薬の飲み過ぎで不調のループ!? 減らしやすい薬の種類と症状リスト【医師監修】
厚生労働省の調査によると、1か月に1つの薬局から受け取る薬剤の数が5種類以上にのぼる人の割合は、40才から64才は4人に1人、65才から74才は3人に1人といわれている。75才以上になれば4人に1人は7種類以上もの薬を受け取っている。そもそもなぜ飲むべき薬が増えるのか、その理由を専門家に聞いた。
のむべき薬が増えていく理由とは?
病気を治し、健康を守るための薬だが、のめばのむほど体は蝕まれていく。薬はいわば化学物質の塊であり、それを複数飲み合わせるということは、体の中でミックスされている状態。服薬が2種類以上になると、どんな副作用が出るかは医師や薬剤師であってもわからないというのが実情だという。
振り返って考えれば、そもそもなぜのむべき薬が増えていくのだろう。医療経済ジャーナリストの室井一辰さんは、日本の医療制度にひとつの大きな理由があると語る。
「アメリカでは5剤以上の多剤併用が問題だとするルールが常識になりつつあります。
その理由として挙げられるのが健康保険制度の違い。日本のような公的な国民皆保険制度ではなく、民間の健康保険会社が中心で、『必要ない治療や薬は見直される』と考えるのが当たり前です。ところが日本はその逆。自己負担額が少なく医師の裁量権が大きいため“とりあえず”で薬を出す医師が多いのです。患者も薬を出してもらえることに安心感を覚えるため、その状態を望んでしまっているのが実態です」
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高齢者は注意!薬が招く負のスパイラル
そこには医師や薬剤師といった医療者側の思惑も交錯する。銀座薬局代表で薬剤師の長澤育弘さんが指摘する。
「調剤薬局としては、薬がたくさん売れた方がなんだかんだで利益が出る。だから薬剤師が処方箋を見て『なぜこの薬とこの薬が同時に出ているんだろう』と疑問に思ったとしても、処方した医師に電話して処方箋を訂正してもらい、さらに調剤報酬明細書を打ち直して…というのは面倒なうえに継続収入につながらない。多少の疑問があっても、結果としてそのまま出してしまう場合が多くなるのです」
こういった医療の仕組みや、複数のクリニックで出された薬を併用するからこそ「のめばのむほど体調が悪くなる」という状況が生まれてしまっているのだ。
「薬やめる科」を設ける松田医院和漢堂院長の松田史彦さんが語る。
「薬の副作用と知らずに体の不調を感じて病院に行き、その症状を抑えるための薬をもらってしまうケースもある。
例えば『内科で抗コレステロールの薬をのんでじんましんが出たのに、副作用と気づかず皮膚科に行きじんましんの薬を出され、その副作用で眠くなって転倒骨折し、整形外科へ…』と、終わらない負のスパイラルに入り込むケースも少なくない。
特に高齢になるほど体のあちこちに不具合が起きがちで、『あそこが痛い、ここが痛い』と言うと、医師もそれぞれに対応する薬を出してしまうという現実がある」(松田さん)
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減薬で認知機能が改善した患者の実例
薬の副作用を抑えるために、さらに薬が出ている──どう考えても健全とは思えないが、珍しいことではないようだ。たかせクリニック院長の高瀬義昌さん(高いははしごだか)は、減薬に取り組むきっかけとなった患者を振り返ってこんな実例を明かす。
「重い認知症を患った寝たきりの患者が来診したときのこと。それまでの経緯を調べたところ、4つの病院でそれぞれの薬局から出た薬を全部のんでいました。しかもそれだけではなく、薬の副作用を病気による症状と思い込み、さらに病院を受診するループに陥っていた。
『胃の調子が悪い』と受診した医師からはスルピリドという胃潰瘍の治療薬が処方され、それをのんだら副作用としてパーキンソン病のような症状が出て、別の病院で受診するとレビー小体型認知症だとの診断が下り、抗認知症薬が処方され──この薬によって薬剤性のせん妄が起き、歩けなくなってしまったのです。当院で徐々に薬を減らしていったところ、最終的には認知機能や身体機能が改善し、歩けるようになりました」
75才以上の4人に1人が7種類以上服薬しているいま、このようなケースは後を絶たないという。しかも昨今はコロナ禍がその後押しをしている。銀座薬局代表で薬剤師の長澤育弘さんが指摘する。
「患者側も病院側も、できれば受診を控えたいと考える状況が続いており、薬も『長期処方』の傾向が強まっています。これまではせいぜい1か月分程度しか出なかったのが、保険の通例的な上限である3か月分出すケースも多くなった。したがって、医師の細かいフォローアップもないまま、これまで出ていた薬をのまされ続けている患者も多くなっているのです」(長澤さん)
減らしやすい薬の種類と症状一覧
≪薬名/病名や症状/解説の順≫
●スタチン系製剤/高脂血症
「減薬しても問題が少ない薬剤。むしろコレステロールの基準値自体が厳しすぎるのが問題。筋力低下、筋肉痛、足のつりなど意外な副作用がある」(松田さん)
●ビスホスホネート製剤/骨粗しょう症
「減薬しても問題が少ない薬剤。骨密度は上がるものの、この薬で大腿骨骨折やあごの骨が溶ける副作用が出ることも。骨を強くするなら運動とビタミンD、日光が必要です」(松田さん)
●プロトンポンプ阻害薬、H2受容体拮抗剤/消化器系疾患
「複数の病院にかかると被りがちなのが胃薬。『薬の副作用で胃が荒れたときに』と安易に処方されることが多いが、たくさんのめばそれだけ負担がかかる。慢性の胃潰瘍が持病であるなどのケースを除けば胃薬は1種類あればいい」(松田さん)
●アンジオンテンシンⅡ受容体拮抗薬、カルシウム拮抗剤、ACE阻害薬、α遮断薬、β遮断薬/高血圧
「高血圧の改善には減塩などほかの手段も多く、測定もしやすいので、減薬しやすい。種類はもちろん、用量を減らす方法も推奨できる。1錠の用量を減らし、その分、錠数を増やして自分で管理する方法もあるため、医師や薬剤師に相談して実践してほしい」(長澤さん)
教えてくれた人
医療経済ジャーナリスト/室井一辰さん、銀座薬局代表・薬剤師/長澤育弘さん、松田医院和漢堂院長/松田史彦さん
※女性セブン2021年1月28日号
https://josei7.com/