浴時間が決まっているのは多少窮屈ですが、入居後も以前からの“夜型”の生活パターンを継続しています。寝床に就くのは深夜2時か3時頃で、たっぷり8時間の睡眠をとる。昼前に起きて、昔からの通いの家政婦さんが作ってくれる遅い朝食を食べ、夕食は施設のレストランで。僕は昔からお相撲さんと同じ、1日2食です。
毎日欠かさないブロッコリーと卵。咀嚼は“30回以上”が基本
夕食はメニューから選びますが、どれもカロリーや塩分の計算がされていて、栄養バランスもいい。たまに肉料理も食べますが、和食を中心にオーダーすることが多いですね。酒飲みというほどではありませんが、瑤子さんが白ワインをキープしているので、食事のときにそれを少し飲みます。友人が来てフルコースが食べたいときは、個室で注文もできるんです。
遅い朝食も食材をバランスよく摂るようにしています。なかでも1年365日、必ず食べているのがブロッコリー。昔はパセリと同じで“飾りもの”やと思っていたんですが、筋トレを始めたときに、ブロッコリーは低カロリーで高たんぱくの「体重を増やさず筋肉を増やす究極の野菜」だと聞いたんです。
100g当たりのたんぱく質はキャベツや玉ねぎの5倍、糖質はじゃがいもの10分の1。これは理想的な食材だと。納豆と小豆汁も毎日欠かしません。小豆汁は小豆を漬けて沸騰させた汁を、味噌汁のように飲んでいます。あとはヨーグルトに青汁をかけたもの、卵も温泉卵みたいに半熟にして毎朝食べています。
他に季節のフルーツを少し食べますが、薬の関係でグレープフルーツだけは避けています。戦争体験者ですから、好き嫌いはありません。あれが嫌い、これが嫌いなんて言ったら母親に怒られましたからね。
食事はゆっくり、1時間以上かけています。どんな食材も30回以上噛むし、ブロッコリーなんかはよく噛まないと飲み込めないで、60回以上は噛みます。よく噛むことは誤嚥性肺炎の予防にもつながるので、舌、唇、喉など嚥下に関する「運動」だと思ってやっています。忙しいからといって、食事をかきこんで出かけるようなことはありません。
僕の自慢は入れ歯やブリッジが1本もないことで、口を空けたら全部自分の歯なんです。虫歯も歯槽膿漏もありません。日本歯科医師会が推奨している「歯磨き1日5回」を習慣にして、2か月に1回は歯石を取りに歯科医に通っています。
怒りは若死の原因?「96才まで生きた森繁久彌先生は穏やかな性格だった」
気持ちの面で気をつけているのは、怒らないこと。喜劇人で短気な人はみんな早世しているんです。藤山寛美は60才、榎本健一先生は65才、三波伸介は52才で亡くなりました。なぜ若死にしたのかというと“怒る”からです。
森繁久彌先生は92才まで現役を続け、96才で亡くなりました。本当に怒らない人で、「負けるな、腐るな、焦るな、威張るな、怒るな」の5つの「な」をモットーにされていた。
高級レストランの料理がまずかったときに、料理長を呼んで「あなたが作ったの?食べてみた?」と優しく尋ね、「のどちんこ、僕が手術してあげよか?」なんてとぼけたことを言う人でした。
僕は94才になって、森繁のおやじさんの現役年齢92才を抜きました。おやじさんみたいな穏やかな性格を心がけて、96才も抜きたいですね。笑っているのが健康と長生きに一番いいし、ましてや人を笑わせる商売。常に笑わせることばかり考えながら生きています。
※週刊ポスト2025年11月28日・12月5日号
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