危険な薬の組み合わせ 降圧剤・解熱鎮痛薬など“寿命を縮める”飲み合わせを専門家が解説
さらに怖いのは、絶対に組み合わせてはいけない「併用禁忌」の薬が処方されるケース。
公益財団法人「日本医療機能評価機構」による「薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業」の報告では、重大な健康リスクから併用禁忌に指定された薬が処方されてしまった実例が多数紹介されている。
降圧剤のサイアザイド系利尿薬を服用中の70代男性は、別の病院で夜間頻尿薬が処方された(事例1)。この2剤は低ナトリウム血症が発現するおそれがある併用禁忌の組み合わせだが、医師が把握できていなかったとみられる。最終的に薬局が気付き、夜間頻尿薬の処方が中止された。
脂質異常症治療薬のスタチン系薬を服用中の80代男性に併用禁忌の新型コロナの治療薬が処方されたケースもある(事例2 )。
「横紋筋融解症を発現するおそれがある危険な組み合わせです。報告によれば、これも医師が持病薬を確認せずに処方した可能性が指摘されています」(長澤さん)
いずれも薬局で発覚し、処方が中止されたが、どちらも素通りしてしまったケースもある。
抗不整脈薬のNaチャンネル遮断薬を服用していた70代男性は別の病院で併用禁忌の排尿改善薬が処方された(事例3)。お薬手帳を持参していたにもかかわらず薬局も見落とし、次に受診するまでの2週間、服用を続けてしまったのだ。
そのほか、近年の「薬局ヒヤリ・ハット事例」で目立つのは、降圧剤などの生活習慣病治療薬を服用中の患者に、皮膚病治療などに用いられる
「抗真菌薬」や、「新型コロナ治療薬」を併用禁忌でも処方してしまうケースだ。
前出・谷本医師が言う。
「背景には診療科の違いがあります。降圧剤など生活習慣病治療薬は一般内科のかかりつけで処方するケースが多い一方、抗真菌薬は皮膚科、新型コロナ治療薬はさまざまな診療科で処方します。いつものかかりつけの内科医以外が処方すると、連携が不十分になりやすい」
また薬剤師の長澤さんが「非常に危険」と指摘するのは、「ED治療薬+狭心症治療薬」の併用だ。
「ED治療薬と狭心症治療薬(硝酸イソソルビドなど )はいずれも血管を拡張する作用があり、同時に服用すると血圧が急激に下がって倒れてしまうことがある」
患者が服用中の薬について医師に正しく申告していないケースも多いという。
「心臓や血管系の薬を飲んでいることを医師に隠し、ED治療薬の処方を受けようとする患者さんがいます。そのため併用禁忌の発覚が遅れ、転倒などの事故に繋がるケースが少なくありません」(長澤さん)
新薬は併用リスクが高い『おくすり手帳』で併用禁忌の予防を
併用禁忌薬の処方を防ぐには、受診の際に患者からの正しい申告が大前提となるほか、処方薬の履歴を記録した「おくすり手帳」の活用が求められると長澤さんは強調する。
「医療機関や薬局の薬剤師が正確にデータを共有するために、過去の処方内容が記録された『おくすり手帳』の持参が必須です。持参しても併用禁忌薬が処方されてしまった実例はありますが、手帳によって危険な飲み合わせが防げるケースは多い。マイナ保険証であれば、医療機関側も過去の処方薬が電子記録ですべて確認できるようになっています」
一方で、こんな注意もあるという。
「新薬ほど安全で効き目が強いイメージがあるかもしれませんが、実は併用リスクは高い。販売から2年未満の新薬は特に注意が必要です。新薬と併用に問題のある薬を製薬メーカーが調査し、データを収集する『市販後調査』が終わるには約2年を要するからです」(長澤さん)
新薬に限らず、発売から年数を経ていても、併用されるケースが少ない組み合わせでは「“未知の禁忌”が潜んでいる可能性もゼロではない」(同前)という。
「処方されている薬について飲み合わせが気になる場合は薬剤師に相談するか、その薬剤について詳細なデータを収集し、最新かつ正確な情報を持つ製薬メーカーの相談窓口に問い合わせるのも一つの方法です」(同前)
患者が薬剤の専門知識を持つことは難しいが、いま、どんな薬が処方され、どれだけの量や回数を飲んでいるかを最も正しく知るのは患者自身である。
薬が健康を蝕み、重篤な結果をもたらすことのないよう、できる限りの自己防衛策が欠かせない。
※週刊ポスト9月19日・26日号
●多剤併用すると危険な薬|”薬やめる科”の医師が教える薬の飲み合わせ