危険な薬の組み合わせ 降圧剤・解熱鎮痛薬など“寿命を縮める”飲み合わせを専門家が解説
病気を治すために服用している薬だが、「飲み合わせ」次第で死を招く猛毒になる可能性がある。問題は、そのリスクを医師と薬剤師が見逃して処方するケースが多数あることだ。知っておきたい危険な飲み合わせを実例とともに解説する。
教えてくれた人
谷本哲也さん/医師・ナビタスクリニック川崎院長、長澤育弘さん/薬剤師
高齢者ほど増える薬 多剤併用リスクも上昇
高血圧、糖尿病、脂質異常症など生活習慣病の治療では、数値のコントロールに薬の服用が大きな柱となる。
だが、年を重ねて持病とは別の病に罹った時は、日頃服用する薬と新たに処方される薬の「相性」に特段の注意が必要だ。
静岡県では複数の薬を併用することで副作用などを生じる多剤併用(ポリファーマシー)を防ぐ取り組みが始まった。
複数の疾患を抱える患者ほど多剤併用になりやすく、人によっては食欲低下や排尿障害、認知機能低下などを発症することがあるほか、最悪の場合は寝たきりや死を招くこともある。
今後、同県では大学や医療、薬剤の各専門機関が協力して臨床データを収集・分析。薬局チェーンとも連携し、適切な処方を目指すという。
行政が重視するのは特に多剤併用リスクが高い高齢者への対応だ。
ナビタスクリニック川崎院長の谷本哲也医師が言う。
「年を重ねるごとに生活習慣病をはじめ複数の疾患を抱えることが多く、必然的に薬の種類が増えてしまいます。厚労省の調査(2019年)によれば、75才以上で在宅療養中の患者の4割は5種類以上の薬を処方されていた。加齢により肝臓・腎臓の機能が落ちた患者の場合、本来なら代謝されるはずの薬の成分が体内に残り、重篤な副作用が起こりやすくなる面があるため、多剤併用には特に注意が必要です」
医師はカルテや問診により患者の状態を把握したうえで薬を処方するが、時には「相性が良くない薬」が同時に処方されるケースが少なからずあるという。
「その患者の処方歴について、医師や薬剤師が見落とす事例が散見されます。感染症の流行期など医療現場の繁忙時には、問診票の自己申告を鵜呑みにして確認が疎かになることも考えられる。また、いわゆる“はしご受診”や『おくすり手帳』の記載漏れなど、患者の事情で医療機関に正確な情報が伝わらず、医療機関同士や医療機関と薬局間の連携が取れないケースも多々あります」(同前)
複数の医療機関を受診している場合、「病院にすべて任せれば安心」と思い込んでいると時に命の危険があるのだ。
知っておきたい「併用注意」と「併用禁忌」の薬
多剤併用による健康リスクを回避する第一の「自己防衛策」は、処方された薬について正しい知識を持つことだ。
本誌は処方薬の添付文書に記された「併用注意(併用に注意が必要)」と「併用禁忌(併用しないこと)」の薬の組み合わせについて、引き起こされる可能性がある副作用の症状と合わせて表にまとめた。
まずは身近な生活習慣病で処方される「降圧剤」「糖尿病治療薬」「脂質異常症治療薬」の併用注意の組み合わせを見ていく。
降圧剤の「β遮断薬」では、糖尿病治療薬の「インスリン」などとの併用に注意が必要だ。
薬剤師の長澤育弘さんが語る。
「糖尿病治療薬の使用中は稀に低血糖状態になることがあり、その際、体は血糖値を上げるために交感神経の働きを強めます。しかしβ遮断薬はその働きをブロックする作用があり、低血糖による動悸や震えなどの自覚症状も出にくくなる。本人が低血糖を自覚できずに転倒などが起こりやすくなるおそれがあるのです」
転倒による骨折で「その後のQOL(生活の質)が低下し、健康寿命にも大きく影響する懸念がある」と長澤さんは指摘する。
一部の糖尿病治療薬との併用で気を付けたいのが、重度の花粉症やリウマチなどの治療に用いられる「ステロイド(副腎皮質ホルモン)」だ。
「ステロイドには血糖値を上げる効果があり、糖尿病治療薬の血糖降下作用を打ち消してしまうことがあります」(同前)
また、処方例が多い脂質異常症治療薬の「スタチン系薬」では、同薬の血中濃度を半減させる「胃腸薬」が併用注意薬の一つとして挙げられている。